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スタートアップ企業の「持続的成長」を考える

Ubie株式会社の"SAM"こと大原聡です。

長年の戦略コンサルティング会社での経験を経て、ヘルステックのスタートアップであるUbieに参画して、9ヵ月が経過しました。

過去の投稿では、Ubie入社の経緯や、行われている取り組み内容を紹介してきました。今回は視点を変えて、今後の直面するであろう局面や論点について、個人的な所感を書いてみようと思います。

まだ創設から約4年の会社なので、「持続的成長」を論じるのは、時期尚早かもしれません。しかし、Ubieの事業展開は通常にない速度で進むので、実はそれほど遠い話でもない気もします。

#これまでの動向

当初立ち上げた主要事業は、事業開発に置ける0→1(コンセプト作成)→10(原型確立)→100(拡販)の段階では5~10の後半から10を超えたあたり。いわゆるPMFを経てスケール化を開始したところです。

事業規模の拡大を執行する営業組織も立ち上がり、さらなる成長の加速に向けた次の資金獲得への準備も始まっています。
事業基盤のアセットを作ることに加え、実際の収益拡大やPL実績の強化に活動の観点が移りつつあります。

これまでの経過は、全体としてには概ね順調。一方、当然ながら懸念となりうるの兆候もいくつか見られます。

・一部の事業・顧客層ではプロダクトの利用が想定ほど進まず、トップラインの成長が加速しない
・取組み施策の幅や粒が小さくなり、単純で効率的な市場・顧客の獲得が次第に難しくなる
・スケール化に向けたオペレーションの型化や仕組み作りに時間がかかり、リソースも不足気味

これに対して、Ubieの掲げてきたビジネスと組織運営のモデルは、事業開発期における不確実性やスケール化への要件に対して上手く機能しているように見えます。

同時多発的に複数の事業開発を進めたことで安定収益を確保し、将来の成長拡大余地のシナリオを描いて投資家に訴求もできる
組織の柔軟性や機動性が高いことで、要所のフォーカスした運営体制を取ることができ、要員も迅速に補充することができる

(参考)ユビーの経営モデル

#今後起こりうる論点

ここまでは良かったとして、将来も不断なく成長を継続するには、何が必要なのでしょう。これからのステージでは、事業の環境がより大きく変化へするかもしれません。

立ち上げ期の全てが不明瞭な中では、「まずは創って売ってみて、すばやく検証する」のが最適な手法だと改めて理解しました。
一方、市場の姿が見え始めてからは、「代替オプションを幅広く評価する」ことで成果を高める局面があります。

他方で、持続的な成長の実現には、新たな価値創造の可能性を拡げ続けなければならない。リソースの投入量もありますが、新たな発想を生み出せるプロセスや人財の注入が重要になります。
従来の推進体制とは異なるアングルで思考する力が、必要となるからです。

スタートアップにおけるプロダクト・事業の新規立上げと、その後に続く事業拡大や多様化における不確実性と成功要件は、やや異質なものと私は考えています。

1. 多角的視点による事業検証

Ubieは、SaaSにおけるプロダクトアウト型の事業開発・運営を基本として、究極のスピードと効率化を目指してきました。

・自社プロダクトの提供価値は顧客にとって不可欠で、普遍的なニーズであるという前提
・CPF、CSFに時間をかけすぎず、早期にMVP(Minimum Valuable Product)を設定し、高速で仮説検証を回して改善を継続
・外部の市場や競合環境に関する不確実性は、フォーカスがぶれるので検証から除外
・個別顧客の要望には対応せず、完全に標準された営業・デリバリを提供して効率化

迅速な立上げにより、プロダクトや事業の最初の核は形成できました。
この立ち位置を原点に市場環境を見渡すと、どんな成長機会やリスクがあるでしょうか。

市場の知見や顧客との関係性が高まることで、新たな需要や付加価値が創造されるソリューション型事業の側面も見え始めています。
顧客接点の周辺業務を包括した抜本的なプロセス改変に加えて、デジタルビジネスでは顧客データの利活用による発展の余地は大きい。

また、プラットフォーム型事業として、多彩な事業間のシナジーにより本格的な成長機会も期待できるでしょう。
各事業の顧客を多面的に繋ぐことに注視すると、コアとなるプロダクト機能やユーザーの利用シーン、フローを大きく変えられる可能性がある。

市場環境や競合状況を俯瞰して大胆な打ち手をとることで、一気に情勢を変えるチャンスもあります。(逆に放置すると挽回できない恐れも高まる)
ソリューション化やプラットフォーム化を拡大すると、外部連携が早道で、成果を生むためのコラボレーション能力が鍵になる場面もある。

<多角的視点による事業検証の施策例>
・中期的な市場の変化動向(変曲点を含む)や自社ポジションの把握に基づく、客観的な成長シナリオの整理
・真の顧客ニーズと経済性評価に基づく、提供価値の再定義と事業・サービスの再構築
事業間の共通基盤や連関性を活用した、付加価値の拡大と新規事業機会の案出
・企業全体の収益最大化の観点からの、より徹底した事業間の目標と施策の整合化
・未獲得・市場劣位にある重要なプロダクト・機能に関する、他社との提携による抜本的強化

既に検討・実施されている部分もありますが、強い前提を元に進めてきた過程には見落としもあるし、市場は常に変わり続けます。
直面する課題にフォーカスして解決を継続することに加えて、次第に先の見通しと不確実性の理解がROIを高めていきます。

所謂ステージ・ゲートを廃して、一気通貫でアジャイルに事業開発を進めるUbieのアプローチは、スピーディかつパワフルです。
一方で、ドリルで深く掘り進むほど、引き返しや方向転換が行い難くなり、どこかで全体状況を俯瞰した評価が求められるのかもしれません。

スタートアップとして、これまでの展開手法を続ける中で、いつ、どのような形で、本格的な市場起点での発想を取り入れて行くのか。
あるいは、そもそも市場視点は、未来もあまり重視する必要がないのか。
個人としてとても興味があるところです。

2. 自律的な組織運営の拡張

Ubieの事業開発では、ユニークなフラット型の組織運営を採っていることは、以前にもご紹介しました。

固定的な組織構造を持たず、ホラクラシー(憲法)に基づいたサークルによる運営
・OKRによる活動のアライメントと、PMF管理やスクラムといった活動プロセスの型化
・情報の完全共有を前提とした、全メンバーの自発的な全社経営への参画の促進
ケイパビリティやカルチャーの同質的を徹底することによる、機動的なリソースの配置

いよいよスケール化の段階を迎えて、組織人員の数も拡大。上記のモデルが効率的に維持・機能できない懸念がでてきます。
このため、Ubieではスケールの追求に役割を特化し、事業開発とは別体系で運営される組織を組成しています。

事業開発以外の組織は、典型的な階層型組織で運営管理されることが想定されます。
事業開発過程で規定されたプロダクトと目標管理の仕組みに沿って、営業面を中心とした業務の執行を着実に行うという訳です。

機能・役割により複数の運営体系を持つことは非常にユニークで、合理的な考え方だと感じます。一方、将来の持続的成長を考えた場合、うまく機能し続けるでしょうか。

単純なプロダクトアウト型の事業であれば、事業拡大においても、活動効率のみを追求するやり方がずっと成り立つのかもしれません。
しかし、今後の事業展開がソリューション型やプラットフォーム型にシフトした場合、市場や顧客動向に応じた柔軟性や機動的行動が必要になります。

また、先述したように、将来の事業成長の種が市場起点での思考からも生まれることになるなら、市場・顧客フロントからの着想とインプットが重要になるでしょう。

結局、事業開発以外の組織においても、全社的に高い「自律性」が求められることになると思います。

<自律的な組織運営の拡張の施策例>
・ビジョン・価値観の共有とともに、全社的貢献の期待役割を各組織・メンバーに設定して、全体の求心力を保つ
・共通の価値感を持ちつつも、相互の役割や能力、アイデアを認め尊重するダイバーシティの風土を創る
・全社としてのプロトコールを構築して、合理的かつ快適な相互連携が取れる運営体制を整備する
・情報共有やコミュニケーションパスなど、自主的な判断を促進する環境を充実し、組織・メンバー間の心理的な障壁をなくす
・全ての組織・メンバーが自主的に課題を設定・共有し、全社としてラー二ングを継続するメカニズムを構築する

ミッションや役割が異なる場合、個別の運営体系で別々に組織を運営することは一理あります。

しかし、組織の分断で心理的な安全性やモチベーションを下げるようなギャップがあれば、いずれ生産性は下がります。
また、関与できる責任範囲が限定されると、多様な局面で判断・マネジメントができる有能な人財層も興味を失いかねない。
自律性が高まらない組織では、適切なデリゲーションが進まず、いつまでもリソースのレバレッジが効かない状態が続くでしょう。

典型的な大企業においても、階層型組織マネジメントの刷新が取り組まれていますが、一度しみついたの体質はなかなか変えられません。
スタートアップでは、ゼロベースで組織マネジメントを設計、変容させることも容易なはずです。

超アジャイルの前提である高い自主性をDNAとするUbieだからこそ、自律性を備えた大規模組織も形成できるのではないかという期待があります。

スライド2

#最後に

ビジネスと組織運営の両面において、スタートアップの持続的成長の実現には「双極性」を併せ持つ経営が必要になりそうです。

それは、事業ステージや組織構造によって明確に定義したり切り分けられるものではなく、行ったり来たりを繰り返して転換していくのでしょう。

スタートアップであるUbieがいかなる道筋を辿るかは、まだ分かりません。
しかし、本物のアジャイル経営の企業であれば、より高次の経営思想・モデルのレベルでも、ボトムアップで機動的に軌道修正して行けるのかもしれませんね。

これから、どう変容、進化していくのか、とても楽しみです。

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