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断髪小説『契約結婚』

あらすじ

結婚するときにお互いが出した契約条件があった。その契約を守ろうとしない妻の三佳みかに夫の真也しんやは痺れを切らし、ある賭けの条件を出す。その結果は・・・。

小説情報

文字数  :4293文字
断髪レベル:★★★★★
キーワード:夫婦、家庭散髪、夫が断髪フェチ
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本文

 ジャーと蛇口から水を出しシンクで洗い物をする。今日は休日で夫の真也しんやと二人でお昼を食べた後だった。妻の三佳みかと真也は結婚して三ヶ月が経つ。だいぶ二人での生活に慣れて来た頃だった。

「なぁ、髪はいつ短くするんだ?」

 やぶからぼうに夫から聞かれた。

「え?あぁそうね。今度、美容院に予約するわね。」

 そう言ってはぐらかす。三佳の髪は背中を覆うくらいの長い髪である。結婚式の為とはいえ、せっかく伸ばした髪を短くするのは、なかなか抵抗があった。三ヶ月間、何かと誤魔化して来た。

――そろそろ誤魔化すのも限界かしら。

 夫の雰囲気が一瞬で険悪になる。

 「先月も同じようなことを言っていたが、契約を忘れたわけじゃないよな?」
 「も、もちろんよ。」



 真也と三佳は契約結婚だ。三佳の条件は専業主婦でいられて結婚してくれる男性を、真也は自分の好みの髪型にしてくれる女性を探していた。どちらも周りが結婚し始め、両親からせっつかれて、仕方なしに結婚相談所へ登録したという経緯があった。

 とある婚活パーティーで同じ境遇に意気投合し、いっそ結婚してしまえばいいと互いの契約条件を話し合い結婚に至った。他にも色々と条件はあるがメインは先程の二つであった。



「よし、わかった。じゃあこうしよう。今日、三佳の贔屓ひいきの球団でデーゲームがあるよな?」
「え、えぇ」

 三佳は地元球団の熱心なファンだった。今日はホームゲームの日だ。

「今日贔屓の球団が勝てば今月中に美容院で髪を切る。負ければ今日俺が三佳の髪を切る」
「ええっ!?そんな急に……」
「急? 結婚前から決まっていたことだし、さらに結婚してから三ヶ月がたった。十分な時間だと思うけど?」

 問い詰めるように言われる。それを言われると身につまされる。

「そ、そうだけど……」

 誤魔化して来たことに罪悪感があり、語尾が小さくなる。

「それに今年は強いんだろう? なら今日も勝てるだろうから猶予ゆうよはあるだろう?」

 確かに今日の相手は連敗中の最下位のチームだ。贔屓の球団は先発投手せんぱつとうしゅが今シーズンの勝ちがしらでまず負けることはないだろう。

「わかったわ」
「いいだろう。引き分けたらまた明日の試合でな」



 試合が始まり、テレビの中継をつける。二人でリビングのソファに座り野球観戦をする。投手戦となり、六回までスコアレスだった。どちらのチームもあと一本が出ず、残塁ざんるいが続きホームの遠い展開だ。

 試合が動いたのは七回の事だった。七回表の守備で打者が三順目に入っていた。テンポよく投げていた先発投手が捕まるようになった。先頭打者に安打を許した後、制球せいきゅうが定まらなくなった。次の打者は何とか打ち取るも、後続の打者に連続で四球しきゅうを与えた。一アウト満塁まんるいのピンチとなる。

――守りきって。お願い!

 胸の前で手を合わせて、テレビの前で必死に祈る。その祈りも虚しく、二点適時打てきじだを浴びた。先発投手は降板こうばんし、中継ぎへと継投けいとうした。

 七回裏の攻撃、代打のソロ本塁打ほんるいだで一点を返したものの、八、九回裏の攻撃は相手チームのセットアッパー、抑えと勝利の方程式で見事に抑えられた。

――ま、負けた。嘘でしょ……。

「終わったな。わかってるな」

 頭をポンポンと撫でて、夫はカットの準備を始めていた。



 呆然ぼうぜんとしていると準備を終えたらしい夫から「座って」と促された。夫の有無を言わさない雰囲気に逆らえず、ふらふらとした足取りで椅子に座る。ケープを巻かれ、髪をとかし、霧吹きで湿らしていく。目の前にはスタンド式の姿見が置いてあった。

――ほ、本格的だな

「ね、ねぇどのくらいの長さにするの?」

 どうなるのか分からないのは流石に不安である。

「そうだな……。焦らされた分、かなり短くなるかもな」

 ニヤッと悪い笑みを浮かべている。

――ひぃっ!?

「お、お手柔らかに」



『ジョキ…ジョキ、ジョキン』

 おもむろに後ろの髪を一掴みして、ハサミで切られた。襟足ギリギリのところにハサミが当たっている気がする。束になっている切られた髪をこちらに見せびらかして、ひざの上のケープにパサッと落としていく。

――ぎゃー!!切られた髪が長い!!

 切られた髪はゆうに三十センチ以上はあるだろう。

『ジョキジョキ、ジョ…キ』

 夫は髪を切っては、次々と切った後の髪を膝の上に落としていく。

――一体、どのくらい切れば気が済むの!?

 驚きで目を見開くばかりだ。膝の上には黒々とした髪がどんどん溜まっていく。ケープが膝の間にたるみを作り、正直かなりの重量を感じる。気付けば不揃いの顎先あごさきのボブになった。

「バッサリ切るのは気持ちいいな」

 夫は楽しそうである。自分とは対照的にいつもに比べて声も表情も明るい。

「な、なんで短くしたがるの?」
「俺、断髪フェチで、女の人の髪をバッサリ短くすることに興奮するたちなんだよね。」

――フェ、フェチ!?

 三佳にとってまるで理解できなかった。

「まぁ、理解できないだろうし、気持ち悪いのかもしれないな。でも契約だから守ってもらう」

 サイドの髪を掴んだかと思ったら生え際から数センチといったところで、ハサミが入る。

『シャキ、シャキン』

――そ、そんなところで切ったら、刈り上げになっちゃう!?

『シャキ、シャキ…シャキン、シャキジャキ…』

 三佳の驚きなど意に介さない様子で耳の後ろや襟足の髪、後頭部の髪を、手で掴んでは次々と切っていく。両耳はあらわになり、顎にも首にかかる髪の感触は無くなっていた。

――これじゃあ、男の人みたいだよね

 もしかしたら、男の人よりも短いのかもしれない。

「だいぶ後ろはスッキリしてきたな」
「ま、まだ切るの?」

 恐る恐る聞いてみた。そろそろ終わりじゃないかと淡い期待もあった。

「そうだな。まだまだだな」

 ――まだまだって、どこまで短くするのよ!?

 トップの髪を掴まれる。トップの髪はまだ長めに残っていたのだ。

――う、嘘、そこを切ったら、もう……!

『…ジョキン、ジョキ…ジョキン』

 無常にもハサミが何度も入った。ツンツンと髪が立つようになっていった。

「っ……!」

 思わぬ出来事に言葉を失った。今の夫よりも全然短い。前髪も生え際近くで切られていった。

「これで長い髪がなくなったな。」

 長めの虎刈りといった感じだ。

――私の髪はもう……

 とショックで鏡を直視できず俯いていた。急に背後からヴィィィーンと大きい音がした。

「な、何?」

 ハッと顔を上げて鏡越しに夫を見る。

「刈るぞ。」
「えぇっ!?」

『ジジジ、…ジョリ、ジョジョジョリ』

 襟足にバリカンが当たる感触がした。

「いっいやぁーーー!!」

 叫びも虚しく、バリカンは後頭部まで進んでも止まる気配がない。どんどん上へ登っていく。つむじのあたりまでバリカンの感触がした気がした。また襟足からバリカンを同じように入れられる。

「やめてーーー!」

『ジョリ、ジョリジョリジョリ…』

 刈り跡を広げるようにつむじまで刈り上げてくる。

「こんな揃ってない状態でやめていいのか?」

 夫は意地悪く言ってくる。

「きれいにするにはもう、全部バリカンで刈るしかないからな」

 そう言い、後ろの髪をひたすらバリカンで刈り上げていく。バリカンで刈られることに「うっうっ……」と涙が込み上げてくる。

「泣きながら刈られてる姿はそそられるな」
「変態っ!!」
「自覚してるよ。断髪フェチとはいえ、俺だってさすがにここまでするつもりはなかった。だから何度も短くするのはいつだって聞いたろう?」
「私が悪いって言うの?」

 自業自得なのはわかっているが、売り言葉に買い言葉だった。

「契約だからな。約束を守ろうとしなかったのは三佳だろう?早めに美容院に行っていればよかったんだよ」

 夫の言う通り早めに切らなかったことを後悔し始めていたがもう遅かった。

 バリカンをどんどん進め、側頭部の耳の上にバリカンで刈られていく。

――髪がこんなに短く……。これじゃあ、もう……

 夫よりもかなり短いことを見せつけられる。反対側も同じように刈られていく。

 ふいに刈り上げられた頭をジョリっと夫の手で触られた。

「っーー!!」

 地肌に触れられる感覚にゾワッと変な感じがして身じろぎする。

「後ろはほぼ坊主だな。」

 その言葉にショックを受けながらも、ほんのり体の奥が熱くなる気がした。

――何これ。坊主は嫌なはずなのに……

 三佳のそんな気持ちを知ってか知らずか、「どうせなら五厘にしよう」と言ってくる。

――五厘ってあの青々したやつ?

 カチャカチャとバリカンのアタッチメントを外し、こめかみから三佳に刈り跡を見せつけるようにバリカンを入れてくる。バリカンが通った後は頭皮がき出しとなった青々とした畔道あぜみちができていた。

「やっぱりすごいな」

 そう言いながらどんどん頭を青々と刈っていく。後ろ半分くらいまで刈られる頃には三佳はすっかりバリカンの感触に慣れていた。

――どうしよう。バリカンが気持ちいいなんて

 自分も変態になった気分になる。残り半分も容赦ようしゃなく刈られていった。

「もう髪はここしかないな」

  残された髪は頭頂部のみになった。

「どうする? 残すこともできるし、続けることもできる」

 そう言ってバリカンを見せびらかしてくる。

「途中からバリカンが気に入ったんだろう?」

 バリカンに感じていたことを見透かされて、恥ずかしくなる。顔を赤くしながら「全部刈って」と夫にねだっていた。

「いいぜ。クリクリの丸坊主だな」

 嬉しそうにそう言うや否や、額のど真ん中からバリカンを入れられた。

『ジジ、…ザザザザッ、ザリザリッ』

「もう後戻りできないな」

 頭頂部にしつこいくらいバリカンが滑り、髪を全て散らしていった。バリカンを頭に当てられている時はずっと、感じている自分に驚きを隠せなかった。



 顔とかについた細かい髪を払い、ケープを取り「終わったよ」と言われた。頭を執拗に触られる。なんとも言えない感触がする。

「こうやって頭皮を触られてるのも、気持ちいいんだろう?」

 耳元で囁かれた。見事に夫の術中にハマった気がした。これから先も、ずっと夫にバリカンで刈られ続けるのだろう、そんな気がした。

後書き

強制ではなく、でも問答無用で坊主にする話を書こうとした結果、こうなりました。
賭けの対象が野球なのは、他に書けそうなものが思いつきませんでした💦
二人でできるゲーム、囲碁とか将棋とかオセロとかあると思うのですが、それを描写する知識もスキルもなく……。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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