いきものがかりが喰らうのは未来だけさ

今年の春は、やけに物騒なものになってしまった。


未知のウイルスのおかげで、アーティストのライブは軒並み延期か中止、僕たちは外出することまでも規制されてしまっている。

僕の大好きないきものがかりも、そのあおりを受けている。参加予定だったライブツアーは、延期になってしまった。中止ではなかったからいいものの、いつ事態が沈静化して、いつ振替公演が行われるかなんてまるで想像できない。ファンもそうだが、何より、ステージに立つアーティスト、そしてアーティストを支えるライブの関係者達が、一番歯がゆく感じているだろう。


そんないきものがかりは、2019年に復帰後初のアルバムとなる「WE DO」を発売した。かつて国民的アーティストとして頂点まで登り詰めた彼女らが、放牧という活動休止期間を経てまた新たなステージへ目指すという、覚悟と決意がひしひしと伝わってくるアルバムになっている。

とくに、このアルバムのリード曲であり楽曲名がそのままアルバムタイトルにもなっている楽曲「WE DO」からは、今までのいきものがかりの曲作りとはまた違うメッセージが込められていた。

いきものがかりがデビューした2006年から、活動休止直前の2016年まで、いきものがかりは数々のバラードを世に送り出してきた。そのどれもが不朽の名作となり、今でも歌い継がれている。

そういったバラードの多くは、同じ歌詞構成になっている。
あくまで曲の主人公は、曲を聴いてくれている誰か。その誰かとは人によって様々だ。誰の人生にも寄り添えるような普遍的な歌詞を、分かりやすいメロディーにのせて届ける。誰の人生にも平等に響く、誰の耳にも平等に語りかけてくれる曲がいきものがかりの強みだった。そうして、数々の大型タイアップや紅白歌合戦9年連続出場など、国民的アーティストとしての責務を全うしてきた。

しかし、「WE DO」は、強烈にアッパーなロック仕立てになっていて、歌詞は、いきものがかりとしての決意を感じ取れるものになっている。

"ほんとはね いつだって 私たちが主役なんです"

"WE DO 誰も知らない 
WE DO わたしたちの
WE DO 時代をつくりだせ"

曲中に繰り返し出てくる「WE DO」の訳は、今までの曲のような聴き手の誰かというわけではなく、まさしく「いきものがかりの三人は」なのである。


冒頭でも触れたように、いきものがかりのツアーは軒並み延期となった。そして実は、2019年の夏にいきものがかりは復帰後初の屋外フェスに出演する予定だった。が、残念ながら台風の影響で中止となってしまった。
いきものがかりが最後に出演した音楽イベントは復帰直後のファンクラブツアーであり、一般のライブとなると2016年まで遡ってしまう。こんなにも長い間、いきものがかりは音楽をファンの前で披露できていない。

それだけでも大変なのだが、更にいきものがかりは今年三月に前事務所から独立し、新たな事務所「MOAI」を立ち上げた。メンバーの3人ともそちらに移籍した。本来であれば、新たな体制、新たな環境を整えた上で全国ツアーをスタートする予定だったのだ。

先行きの見えない自粛ムード。新たな活動体制。そして結成から20年という積み重ねられた歴史。この数々の分岐点や障壁が、今のいきものがかりには立ちはだかっている。
かつて国民的アーティストとしてその地位を確立したいきものがかりが、また「世間のスタンダード」を狙いに行く。



新アルバムに収録されている「しゃりらりあ」という曲の中に、こんな歌詞が出てくる。


"僕らが喰らうのは未来だけさ"

「しゃりらりあ」もまた、「WE DO」のようなかなり攻めた曲になっている。初めてこの歌詞を聴いたとき、僕はとてもワクワクした。本来であれば「僕らに待ち受ける」や「僕らが目指す」という文言がJ-POPでは使われがちだ。
しかし、いきものがかりは、未来を「喰らう」のである。たったひとつの動詞の違いではあるが、どんな未来でも覆してやるという、いきものがかりの並々ならぬ決意をそれだけで感じてしまう。

この現状、未来を喰らっている人々は大勢いるだろう。僕もその一人だ。そして、いきものがかりも、まさに未来を喰らっている最中であろう。

先日、僕は4月26日に行われるはずだったいきものがかりのライブチケットを発券してきた。チケットは手元にあるのに、ライブには行けないというのは、ものすごく悔しい。
それでも、いきものがかりが「WE DO」と自らを奮い立たせ、僕らに勇気を与えてくれるなら、どんな未来でも喰らってやろうと覚悟できる。
早速、新曲「生きる」が世に送り出された。今回紹介した「WE DO」や「しゃりらりあ」とは対極に位置する、いきものがかりらしい王道のバラードだ。また、吉岡聖恵の声に国民みなが酔いしれ、いきものがかりの歌が街中に溢れ出す未来がやって来るだろう。
2020年のいきものがかりに、目を離してはいけない。



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