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【感想】君はヒの魔法使い@ウディコン#12

【64】君はヒの魔法使い 短編(1時間~)制作:うどんのたまご 様
に関する感想です。ネタバレあります。全エンディングと、過去作特典を含む全ページを見ています。
まとめ記事へのリンク


~お薦めポイント(ネタバレ抑え目)~

臨場感のある美しい文章とゲームブック風システムの調和が魅力的なノベルです。

第一印象は、ここまで読み手を惹きつける情景描写は滅多にない!です。
そもそもゲームブック風のゲームは数が少ないので、それだけでも雰囲気を高く評価したいです。
丁寧さと簡潔さを兼ね備えた文章はゲームブックにピッタリです。
加えて、このゲームのポイントは幻想的な1枚絵が付いていることです。
たった1枚ですが、イラストが醸し出す雰囲気が、まさに文章の雰囲気とマッチしていて、情景がありありと思い浮かべられます

お話自体は、後述する魔法の設定が特殊な点(重要!)を除けば、比較的ありふれた中世風ファンタジーです。
ただし、雰囲気作りがとても上手なので、素晴らしい読後感を味わえます。
悲しいエピソードもありますが、最後は友情モノのハッピーエンドです。
※捻くれた選択をすると、童謡に出てくる程度の残酷な展開になります。

ゲームブック風、かつプレイヤー自身でのマッピング推奨な構成は、あえて不便になっています。
最高に雰囲気を盛り上げる白地図が手に入りますので、必見です!
好きな人にとってはたまらなく没入感が増す良いスパイスです。
この要素が、自分の意思で冒険をしている感覚を強くし、王道の物語を唯一無二の体験へ昇華させています。

さらにシステム面では、漢字魔法という独特な設定が最大限に活かされています。
漢字の画数をゲームブックのページ指定に使うというのは見たことがありません。
しかも、漢字の持つ性質を使って、この設定でしかあり得ないオリジナリティのある展開を描いているのが驚きです。
この設定を謎解きにまで応用しているのですから、余すところなく活用したと言えるでしょう。

謎解きはかなり歯ごたえがあります。
ハッピーエンドを見るのはさほど難しくないですが、全ての謎を解くには、高い観察力と柔軟な思考が要求されますので、ぜひトライしてください。

ゲームブックなので、ズルをして先のページを見ることもできてしまうのが、また遊び心があって良いですね。

~良かった点など感想(ネタバレ全開)~

本当に文章が読みやすくて、感動してしまいました。
たぶん好みにドンピシャなんです。良質な小説を読んでいる感じですね。
この手のゲームはほとんどないと上で書きましたが、補足します。
ゲームブック自体は、児童向けのものしかやったことはありません。
ゲームブック風の語り口で私が知っているのはフリゲだとRuina、商業だと世界樹の迷宮シリーズくらいです。
※上記をゲームブック風と呼ぶのが正しいかも分かりませんが。
比較する気はないですが、こういう雰囲気は好きだなあと感じました。

プレイする大きなきっかけになったのは、イラストです。
この雰囲気は絶対面白いからプレイするぞと一目で決めていました。
実際に期待以上でしたね。冒険ファンタジー小説が大好きなので、挿絵と文章から想起される情景の虜になりました。

最初はゲーム性にはそれほど期待せず、軽い気持ちでプレイしていましたが、無事に迷子に(一応最深部には着きましたが帰れない)。
これは思ったより硬派なゲームだぞと思い直して、2周目はマッピングしながら進めました。
このマッピングが凄く楽しいんですよね。
あー、そこがそうやって繋がっているのかという感覚。
物語の雰囲気にベストマッチな白地図にも感動で震えましたが、自分で手探りのマッピングが一番楽しいです。

物語としては、主人公に感情移入できる作りが巧みですね。
プレイヤーにはラザルを助けに行くモチベーションは全然ないんですよね。
そして、最初は主人公もそうなので、気持ちに一体感がある。
ラザルの置かれた境遇や、バッドエンドでの心の叫びを聞くうちに、彼を救いたいという気持ちが強くなってきます。
初見でハッピーエンドはもちろん難しくはありませんが、半分くらいの人はバッド側に行きそうな気がします。
気持ちが主人公とシンクロした状態でのハッピーエンドには、実際にプレイしないと分からない価値があると思います。

漢字魔法を使って、2人の魔法が組み合わさる展開は完全に予想外でした。
激アツです!
なんで青が攻撃?という些細な疑問を吹き飛ばしました。
漢字の設定を完璧に使いこなしていて、素晴らしいです。
その後の説得で、「こんなのは友達に使う魔法じゃない」というシンプルな一言がかなりグッときました。ごめんよラザル。

道中の謎解きはとても難易度が高いですね。
正直ちょっとズルをしてしまいました。妖精さんには気付かなかった。
追憶の暗号にも設定が活きていて、なるほど!という思いです。
あとがきが隠されているのも遊び心があっていいですね。
謎解きで到達できるパラグラフなのかが気になって、全パラグラフの到達可否検証を始めてしまうくらいに、この作品が気に入りました。
既読未読表の存在で遊び易さもしっかり確保されています。
作者様のご回答によると、あとがきだけは「浮いて」いるのが仕様とのことで、スッキリです。

エンディングは、どれも個性的で良いですが、ラザルがレストランを開業しちゃうのがめちゃくちゃ好きです。

~気になった点など感想(ネタバレ全開)~

この作品に関して気になったことは、ほぼありません。
人を選ぶとは思いますが、ハマれば隙のない作品だと思います。

強いて挙げるなら、主人公の気持ちを積極的には描写しないため、やや淡泊な読み味になってしまっていることくらいでしょうか。
これは一方で、読みやすさ、爽やかさにも繋がっているので一長一短ではあります。

パラグラフ入力は、数字クリックでテンキーから選択、矢印で位の繰り上がり、繰り下がりありだと、ゲーム性を保ちつつ操作性が向上する気がします。

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