なんでわたしは今の仕事をやめたいのか

 まだ私は大学院生やった。博士後期課程の3年かなんかで、いよいよ次の学費を払ったら貯金が底を尽きてしまう、というところまできてた。好きで選んだはずの院生という身分がすごく重くなってた。自分で何か決めて、自分でやって、自分でどっかに出して認めてもらって、それを自分の成果としていく、っていうやりかたが負担になってた。高専の非常勤ふくめ色んなバイトというか仕事みたいなことをやってなんとか日々つないでるような感じやったけど、それならいっそもうそういうのだけで暮らしていったほうが楽なんじゃないかと思い始めた。そのころから今のMMZとつきあいはじめてて、すごい好きってわけではなかったけど「このひとを心のよりどころとして生きていけたら今よりは楽な気がする」的な考えで、すくなくともいったんは同居する、というのを仮のゴールに設定してそこを目指しはじめた。目指しはじめてたような気がする。

 で、院も学費未納で退学処分になり、へんな会社につかまってますます心を落ち込ませたりして、いよいよやばい、となったときに、やっぱいちおう友達もいる福井に帰ろうかな、という気になった。今になってみると結局ほとんどその友達とは会ってえんし地域としてもそこまで好きになれんしで福井にわざわざ来ることはなかったんかな、と思うけどそのときはそれがまあましに思えたしそのことはしかたないと思う。仕事を選ぶときに考えてたのはとにかく創造性とかいうのと無縁そうな単純な仕事ってこと。受けはじめて1個目か2個目かで受かって、入った。

 わたしは気になりだすと納得いくまでつっこまんと気がすまんのやろと思う。院に入ったのも・・・・というか、研究したいと思ったのも、けっきょくは「気になって仕方ない」ってだけやったんやと思う。そういうのってオヤツがあったら食いきるまで食ってまうのとおんなじなんやと思う。治らんのやってな。我慢すべきかもしれないことにたいしてタガが外れてしまう。我慢すべきかどうかとかいう考えがなくなる。んでまた、わたしは「気になる」「食いたい」以上の気持ちがない。発表したいとか自分自身で発見したいとかそういうのがない。なるほどー、おわり、食ったー、おわり。だから研究には(少なくとも研究職には)向かんかったんやろと思う。朝に道を聞かばゆふべに死すとも可也の根性。わたしには先というものがない。

 会社はいってすごい楽やった。いや仕事自体ある程度きついこととかもあったりはしたけど、まあそこまでではなくて、何よりやることが決まっててそれやってればそれだけでいい、っていうのが楽やった。身分も安定してきたということでMMZを呼び寄せていっしょに暮らしはじめて、なんかそれまで思ってたよりすごいいいかんじですごい好きになって結婚した。仕事があって、MMZがいて、っていう軸がはっきりしててすごい楽やった。MMZもやさしいしかわいいし。

 仕事をやめたくなってしまったのは、自分でコントロールできる割合が少なくなってしまったからではないかと思う。ゴタゴタを何とかするために異動があって、入って4年しか経たんのに(というか、2年しか経ってないうちから)こいつはこれができる・こいつしかやらせられないみたいな理由で色々やらされ気がついたら50人の頭に立たされ、なんでもかんでもこれ頼むあとのことはお前が考えろ、なんかあったらお前のせい。現場は現場で、手順を守らない一大派閥とか、全員に均等にある程度以上の量仕事を割り振ることを目指す仕切り係とか(割り振れないときは他を休ませようとまでする)。そういうのに囲まれて、いつも精神的に何か追われているかのような気分になりがち。いやになった。

 給料もぼへぼへやってた時期とあんま変わらんのやってな。場所を移った関係で残業30時間こえるのが普通になってそのぶん残業代が増えはしたけど、それ以外やとみんなと5,000円しか変わらん。じゃあみんなとおなじがいいんやけど。でも私がやらなければどうにもならないこともあるのでやってる。それがイヤんなった。自分の価値は低めに見積もったほうがちょうどいいくらいやと思ってるし自尊心みたいなのもそんなにないと思ってたけど、さすがに毎月17万ちょっとではなあ。17万ならもっと楽なのがいいし、こんだけやらなあかんのなら20万くらいはほしい。

 幸せっていうのは幸せやと思ってるからこそあるもんやと思う。十分条件ではないにしても。いまが最低に不幸な状態ではないけど、いややなーつらいなーと思いながらやってたらもったいない。いつか死ぬんやで。できるだけ長いこと満足した豚でいたい。ぶうぶう。意識とか生活じたいを変えることはできんし、できたとしてもそれは自分を洗脳してるだけやろう。豚やと思い込むんではなくて豚として生きるしかない。幸せやと思ってたいなら、いまより幸せになりたいなら、けっきょくのところは、少なくとも、やってること変えるしかない。そこからしか始められん。

 まいにちが楽しいってことがゴールなんやってな。それ以上のことはわたしにとっては何もない。だから、MMZといて、片足はもうゴールに足つっこんでる。でももう片足あるやろうと。両足からどっぷりゴールにつっこめるなら、わたしはやっぱりそっちのほうがいい。それがいい。

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