ことば(言語学、日本語学)にかんする本10選

 予定してたN選シリーズではこれが最終章。これは自分の専門にも近いのでかなり悩んだ。悩んだので、基準を決めた。
 ・著者ひとり
 ・各論ではなく総論っぽいもの、言語・日本語学・ことばについて概観できそうなもの
 ・論文集というよりはひとつの本(著作)になってるもの
 まあそれでも考えたけど、結果でてきたのが以下。なんかぶっとい本が多いけど、けっきょくぶっとい本のほうがわかりやすい(いやでも得るものが多くなる)と思う。

1.ジャッケンドフ『言語の基盤』
2.時枝『国語学原論』
3.トマセロ『ことばをつくる』
4.ピンカー『思考する言語』
5.レイコフ『認知意味論』
6.ラネカー『認知文法論序説』
7.渡辺『国語構文論』
8.寺村『日本語のシンタクスと意味』
9.金『談話論と文法論』
10.河野『文字論』
(11.山田『日本文法論』)

 詳しくは以下。

1.ジャッケンドフ『言語の基盤』
 これは入門的な。初学者むけかはともかく網羅的な入門書であることはまちがいないと思う。内容もいわずもがなよい。いわゆる生成文法よりではあるけどそれもこみで(生成文法系の研究はものすごい量と質なので)いいと思う。

2.時枝『国語学原論』
 これは悩んでた。最初は時枝じゃなくて山田孝雄の『日本文法論』入れてた。なんというか、自分で何か(ノート、論文等)書くってなったとき、山田孝雄を引用することはありえても時枝を引用するってことはないかなーと思って最初は『日本文法論』の方を入れてた。なぜあっちを外したかは後述。
 なぜこっちを入れたかというと、やっぱなんだかんだ洞察がすごいのがまずひとつ。全体的に、全般的に。で、次が長くなる。
 すくなくとも山田孝雄以降、「何がそれ(たとえば名詞句)を文にするのか」みたいな問題があって、それにいま一番かんたんにわかりやすくこたえるなら「文と発話とはそもそも違う」ってことになると思う。でもそれで山田の喚体とか時枝が何かいおうとしてたこととかを言い得た気はあんまりしない。要は「「何がそれを文にするのか」みたいな問いで問おうとしてたこと」はそもそも「何がそれを文にするのか」という問いで言い得てはいない。適切な問いではなかったにせよ、問おうとしたそこのとこには確かにまだこたえられていない謎がある。
 それはたとえば今回9に選んだ金の談話論文法論ですらこたえられてはいないかもしれないぐらい根が深い問題で、むしろ今回挙げてるなかやとラネカーとかピンカー、ジャッケンドフとかの力を借りなあかんもんのような気もする。
 で、そうした問いをまずなんとなくでもわかる、っていうことのために、このエッセンスがわかりやすく詰まった『国語学原論』はやっぱり読んどいたほうがいいんじゃないかと思った。
 なんで入れたくなかったかというと、なんかわけわからんひとたちにわけわからん読まれかたをされがちな、ひとをなんかすごいことに気づいた気にさせる教育上よろしくない面がある本なので。はい。

3.トマセロ『ことばをつくる』
 これは初学者むけでもある入門書になりうる。議論のネタ、説得力がすごい。今回のなかでもおすすめ度が高い。

4.ピンカー『思考する言語』
 これも初学者むけ入門書で、内容もしっかりしてる。ピンカーはやっぱすごいし安心できる。ただ訳がクソ。原文読んだりせんであんまり訳がクソとか言いたくないけど、ピンカーのNHK出版のやつは理解を妨げるレベルで訳がクソ。あやしいところが気になったら原文あたったほうがいい。訳のひとこういうの専門のひとじゃないんやってな。

5.レイコフ『認知意味論』
 鉄板。おまえジャッケンドフとかピンカーとか入れといてこれも入れるんかって言われそうやけど、入れる。語とか意味とか文法とかいうものがどううまれ変化し使われてるかってのを考えるとやっぱこうなると思う・・・少なくともこの視点は外せんと思う。

6.ラネカー『認知文法論序説』
 日本語で読めるラネカー。いやまじありがてえとしか言えん。図・地、参照点、プロファイル・・・広くいわゆる視点みたいなのを考えるうえでものすごい力になるし、レイコフ同様、そういうみかた・構造みたいなのがこんなふうにいきてるんやっていうのがすごいわかる。読むべし。

7.渡辺『国語構文論』
 国語学の系譜みたいなののなかでわかりやすく体系化されてるものとしてはこれが最新・最高・最終なんかなーと。尾上圭介は本っていう単位でみるといまいちまとまってないので。これもやっぱり個々の分析がすごい優れてるっていうのがある。ある意味では山田孝雄とか時枝とかより読む価値ある、間違いなく。

8.寺村『日本語のシンタクスと意味』
 各論は省くとか言ってたけどこれは最初から入れるのが決まってたので当然のように入れる。これ入れんやついたらモグリやろ。『存在と時間』は未完でもそのことによって価値が損なわれたりしてない(少なくともある意味では)と思うけど、これは未完なのがまじ痛い。

9.金『談話論と文法論』
 最高。すごい。以上。
 気になるところがまったくないでもないけど、ある種の興味のもちかたしてるひとにとっては最高到達点のひとつなのは間違いないと思う。ピンとくるひとにはタイトルだけで伝わると思う。そういう本です。

10.河野『文字論』
 これ総論なんか? と思わんでもないけど、これも入れるのが決まってた。おすすめ度でいうと一番かもしれん。これこそグラマトロジーやと思うんやってな。なんかおしゃれな言語論みたいなのが好きなひとこそ読んでほしい。厳密さ、質、深さ、もうそういうので言って圧倒的。畏敬の念。読んでほしい、読まれてほしい。

11.『日本文法論』
 10選から外した。なぜか。あらゆる意味でハードルが高い。百年前の本やし、1,500ページやし、中古で買うと2万~するし、そこらの図書館にはそもそも置いてねえ。おすすめする意味がねえ。そのことに気づいて即外した。
 内容は伊達じゃねえ。すごい。やっぱひとつひとつの分析・洞察がすごい。個々の分析から体系にいたる道というかその考え(?)がすごい。『日本語のシンタクスと意味』とかと同じで、ある意味もう古くならん古典的すごさがあると思う。時枝が古くなっても山田孝雄は古くならんというか。まあこのひと自身はまあちょっとわけわからん本かいたりもしてるけど。いわゆるコピュラが日本語では「~は…だ」のかたちであらわれるってことを考えたことがあるひとは多いやろけど、山田も百年前にもう考えてる(P647あたりから)。
 ちなみに今はまあ便利な時代で、pdfで読めるようんなってた。まじありがてえ。諸氏はぜひ読まれたし。
 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/992499

 おすすめ度についてちょっと触れたけど、ほんとに興味あるなら河野六郎、金珍娥、トマセロあたりはほんとにおすすめ。初学者むけかはともかく、わりと読みやすく、読みやすさに対しての深さがすごい。

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