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そのユーザーファースト、本当にユーザーファーストですか?

こんにちは。クックパッド デザイン戦略本部長の宇野です。

いきなりですが「ユーザーファースト」って良い言葉ですよね。サービスのあり方の基本であり、モノづくりをしていてそれを無視したいという人はいないはず。

しかし僕はこのユーザーファーストという言葉をあまり使わず、使う際は慎重に取り扱うようにしています。この言葉の概念はとても難しいと考えているからです。

「ユーザー」って誰のこと?目の前にいるユーザーの話をそのまま取り入れれば必ず良いものが作れるの?

答えは明確にNoです。

当然ですが無視するべきという話ではありません。ただ、向き合ってるユーザーがどんな人なのか、その人が本当に欲しているものは何なのかを徹底的に考え抜く必要があります。

お問い合わせをしてきている人はだれ?

ユーザーからのご意見やお問い合わせ、アプリストアのレビューはとてもありがたいですよね。そこから新たな改善案をもらったり、思わぬ設計ミスに気づけたりします。

でも、届く意見はユーザーの総意とはかぎりません。

■不満がある人はだれなのか

まずはこの図を御覧ください👇

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このようにご意見やレビューというものは不満があったときに最も多く送られてきます。大きな感動を与えられたときにはポジティブなものもいただけますが、不満がない状態では特に何もアクションをとりません。

つまりお問い合わせには「現状に不満がない普通の人」の意見は含まれないのです。そのため、不満がある人の意見に従い改善をした結果、今まで不満がなかった人の不満を生み、新たなお問い合わせをいただくこともあります。

いま不満がある人たちの意見はきちんと事実として受け止めなければいけませんが、それに対して不満を持っていない人たちの気持ちも同時に考えて対応策を打つ(もしくは打たない)という意思決定をする必要があります。


■不満なご意見を送ってくる人は使うのをやめてしまうのか

経験則的にこれはNoである場合が多いです。

実はご意見やレビューをくれる人たちは少なからずそのサービスのファンです。これは不満なご意見をくれた人でも変わりません。

不満が送られてくると作った人間としてはショックを受けますが、よく考えると「わざわざご意見を送ってくれた人」です。多種多様な他サービスがある中で、使い慣れたものを使い続けたいという期待値を少なからず持っていた人だけがご意見やお問い合わせを送ってきます。

なので「ガッカリです。もう使うのをやめます。」といったご意見をくださった方でも、調べてみるとその後も使い続けてくれているというのもよくある話です。辛辣なご意見だろうとも感謝の気持ちが大事。

ですから前述の図には大事な視点が欠けており、それをアップデートしたのがこちらの図👇

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このように何も言わずに利用をやめてしまう人の存在を忘れてはいけません。そして現実はそのような人が大半です。好きの反対は無関心と言います。興味がなくなったものにわざわざ自分から文句を言う理由はあまりありません。

サービスのファンが「もっと使い続けたいからこうしてほしい」と言っているのと、何も言わずに使うのをやめてしまう人は全く属性が異なります。これを考えると、届いているご意見にかたより生まれる可能性があることがわかるでしょう。改善案はさまざまな側面から見て上で検討をする必要があるのです。

■今のターゲットは未来も変わらないのか
新規でサービスを立ち上げたときにPMF(プロダクトマーケットフィット)が得られたからと言って、今使っているユーザー層をすべてと捉えてしまうのは危険です。

「うちのユーザーはこういう人が多い」という現在の傾向はわかりますが、それは「そういう人にしかまだ届いていない」という可能性も多くあります。

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将来的に誰に使ってほしいのかをきちんと見据えた上で、「今はこの人たちをターゲットにプロモーションをするのが一番良い」といった決定をしていなかなければなりません。そしてそれに合わせてデザインなども考えていく必要があるのです。

例えばクックパッドは主婦の方からの支持をたくさん頂いていますが、サービスとしては老若男女すべての方に使ってもらいたいと考えています。ですからプロモーションを主婦の方へ向けて実施することはあっても、サービス全体のトンマナは主婦の方へ寄りすぎないデザインにすることを意識しています。このへんのバランス感はいつも難しい…。

ユーザーは自分の欲しいモノを知らない

「こんな機能がほしいです」というご意見をもらったりしますよね。でもその機能を作ってもその人が本当に使ってくれるとは限りません。サービスづくりをしていて向き合うべきは「その人の課題は何なのか」です。

もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、
彼らは「もっと速い馬が欲しい」と答えていただろう。
―ヘンリ・フォード

スティーブ・ジョブズが好んで引用した有名なセリフです。

馬車ユーザーにインタビューを重ねその意見を取り込み続けていたら、今でも馬の育成方法を研究し続けていたかもしれません。

これはサービスづくりにも同じことが言えます。その瞬間の課題解決はそれでも良いかもしれませんが、あくまでそれは対処療法です。長期的な課題に向き合わないと根本解決はできません。


前職時代ユーザーに「どんな機能が欲しいか」という大規模なアンケートを取ったことがあります。そこで圧倒的一位だったのは「ホーム画面を自分好みにカスタマイズする機能」でした。人間には使っているものを「自分の制御下に置きたい」という欲求があるそうです。それを解決するにはカスタマイズ機能というのは確かに良さそうです。

しかしカスタマイズ機能をつけているサービスでその機能が使われているかというと違います。経験則からの話になってしまいますが、そういったサービスでも全体で5%も使っていれば良いほうです。

それらは「欲しい機能」であり「利用をし続けたい機能」では無かったのです。

ユーザーのせいにしてはいけない

ユーザーインタビューやアンケートを繰り返して答えを見つけていく手法はとても優れたものです。一方で「ユーザーが望んだのだから」というように、決断をユーザーに託してはいけません。あくまでサービスづくりにたずさわる人は、最後の決断をメンバーで行い責任もその製作者にあると考えましょう。

前述のようにユーザーの「欲しい機能」が「利用したい機能」とは限りません。また、一部のユーザーが望んだ機能がユーザー全員を幸せにできるかというと更に難しいでしょう。ですからその課題をきちんと見極めて判断をしなければなりません。「ユーザーファースト」という言葉を都合よく利用してはいけないのです。

ユーザーには使う/使わないの選択肢があります。一方で僕らのようなサービス事業者には時間とお金をかけて作っている以上そんな気楽な選択はできません。どんな人に使ってほしいのか、どんな課題を解決したいのか、使った人にどのようになってほしいのか、その未来だけをきちんと見つめた上で、ユーザーにもらった意見をど料理するのかを決めるのは作っている我々の使命です。

エゴを持て

時として製作者や会社のエゴが必要な場合もあります。「毎日の料理を楽しみにする」がクックパッドのミッションですが、それは毎日の料理が楽しくなれば人生そのものが楽しくなるはずだと信じているからです。

しかしクックパッドを使ってくださっている方々の中には「料理がキライで今日の料理を何にするのか決めるのすらツライ」という人もたくさんいます。そんな方々に対して人気のレシピを提供するというのはとても良い解決策ですが、一方でこれは「その日の痛みを取り除いた」にすぎません。料理の機会は一日三回あり、またすぐにやってきます。

単純にその痛みの解消だけを考えるならばUber Eatsでも良いかもしれません。しかし僕たちクックパッドは、料理を楽しくしてしまえば良いと考えています。

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なのでクックパッドユーザーの課題が「料理から開放されたい」だったとしても、Uber Eatsの広告を出したりはしません。(もちろん料理をしない選択肢があること自体は心の余裕につながりますし、僕もUber Eatsを利用することもあります)

これは今ユーザーが望んでいることではないかもしれませんが、長期的に見てその方が人生が幸せになると信じています。そしてそれこそが真のユーザーファーストだと考えているのです。

このへんのお話は2019年開催のDesginshipでの発表資料でもふれています。よろしければご覧ください👇

もちろん正解は一つではありませんしこれが間違っていることもあるでしょう。でもそういった長期的な視点を含めた発想がユーザーファーストに求められていることは間違いありません。

これはいきなり一足飛びに目指せるゴールではありませんが、いずれそういった生活へシフトする方法をクックパッドはこれからも考え続けていきます。これは会社のミッションに従ったエゴとも言えますが、楽しい生活を継続していくために良いことであると僕たちは信じています。

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そんなわけでちょっと僕の強い思いも載せた記事でしたがいかがでしたか?

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