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【全曲解説】Lianne La Havas『Lianne La Havas』③

満を持して5年振りのリリースとなるセルフタイトルアルバム『Lianne La Havas』全曲解説、今回で第3弾となります。先行リリースシングルから、カバー曲、配信版限定収録トラックまで。アルバムの中核を担う非常に密度が濃く意義深い4曲が揃ってございます、主観たっぷりに紐解いてまいります。過去ログは記事最下部より。

M-5 Paper Thin

アルバムに先立ちリリースされた2曲目の解説は、MVに基づいて考察を深めます。ズバリ、あのフラフープのモチーフが表すものは一体何なのか。ご承知の通り「自然と植物のライフサイクル」が作品のコアですから、当然そうした時間軸を投影するための「記号」的表現は必要不可欠でしょう。不肖ワタクシ、学生時代にちょこっとだけ映像論をかじっておりまして。

「気持ちが堂々巡り(ループ)する様を描くため」という解釈は成り立ちそうでしょうか。M-4「Can't Fight」の持つサウンド/音場とはかなり対照的ながら、歌詞の節々には地続きのストーリーがある。ループ主体の楽曲構成という共通項も相まって、主宰目線、この2曲には作品中特に強い「組曲性」を感じます。

アルバム全体を見渡したとき、こうした大小様々な切り口の「組曲性」が随所に散りばめられている。「Bittersweet」で始まり「Bittersweet」で終わるという楽曲レイアウトにも、どこかループ感/輪廻思想が垣間見える。物語は完結したように見えて気付けばまた振り出しに戻る。深読みがまた新たな深読みを誘発する。

M-6 Out Of Your Mind (Interlude)

配信リリーズ版にのみ限定収録されたトラックですね。インタールード尺と侮るなかれ、CD盤ではこれだけ重要な意味を持つ1分4秒間がごっそりと抜け落ちています。タイトルからもお察しのようにM-2「Read My Mind」と対を成す楽曲、つまりここまでの計5曲が大きな一つの流れを汲んでいると理解して差し支えないと思います。壮大な組曲は五部作で一旦完結。

この後続くRadioheadのカバーへ繋がる重要な橋渡し役。おそらく今作最大の山場、その直前に確固たる信念の下並べられた逸品です。彼女の代名詞といえるアルペジオのモチーフは、アルバム最終盤の2楽曲「Courage」「Sour Flower」への種蒔き/重要な布石であると同時に、「自然と植物のライフサイクル」という今作のコンセプトにも絶妙にオーバーラップしてくる。

アカペラコーラスを前面に押し出した楽曲という点では「Elusive」「Don't Wake Me Up」以来でしょうか、こちらも自分史のアップデートに余念がない。非常に有機的な波を感じさせる和声ですよね。蒔かれた種がゆっくりと芽吹く様子がハイスピードカメラで克明に撮影され、コマ送りで映し出されている、そんな理科番組の映像が主宰の脳裏を過ぎりました。

M-7 Weird Fishes

アルバムも折り返し地点に差し掛かります。2013年のGlastonbury Festivalで完成形に近い形で披露されていた本曲が、満を持して収録。言わずと知れたRadioheadのカバー、「自然と植物のライフサイクル」を描く作品中に突如魚の襲来、疾走感あるオリジナルのイントロを見せておいて、ハーフタイムでずっしりと演奏されるという示唆的ギミック。それらの意図とは?

諸説分かれそう。ただ作中の「ノイズ」としてかなり効果的に作用しているのは間違いありません。次曲との関連性を考慮しても「男性的」モチーフとして「魚」が用いられるのは合点がいく。テストステロン値を高める食品の筆頭としても挙げられますし、というのはさすがに蛇足ですが、男女関係を匂わせる仕掛けが施された曲順ではというのが主宰の超主観的読み筋。

あるいはこういう推理も成り立つでしょうか。本曲の正式名称は「Weird Fishes/Arpeggi」=アルペジオ=前曲アカペラコーラスとの掛け言葉になっている?これもかなり極私的視点ではありますが、いずれにせよここまで自然な流れでカバー曲が収められるケースというのは、シングルB面こそあれどアルバム単位ではなかなか稀有な例ではないかと。技アリの一手でした。

M-8 Please Don't Make Me Cry

この楽曲を聞いて解けた謎が多々あります。ループ主体の楽曲構成=「心が堂々巡りしている様子を描く」明確なギミックであること、自然と内側から溢れ出してくる優しく切ない響きコーラスラインは「Out Of Your Mind」で蒔いた種が「芽吹く」までの時間経過を表していること。間奏部分=思い出が走馬灯のように駆け巡る様子を描いている点など。伏線回収の鬼。

歌詞に目を向けると「偽りの記憶」「物語の半分」「愛は犠牲を伴うもの」と実に辛辣で、二人の関係性には修復困難なほどの亀裂が入ってしまった。昼ドラのような愛憎劇っぷり、しかしながら激情に駆られた歌い回しはなく非常にスムースな流れのまま曲が進行していく印象。心のどこかでやり直したい気持ちがあるのか、あるいは熱が冷めた、諦めの境地にいるのか。

この辺の対比も本当に見事ですね。このなだらかな山谷の連続が本作の中毒性を確固たるものとしている。時数の都合取り上げられませんが、この5年で氏の歌唱法にも大きな変化があったと思います。室内楽的なアプローチ。自身の音楽性と向き合うため、地盤となる発声法から再構築してみようとの気概を感じる。是非、初期作品からの進化を体感してみて下さい。


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