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透明なシェイクスピア 本文編(2)『マクベス』

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私が翻訳したシェイクスピア作品の抜粋を載せていきます。全体像をクリアにつかむのに役立つはずです。第2弾は『マクベス』です。
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記事一覧

『マクベス』 第一幕第一場

魔女1 いつまた三人、会うのかね?  雷、稲妻、雨の中? 魔女2 てんやわんやが片づいて、  戦に勝負あったとき。 魔女3 ということは日の入り前。 魔女1 所はどこよ? 魔女2      荒野だよ。 魔女3 そこで待つのよ、マクベスを。 魔女1 行くよ、婆猫。 魔女2           蝦蟇だね。 魔女3                    あいよ! 三人 晴れは穢れよ、穢れは晴れよ、  よどんだ霧に浮いていけ。

『マクベス』第一幕第三場・第五場

【一幕三場】 マクベス こんなに晴れたり翳ったりする日ははじめてだ。 バンクォー フォレスまでどれくらいだったか――何だ、こいつらは、  しなびて、異様な姿、  この世の者とも思えぬが、  たしかに目の前に。(魔女たちに)生きているのか、  話がわかるか? わかるようだな、  皆、ひびわれた指を薄い唇に  さっと当てた。[…] マクベス   話せるなら答えろ、何者だ? 魔女1 万歳、マクベス、グラームズの主。 魔女2 万歳、マクベス、コーダーの主。 魔女3 万歳、マクベス、王

『マクベス』第一幕第六場・第七場・第二幕第一場

【第一幕第六場】 ダンカン じつに心もちのよい所だな、この城は。  風はさわやかに甘く、われらの五感を  なごませてくれる。 バンクォー    そこに夏の客、  よく礼拝堂に巣をかけるイワツバメです、  あれもここを気に入っているらしい、かぐわしい  天の息吹きに誘われたにちがいありません。[…] ダンカン                やや、奥方が。 マクベス夫人 […]わたくしどものご奉公、  その一つ一つを倍に、なお倍にいたしましても、  とうてい足りませぬ、陛下から賜

『マクベス』第二幕第二場

マクベス夫人 あの二人を酔わせたものがわたしを力づけた、  二人ののどをうるおしたものがわたしを燃えたたせた。しっ、静かに。  いまのはフクロウ、この世の別れを告げる  するどい闇の声。あの人が始めるところね、  扉は開いている。[…] マクベス  (舞台裏で)誰だ、おい! マクベス夫人 ああ、あの二人が目をさましたのかも、  だめだったのね。途中で見つかったら  わたしたちは破滅。しっ。[…]寝顔が父に似ていなければ  わたしがやったのに。  (マクベス登場。)あなた! マ

『マクベス』第二幕第三場・第三幕第一場・第二場

【二幕三場】 マクベス夫人 何ごとです、朝から?[…] マクダフ ご婦人にお聞かせできることではない。[…]  おお、バンクォー、バンクォー、陛下が殺された! マクベス夫人 何ですって! 私どもの邸で? バンクォー どこであろうと残酷ではないか。頼むマクダフ、  嘘だと言ってくれ、まちがいだったと。 マクベス いっそこの惨事の一時間前に死んでいれば  幸せな人生だった。今この時から、  人の世に生きるに値するものは何もない。  すべてはがらくた、名誉も美徳も死んだ。  いのち

『マクベス』第三幕第四場

マクベス 席順はおわかりだな、座ってくれ。まずは  ようこそ、とにかくよく来てくれた。 貴族たち             ありがとうございます、陛下。  […](刺客1登場。)[…] マクベス おおいに楽しんでくれ、のちほどテーブルを回って  みなと乾杯しよう。  (刺客に傍白)顔に血がついているな。 刺客1 とすればバンクォーのです。 マクベス […]やったのだな? 刺客1 はい、のどをすぱりと。[…] マクベス [せがれのフリーアンスもか?] 刺客1 じつは、陛下、フリー

『マクベス』第四幕第一場

三人の魔女 ふえろ、ふえろ、難儀に苦労、  釜はぐらぐら、火はぼうぼう。[…]  (マクベス登場。) マクベス 頼む、[…]教えてくれ。 魔女1 言ってみな。 魔女2      聞いてみな。 魔女3           答えるよ。 マクベス きさまらが何者かは知らないが―― 魔女1 黙って聞きな。言いたいことはわかってる。  (雷鳴。第一の幻影、冑をかぶった首。) 幻影1 マクベス、マクベス、マクベス!  マクダフに気をつけろ。(消える。) マクベス 忠告、感謝するぞ。やはり

『マクベス』第四幕第三場

マルカム わびしい木蔭でも見つけて、そこで  泣き明かさないか。 マクダフ     いえ、いまこそ  決死の剣を取り、雄々しく立ちましょう、  落ちた祖国のために。朝が来るたびに  男どもを失った女子どもの悲嘆が  天地にこだましております。[…] マルカム 貴殿がそう言うからには、そうなのかもしれないな。  あの暴君、その名を口にするだけでも舌がただれるが、  あやつもかつては誠実な男と思われ、貴殿も敬愛していた。[…]  わたしは青二才とはいえ、あの男に売れば  貴殿も恩

『マクベス』第五幕第一場

(マクベス夫人、ろうそくを手にして登場。) 侍女 ほら、おいでになりました。いつもああなのです、あれで本当に眠っておいでなのです。[…] 医師 目を開けておられるではないか。 侍女 ええ、でも何も目に入っていないのです。 医師 何をなさっているのだ、そら、手をすりあわせて。 侍女 かならずあれを、まるで手をお洗いになるみたいに。十五分もおつづけになることも。 マクベス夫人 まだここに、しみが。 医師 しっ。何か言われた。[…] マクベス夫人 消えて、いやなしみ、ねえ、消

『マクベス』第五幕第三場・第四場・第五場

【第五幕第三場】 マクベス もう言うな、逃げるやつは追わぬ。  バーナムの森がダンシネーンまで来ぬかぎり、  おれは恐怖には染まらぬ。マルカムの小僧がなんだ、  女から生まれただろうが。[…]いまが正念場、  王座を守り抜くか、落ちるかだ。  おれもじゅうぶん生きた。おれの人生は  もはや黄ばんだ枯れ葉というところか――[…]  戦うぞおれは、この骨から肉が削ぎ落とされるまで。[…]  恐怖を口にする者は縛り首だ。鎧を持て。  (医師に)病人はどうだ? 医師         

『マクベス』第五幕第七場・第八場・第九場

【第五幕第七場】 マクダフ 向こうだな、騒がしいのは。暴君め、現れろ!  きさまを他のやつに討ち取られたら、  女房子どもが浮かばれん。  にわかごしらえの雑兵どもに用はない、マクベス、  この剣、きさまを斬るか、あるいは使わず  鞘におさめるか、どちらかだ。[…]運命の女神よ、  きゃつに会わせろ、それ以上は望まぬ。 【第五幕第八場】  (マクベス登場。) マクダフ […]待て、地獄の犬め、向きなおれ! マクベス きさまにだけは会いたくなかった。  失せろ、おれの魂はすで