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「ひとりぼっちじゃない」トークイベント上映感想

先日、映画「ひとりぼっちじゃない」のトークイベント付き上映へ行きました。映画の鑑賞としては二度目でした。一度見ただけでは受け止めきれない、とても不思議で余韻の深いこの映画。長塚健斗さんと、原作小説の著者であり監督の伊藤ちひろさんが登壇されるということで、非常に興味深く拝見しました。一度目と二度目でこんなにも受ける印象の変化する映画ははじめてだったので、トークイベントでの話も含め感想を書いておこうと思います。

一度目の鑑賞

表題やメインビジュアルを見て、何も調べないままに見たほうが良さそうな映画なのではないかと思い、とりあえず劇場へ。物語が流れるまま、主人公のススメの鬱屈とした感情に取り込まれるかのように見ていました。人とは違う感想かもしれませんが、宮子の在り方のほうに私は共感しました。私の職業柄、セラピストとしての思考はわかる気がします。
「相手が元気だったら、私は必要ない」
ススメがもしとても自身満々で健康体だったら、宮子はススメに興味なかったと思います。とりあえず元気になるまでこの子、お世話しよう。観葉植物を世話するように。みたいなレベルなのか、親しみを持っているのか、かなり好きなのか。それはわからないのですが、元気になってほしいな。と思える人。宮子もまた真面目で不器用で、自己犠牲感が強いんだと思います。それがちょっと世間からすると不思議と思われるのかなと思います。自然と相手に同調できてしまえるからこそ、相手の健康=自分の健康のように捉えているのかなと。
だからこそ、劇中劇として出てくるキリンさんに純粋に同調する宮子と、イライラしてしまうススメがいて、あのシーンはよく出来ているなとクスリと笑えてしまいました。そして、ススメはなぜキリンさんに怒っているのか私はちょっと難しかったです。こんなやつもいるのか。ではなく、自信満々なんだコイツ…と捉えたところに自己受容のできないドロドロとしたススメの心が投影されているのかもしれないですね…。
しかし、この主人公、もがきながらもちゃんと考えて、変化していく。最後に宮子さんから卒業しようとする…。実家のシーンがあってとても救われた気がしました。
エンドロールにも、あのおなかのポコポコ音が流れ、ああ、この映画には音楽がなかったんだなと気づかされました。誰も歌わないのにバンドのメンバーが二人も出ている…なぜだろう。と思いながらも、配役の素晴らしさに心から賞賛を送りました。

後から、映画化にあたって脚本は主演の井口さんへ「当て書き」されたと知りました。俳優があかんかったら映画オワル、というくらいに映画全体が俳優の力量如何で別物になってしまうくらい、負っている部分が大きかったのではないか。俳優=登場人物=人間 であってもらう映画、とでもいいましょうか…。その生生しさと、この映画を確信的に作られたのであろう監督や製作陣の方々にとても感動しました。しかし、家に帰ってからも頭の中に残っていたのは、ススメの生き方よりもそれを受け止めていた宮子の部屋の空気の残像でした…。

「ああ、あの映画の中にもう一度戻りたい」

それが初回の感想です。

二度目の鑑賞

もう一度見たいかもしれない…と思っていたときにトークショー付き上映を知りましたので、張り切って行きました。ちなみにトークショーは上映後でした。
二度目の鑑賞、見はじめたとたんにハッとしました。
ネタバレにはなりますが、最初から宮子はおにいちゃんの話をしているではないですか。そして、ススメはお母さんの話をしている。一番身近な人、一番大切な人の語で、兄と母。本当のキーパーソンはこれなのでは…。
「ひょっとしてこれは対比する構造の映画なの?」
という視点で全編を見はじめました。

ちなみに、重要な役どころのおにいちゃんらしきあの人。という例の男性を演じた長塚健斗さんも、監督から正解を聞かなかったそうです。結局兄なのか、恋人もしくはともだちのひとりなのか。どちらかわからずに演じていらっしゃったそうです。

二度目に見てみると、ススメが極度に臆病に思えた一度目より「普通にどこにでもいる人」に見えてきました。ああ、この子、どこにでもいる。私もかつてそんな時期があったな…と過去を思い出したり、家族や身近にいる人を投影したり。一度目に見たときよりも、どの登場人物も自分の知っている誰かのような気がしました。
見ていくうちに、いろんな対比される場面を見つけました。
私が気に入って、帰りたいとすら思うあの植物であふれかえる宮子の部屋と、ススメの勤め先の歯科医院のある都会のビル。チュイーーンという耳障りで逃げたくなるような歯科の機械音と、宮子の部屋の自然音。ススメの「主人公にはならない存在」としての在りようと、兄かもしれない主人公じみた謎の男性の存在感…。ありとあらゆるところで対になる要素があるように思えました。一度目は、これは登場人物をドーンと見せている映画だと思ったのに、実は人物も含めたルックや、音、キャラクター、そして色の対比を細やかに計算され尽くした芸術作品なのだと気づきました。

色の対比

映画のタイトルバックの色は、淡いオレンジ色でした。最初に出てくる宮子の部屋も、赤い敷物であったり可愛い赤いビーズの付いた電灯、そこから漏れる電球色、宮子の着る黄色いキャミソールなど、黄色~赤系のグラデーションの色使いになっているように感じました。そこから部屋全体が人の体温を感じさせたり子宮の内部にいるかのような、その場にいるものを包み込むイメージを生み出していると思いました。そういえば、宮子を反対から読むと「子宮」なんですね。
ススメは最初、暗い色の服ばかり着ていますが、蓉子が「宮子の部屋で人が死んだよ」と言う場面の後に部屋に行ったススメは、スカイブルーのTシャツを着ています。今までそんな色着てなかったじゃないの。と思っていると、宮子の部屋には青系統の敷物が敷かれている。今まであった敷物は、誰かが亡くなったときに持って行かれたのだろうか、それとも処分したのだろうか? 白地に青い大きな花柄のような敷物のうえで「ぼんちゃん」と呼ばれる白に黒いブチのあるかわいいうさぎが無邪気に跳ねている。死の影と、小さな生命力まで対比してしまっているかのような鮮やかな演出にただただ見入っていました。本当に、ただただ美しい。そして怖い。周囲に緑があってよかった。
さらに、白いワンピースに青い汚れを付けて帰ってきた宮子に「どうしたの」とススメが言って、後で風呂場で一生懸命洗うシーン。あれも同じような明るい水色でした。

色は感情、と私は思っています。実際にそんなデータもありますよね。色によって感情が誘発される。冷静になりたいときには青を多く取り入れると良いから、オフィスは青を基調にしましょう。というような…。
その感情発生装置である「色」が、物語のエンドロールには綺麗さっぱりなくなってしまいます…太陽光にさらされた白い部屋を見て、どこか喪失感を感じました。それがススメの感情を表しているのか、宮子の変化なのか、それとも私の中だけで感じている喪失なのか。わからないけれど、どれも間違いではないと思えました。
そして出てくるタイトル。温かいオレンジ色の背景に「ひとりぼっちじゃない」という文字。凄い、そういう仕掛けだったのか…とも思うけれど、私が感じただけなので実際に監督の意図したものかはわかりません。ただ、私はあのオレンジ色のほうの宮子の部屋を、なんとなく心に抱えておこう、と思いました。いつでも帰れる場所として。

トークショーで印象に残ったこと

監督の伊藤ちひろさんは「この映画を好きだと言ってくださる人は、真面目に生きようとしている人が多いんです」と言っていました。生きることに迷ったり、苦しんだりするのは、やっぱりどう生きようと考える人だからこそですもんね。。そして、映画を見たあとに、いろいろと考えて、少し気持ちが楽になってくれたらいい。と言っているのが印象的でした。そして、映画の感想をSNSで発信してくれる人の感想を読むのもとてもおもしろいんです、と仰っていました。
長塚さんは、今回俳優のお話をもらってから沢山台本を読み込んで、最初は難しかったけれど何度も読むうちにどう演じたら良いかわかってきた。本番は撮影最終日で、それまで参加できていなかったのでそれまでの映像を見せてもらったことで、印象がよりわかり、井口さんの俳優としての姿が素晴らしいと思ったとも。普段の姿を知っている友人としてのご意見。
役作りについて、虚勢を張っている弱い人間で、そういう部分は自分とも共通点があり、そのような演技が自然とできたということでした。
さらに、本番で衣装のボタニカル柄のシャツを着たときに、自然と役に入ることができたと仰っていました。あの柄シャツに煙草が似合いすぎて、ずるいですね。それも役の一部なのでしょうけれど、ご本人の雰囲気と相まっての説得力がありました。。
監督の話で、なぜ長塚さんにオファーしたのかという部分。長塚さんと以前たまたま一緒に飲んだことがあり(長塚氏は酔っぱらってカラオケで歌っていたそうです)そのときに、彼の中に品格のある美しい黒、のようなイメージ(ごめんなさい私の意訳でございます)を持ち、とても印象的だった。今回の役のイメージにぴったりだったのでオファーした。そして、黒のイメージは宮子役の女優、馬場ふみかさんにもある。と仰っていました。この二人が同じようなイメージということは、やはり著者の中では兄弟の設定なのかな。そして、ススメと宮子のキャラクターは真逆なのだ、とも仰っていたので、監督の中では「ススメ vs 宮子&謎の男性」という対比になっていたようです。この対比を同じボーカリスト同士というベースで作り上げたこともまた凄い…。


私が感じた感想は、おそらくみなさんと違うんだろうなと思うけど、その違いも楽しいんじゃないかと思います。映画を作った方に失礼かなと思って、いつもはこんな風な感想を書かないことが多いのだけど、きっとなんだか、私を知っている人が読んだら面白いんじゃないかな、と思って書いてみました。長々とお読み頂きありがとう。違うところもあるかもしれないので、何かあったらコメントで教えてください。



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