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未知苗字との出会い

散歩が好きだ。
特に、未知なる苗字との遭遇が楽しくて。

日常生活では、いちばん効率的な道をゆく。
目的地まで、最短で安全な道を。

一転、散歩ではつとめて
行ったことのない方角(駅と逆方向)、
歩きにくそうな道(細い階段や路地)、
いつものルートから外れた道、を選ぶ。

するとかなりの高確率で、
未知なる苗字と出会うことができる。

読み方の見当がつかない難解なものもあれば
馴染みある字だけれど、
「その字と並んだ姿、初めて見た!」といったものあり、興味は尽きない。

プライバシーは年々、包み隠され
そういえばいつからだろう、
引っ越し先のマンションの扉やポストに
苗字をかけたら「引っ越し完了!」という醍醐味が、その昔はあったような気がするけれど
いまや集合住宅のポストの多くは部屋番号だけが示されていて、
それは現在の我が家だって同じ、である。

さて。
戸建てのおうちで、表札のない家はほぼ、ない。

家々の前を通るとき、
その植え込みや季節によっては扉の飾り達が
道ゆく人の目を楽しませてくれるけれど、
私は断然、苗字を知りたい。

特に妊娠中は、ことさらよく散歩をした。
コロナ真っ最中で、夫ですら妊婦健診の付き添い不可の状況下だったから、
夫と一緒に、お腹を抱えてよく散歩をした。

未知苗字と出会ったら、ひとしきり静かに興奮をかみしめる。
人のうちの前なので、不審がられないよう、何食わぬ顔で歩を進めながら。

つぎに想像する。
どんな由来?その苗字の産地はどのあたり?


そして帰宅後、ネットで調べてそれら知識を得、
その家に暮らす人々の
ご先祖の家業やルーツを思ったり、する。

そして気づく。
この楽しみは、日本ならではの楽しみだと。

なぜなら、もし中国や韓国なら
苗字の多くが漢字一文字になってしまうし
アルファベットのファミリーネームじゃ、
大人になって読み方のわからない苗字に出会うことなんて、まずないだろう。

ふいに出会う苗字から
発見や興奮、
時代や土地をかるく飛び越えて
さまざまな未知に思いを馳せるきっかけ。
こんな多くのものを得られるなんてすごいことじゃないか。

加えて私は生来より転居の多い性分(これについては別途書く予定)なので、
歩くべき未知の道は、たくさんある。
きっと、これからも。

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