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詩『森の中の物語』

「光がほしい…光さえ届いてくれれば」
周囲を囲まれ 光を遮られた
一本の木が 枯死しつつあった

これは 森の中の物語

ハラルド・ソールベリ『冬の山の夜』(1914年)

夜の森を彷徨っている
どっちを向いても深い闇
梟の声だけが聞こえる
月も 星も見えない

疲れ果て 座り込んだ
自分がどこにいるのか
どこへ行けばいいのか
もう分からない

夜が明けてくれれば
光さえ届けば

「光が必要なのか」
誰? 誰かいる?
「すぐ傍にいる わしは木だ」
木? 木が話しかけてるの?

「光が見たいなら登れ
表皮が剥がれかけていても
枝が細く 折れそうだとしても
枯れてはいない 生きているから」

手を掛け 足を乗せる
枝が折れ 幹が揺れた
それでも ぼくは登った
上へ上へ 高く高く

周りの木々の隙間から光が
彼方だけど 光が見えた
全てが闇ではないと
ぼくは知った

「さぁ 歩くんだ
光の下に行けると信じるんだ
歩くことの叶わない わしですら 
信じて待っているのだから」

風もないのに木が揺れた
葉擦れの音は 喜びか
散った葉は 涙なのか

木が捨てずにいる希望が
ぼくに力をくれたこと
それだけは間違いない

歩いていこう
必ず光の下へ行く
辿り着いてみせる

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