「5Gハムレット・考察だか感想だか」

前回の記事で、「岡宮くんには人外が似合う」と書きましたが、今度の役は、ハムレットでした。デンマークの王子、「殿下」と呼ばれる立場。幻のパライソでは、二部のライブ衣装は王子様のようだったそうですが、これは本物の王子様です。 

人外じゃないのかとがっかり…はしませんでした。だって、劇中で、大臣の息子レアティーズから「人外」と罵られてましたし。もちろん、「人でなし」という意味だとは理解しています。そして、人でなしも美味しいです。

 「人でなし」の演技は、「お人よし」ほど難しくないのではないかと思っています。その意味で、もっとも難しい役をこなしたのは、じつは立花くんかもしれません。誠実で、真面目で、友達思いのいいやつ。こういう役にリアリティを持たせるのって、本当は難易度高いですよね。正直、立花くんは絶世のイケメンだけど、演技や歌はそこまで…と思っていました。謝ります。あの容姿でああいう演技ができるなら、今後、確実に活躍の場は広がるはずです。

 岡宮くんから話が逸れてしまいました。今回は、逸れまくりそうです。  なぜなら、「5Gハムレット」は、「推しが出ているから観る」というレベルのものではなかったからです。極上のエンターティメントでした。  

まあ、何にでもケチをつける人はいるもので、「しょせん2.5次元の延長」という意見も見ました。本人の意図的には辛口のつもりでしょうが、やや的外れですね。2.5次元の俳優を使い、演出も音楽も2.5次元と縁の深い方を起用しているのですから、メインターゲットは2.5次元ファンでしょう。それで2.5次元とかけ離れていたら、逆に不満が噴出したのではないでしょうか。 

筋運びのわかりやすさとか、萌えがあるとか、恋愛や友情など情緒的な面を強調していることとかは、とても2.5次元的だったと思います。ですが、決定的に違うところもありました。2.5次元でいちばん心を砕く「キャラに寄せる」ということを、一切していません。寄せるどころではないですね、次々とめまぐるしく役をリレーしていくのですから。ウイッグなし、メイクも変えないままで、男性役と女性役を反復横跳び。それでも、観ているうちに違和感が無くなったのは、演出と演技によるものだと思います。 

2.5次元や俳優のファンをメインの客層としているのは確かですが、新しい試みによって、コロナの影響で観劇に飢えている、シェイクスピアやミュージカルの好きな層も取り込むことができたら大成功、というスタンスかと推察しました。  

さて、岡宮くんに戻ります。                      今回は神や神使ではない、普通の人間の役ですが、それでも、これまでの自分の殻を破る演技だったと思います。 

葵咲・歌合の鶴丸は「ホワイト来夢」、パライソの鶴丸は「グレー来夢」。ハムレットは「ブラック来夢」といったところでしょうか。 そして素の岡宮くんは、「ピンク来夢」(えっちな意味ではない)だと思っています。こうして、素の自分から遠い役を請け負うことは、いっそう芸の幅を広げることになるでしょう。

 そうはいっても、役者の個性というものは、どんな役にも表れるもの。岡宮くんならではのハムレット、それはやはり、人として未熟なところが魅力だと感じました。  

ハムレットの年令設定には諸説あるそうで、作中の墓堀人の発言から「30歳」という説が有力です。 でも常識で考えて、「無いわー」と思いませんか?  現代日本なら、30歳で「まだ子供」と言われることもあるでしょう。ニートだったり、親にパラサイトしていたりも、稀ではありません。

「ハムレット」は、12世紀のヨーロッパが舞台です。 平均寿命、成人に達する年令、もろもろ考えてみたら、王が死去したとき30歳の王子がいて、王弟が即位するはずがないです。 例外は、直系の子が庶子であったり、未成年であったりした場合です。 

ハムレットは王妃の実子なので、嫡子です。だとすると、立派に成人しているのに即位できないわけがない。そもそも、その年で未婚なのがすでにおかしい。 王族の結婚は政治的な側面を持ちますから、年ごろの王子王女は、国交の道具として早くから婚約したり結婚したりさせられるはず。16歳説をとれば、彼が売約済みでないのも理解できます。ハムレットは一人っ子のようだし、王も王妃も可愛くてたまらず、まだ婚活をさせていなかったのでしょうね。(その間に、本人はオフィーリアと恋を育んでしまったわけです) 

また、王子が30歳なら、その叔父は50歳を過ぎているでしょう。   当時の寿命を考えると、50歳はもう老境です。即位しても、それほど長く王座を保てるとは思えません。そして、30歳の息子を持つ王妃、これまたアラフィフでしょうからね…。 

でも息子が16歳なら、母親はまだまだ色香があるでしょう。 それに、叔父もまだ壮年。若い嫁をもらって子作りされては、わが息子ハムレットの立場が危うくなる。もしかするとガートルードは、自分が彼と結婚することで、新たな王子の誕生を阻止しようとしたのかもしれません。

 そんなこんなで、クローディアスの即位が受け入れられたのは、前王妃と結婚したからだけではなく、先王の子がまだ少年だったから。16歳のハムレットなら、マザコンだったり、短慮だったり、優柔不断だったり、いろいろ拙いところがあってもしかたないと思うのです。

ただし岡宮くんは、16歳よりもうちょっと上の感じでハムレットを演じているように見えました。当時の16歳は、現代日本の16歳より、たぶん少し大人びているでしょうね。だから、年齢設定的には、無理なく演じられていると思いました。                         

また、役の上でどんなに口汚く罵っても荒れ狂っても、岡宮くんのもつ素直な人となりは自然に滲み出て、狂気のハムレットにある種の可愛げを添えていました。それが、観客に哀惜の念を抱かせたのではないでしょうか。  

その意味では、女性役を男性が演じたのもよかった。女性に対する激しい暴言、脅迫があっても、ハムレットの好感度が下がりすぎないのです。 

純文学とエンタメの大きな違いは(私見)、人物がかっこいいかどうかだと思っています。 容姿に限った話ではなく、なにかしら「素敵…」と思わせる魅力が、エンタメの主人公には必要です。時には、悪役であってさえも。 

それに対して、純文学では、ほんとに魅力のない人物が主人公だったりしませんか? 田山花袋の「蒲団」とか、夏目漱石の「こころ」とか。 ハムレットも純文学系なので、主役なのにあまり魅力的に描かれていなくて、私は今まで、ハムレットを好きになれませんでした。それが今回、鶴丸と同じレベルでハマっているのですからね…。

推しが演じていれば、欲目でなんでもよく見えるのだろうと言われたら、返す言葉がないのですが。演出に、人物を魅力的に描こうという意思を感じたのです。それが、エンタメの矜持ではないかと思います。岡宮くん自身も、「くるむるーむ」で、登場人物全員を「愛すべき人たち」と語っていました。歌合のバクステでは「自分を除いてみんな(刀ミュ仲間)いい人」と言っていましたが、今回は自分(ハムレット)も含めていたようですね。

ほかの4人について言えば、終幕近くで着た衣装が、おそらく真の役どころだったかと思われます。

クローディアスは、やはりアラフォーのどっしりした中村氏に演じてほしいし、ガートルードは芸達者でコケティッシュな魅力のある法月さんに。 橋本さんのオフィーリアは中盤で消えてしまったので、レアティーズが真骨頂ですね。                              

そして何といっても、立花くんのホレイショーがよくできていました。何人かが入れ替わってホレイショーを演じましたが、終幕だけでなく「ここ一番」はつねに立花くんでした。 亡霊についていくハムレットを止めるところとか、「わたしには伝わっています」のところとか、「私は男で、あなたの友です」とか。立花くんと岡宮くんは、「パライソ」で共演し(あの哀しみと落胆を共有し)、自主制作ドラマ「サナギ」でも協力した仲です。リアルでも仲良しな二人が、親友の役柄で終幕を飾る。なんて、エモい。演出家さん、GJ。                           

オフィーリアは、甲乙つけがたいと思いました。 法月さんの評判がいいですね、本当に上手いし、上背のある男性とは思えない可憐さでした。ただ、狂気の演技は、もともとアドバンテージが大きい。そのアドバンテージを引き算すると、私は橋本くんのオフィーリアに軍配を上げたくなります。 

橋本オフィーリアの魅力を一口でいうと「けなげ」です。尼寺に行けと執拗に突き放すハムレットに対して「あなたの嫌がることはしない」「わたしはあなたを裏切らない」とすがり続ける。ちょっと見には、ダメンズに引っかかっているバカな女みたいですが、彼女の恋は盲目ではありません。ハムレットの人となりを知っているからこそ、今の彼は本来の彼ではないと信じられるのです。そのひたむきさに、うたれました。 

あと、立花くんのガートルードは本当に端正な麗人で、真のイケメンは女装もイケる、ということが証明された感があります。ガートルード「らしさ」については法月さんに譲るけど、美女という点では今キャスト中最高点をつけたいです。            

ひとつ引っかかったのは、わざとだろうとは思いますが、岡宮くんだけ、やけにアイメイクが濃かった(ほとんど隈取り)。可愛くてまあるいお顔だから、ハムレットにそぐわない、とされたのでしょう。でも、メイク頼りでなく迫力を出すことのできる人だと思うので、次回は(役にもよりますが)あまり加工しすぎないでいただきたいです。

 岡宮くんの歌唱については、スタジオで念入りに収録したのと比べたら、やはり荒い感じがしました。マチソワ出ずっぱり、しかも役の性質上、声を荒げたり張り上げたりが多いので、喉の負担は大変なものだったろうと思います。ボイトレにも通い始めたということですし、喉を守る歌い方、最後まで「もつ」歌唱力を身につけてくれたらと願っています。  

決闘の殺陣は、中村氏の監修とか。刀ミュの殺陣はどこか剣舞の趣があって、様式美が先に立つようですが、さすが中村氏の殺陣は実戦的でかっこいいですね。レアティーズの一撃を撥ね返した勢いでハムレットが少し沈むところ、一本取る前の自然な流れなど、見どころがありました。よりによって千秋楽でミスったのは痛恨でしたが、映画やテレビドラマのようには、やりなおしのきかない舞台の怖さと面白さを感じました。  

とりあえず、岡宮くんの次の仕事が楽しみでたまりません。でもその前に、頭の中に棲みついてしまった「復讐せよ~」を何とかしたいものです…。 

 

*これをまとめているうちに、新しい仕事も決まっていた…なんなの、展開が速すぎる。 

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