断髪小説「デリヘル嬢アリサの選択」

アリサ。デリヘル嬢。29歳、ガケっぷち。

あたしの働いてる店にはルールがある。

店が決めた指名目標を3か月連続で下回ったら、辞めるか下に行くか選ばなくちゃいけない。

下に行くっていうのは、同じビルの地下にあるらしい系列店に移るってこと。

らしい、っていうのは、私も地下に足を踏み入れたことないからあまりよく分からないんだ。上とは出入り口も違うしね。

ただ「下の店」(したのみせ:お店のコたちはみんなそう呼んでる)は、アブノーマル系専門の店だっていうのはウワサで聞いたことある。あと、女のコたちはなぜかみんな髪が短いらしい。

まぁあくまでウワサだけど。

でもなんかいろいろ変じゃん?だから私も絶対下には行きたくない。だけどさ…稼ぎは今よりいいらしい…ま、ウワサだけど!


ていうか、こんな話してるのはー。実はあたしの成績がヤバいから。指名どんどん減ってるしお店変えよっかなぁとか考えてるとこ・・・


「アリサ」


案の定。その晩マネージャーに呼び出された。

「今月も達成できなかったな。辞めるか下に行くかだが。下に行って、ある条件さえ飲めば今の倍は堅いぞ。どうする」

収入が倍になるの!?ヤバくない?

「ある条件って・・・?」

「髪の毛を切ること」

あ、やっぱウワサはほんとだったんだ・・・。でも髪なんて伸びるし。それより世の中、金だよネ・・・。でもなんで髪切らなくちゃいけないんだろ?

「・・・下に行く」

「よし、じゃあ荷物持ってついてこい」


初めて足を踏み入れる地下フロア。

マネージャーについて薄暗い廊下を進み、突き当たりの狭い部屋に入った。部屋の中には全身を映す姿見とパイプ椅子、そして布をかけたあやしげなワゴンが置いてあった。

ガチャ。扉が開いて40代ぐらいのひげもじゃのオッサンと20代のヒョロい男が入ってきた。

マネージャーが紹介する。

「この人が地下の店長ね。こっちはアリサ。じゃ、あとはよろしく~~」

「あい」

地下の店長と呼ばれたヒゲ男が短く返事をすると、マネージャーは私を置いてさっさと去っていった。


「じゃあ座って」

わたしは姿見の前のパイプ椅子に座らされた。そして家庭散髪で使うような、髪の毛を受けるポケットのある短いケープをつけられた。

「へ?テンチョーが切るの?ここで??」思わず聞いた。

「そう」

「うまいの?」

「それはできてからのお楽しみだろ」

マジかよ・・・どーみても上手そーには見えないんだけどさぁ。


と、ヒョロい男が小型のビデオを構え始めた。

撮るのかよ・・・マジ変態なんだな、ここ


店長がワゴンをたぐりよせ、あたしの背後に立った。ワゴンの布が取り払われ、ハサミや櫛、ヘアクリップが並んでいるのが見えた。そして店長は銀色に光るハサミを手に取った。


軽くカールさせたあたしの茶色のロングヘア。のリップラインにハサミが近づいた。


うわ・・・けっこーバッサリいく・・・


ジョキッ!バサッ・・・

長い髪がケープのポケットに落ちた。


うわぁぁ。マジで切った・・・


ジョキッジョキッ。バサッ。

ハサミが首筋に当たった。

あーあ。こんな短くなったの幼稚園以来だよ・・・


ハサミは止まることなく胸下まであるあたしの髪を容赦なく切り落とし、ついに反対サイドまでたどり着き、最後の一束をジョキリと断ち切った。長い髪はすべてなくなってしまった。

次に店長はあたしの前に立ち、前髪を顔の前に垂らした。唇にかかるほどの長さがあったが、そこにも左側からジョキジョキとハサミを入れられた。

ジョキジョキ・・・

目の前を髪が落下するのが見えて、思わず目をつぶった。


なんかすっげー短くされてない?


ジョキジョキと右側まで切られ、目の前が明るくなったのを感じ、おそるおそる目を開けた。

鏡には茶色いおかっぱ頭の女がうつっていた。


うわっ!誰!!


前髪は眉上1cmでまっすぐに切り落とされていた。


ちょ、ちょ、ちゃんと整えてくれるんだよね!?

すんごい不安なんですけど・・・。


あたしがボーゼンとしてる中、店長はコンセントに何かのコードを挿していた。

手に持っていたのは、バリカンだった。

うっそ・・・


その瞬間、強い力で頭を前に倒され、ウィーーンとうなるバリカンを入れられた。

襟足に振動を感じ、思わずビクッとしてしまった。

ウィーン・・・ジョリジョリ・・・


下から、次は横からと、縦横無尽にバリカンを入れられた。ようやくバリカンが離れたあとは襟足がジンジンしてきた。


店長はまたハサミを持ち、髪を切り始めた。

サイド、後ろとジョキジョキ切っていく。髪がどんどん短くなっていく。サイドの髪は耳が半分出る長さまで切られてしまった。

前髪もさらに短く、オデコが半分出る長さに揃えられ、毛先は浮いていた。


一通り切り終わったのか、再度バリカンで、襟足、さらにもみあげまで刈られた。


「うまいだろ?」

店長は満足そうに言って、手鏡を渡してきた。


あたしはそれを受け取り、こわごわ後頭部あたりまで持ち上げた。


「うそ・・・!」

襟足は真っ青に刈られ、上の髪と横は耳が半分見えるラインで横一直線に揃っていた。お椀をかぶせたみたいな、見事なわかめちゃんカットになっていた。


ケープが外された。首がスースーする。


鏡に映ったのは、ミニのワンピースに刈り上げおかっぱ頭の、見たことないほど情けない顔をしたあたしだった。


ダッサ・・・


「アリサさん、ここで働く間は勝手に髪を切ったり染めたりしたらクビになりますんでヨロシク」


店長はそれだけ言うとサッと部屋を出ていった。


髪の自由もないってことかよぉ。無理無理無理無理!!辞めたい・・・でもこの髪型で他で働くとか・・・うあぁぁぁっ。

最初から「辞める」を選んどけばよかったぁぁ。


もはや変態の相手をして生きるしかないのか・・・

さよなら私の20代・・・。


〜完〜


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