ドS理容室サカキ~序章~
【理容サカキは知る人ぞ知る理容室。
完全予約制の理容室。
住所は予約した人にしか知らされない。
髪型のオーダーは「おまかせ」のみ。
施術中に一度でもストップをかけたら、そこで中止。
料金の返金は一切なし。
店主のサカキは60歳前後の細身の男性らしい。
一見無口な職人気質だが、ひとたびハサミを握るとその本性が明らかになるという・・・】
私は榊。理容師だ。
今日も予約客が来ることになっている。
さっきから店の古いガラス戸の前を行き来している女がいる。あれか。
そんなことを考えていると、ようやく20代後半と思しき女がおそるおそるといった様子で入ってきた。
「よ、予約していたリサコといいますが・・・」
「あぁ、どうぞ」
私はリサコが施術椅子におずおずと腰を落とすやいなや、彼女の肩下までの栗色の髪をさっとクリップで持ち上げて留め、クロスをきつめに巻いた。もちろん手が出せないタイプだ。さらに上からネックシャッターを付けた。
あまりの早技に、リサコの目に戸惑いが現れるのがわかった。
私は心の中でほくそ笑む。
クリップを外し、リサコの髪をブラッシングする。優しくブラッシングしながらリサコの顔をじっと観察する。
今からこの女を料理していくのだ___
私はリサコの髪を持ち上げたりしながら、「似合う」髪型を頭の中で構築していく。
「リサコさんのきれいな色白の肌が際立つようにカットしていきますね」
「は、はい・・・」
そう伝えるとリサコの頬にサッと赤みが差した。
さすがは色白サンw。
私はブラシを置いて櫛とハサミに持ち替えた。
左手の櫛でリサコの襟足の髪を持ち上げ、根元ぎりぎりにハサミを合わせる。
リサコの肩がびくっとなったのが分かったが、ためらいなくハサミを閉じた。
ジョキッ
20㎝を超える長い髪がクロスを滑り落ちた。
襟足ぎりぎりで切ったので首が丸見えになった。
「わぁ、やっぱり首元の肌も白いですねぇ」
仰々しくと言ってやると、リサコの首が真っ赤になった。
わかりやすい女。
ま、髪フェチ女はこうじゃなくちゃね。
そう。私は言葉攻めを武器とする髪フェチドS。そして理容師資格を持っている。最強の組み合わせなのである。
さぁ、ヘアカットに戻ろう。
先ほど切り落とした髪の隣の部分も、同じく襟足の付け根でバッサリ切った。
後ろ髪がなくなり、リサコの首はすっかり丸見えになった。
そのままサイドの髪も同じ長さに乱切りに切っていく。
ジャキッ ジャキッ
リサコはものの1,2分でリップラインの不揃いなおかっぱ頭になってしまった。
リサコは鏡を見つめながら半泣きのような顔をしている。
「もう結べなくなりましたねぇ」
とダメ押ししてやると、リサコは聞きとれないぐらいの小さな声で「はい…」と呟いた。
次に私はクシを手に取り、リサコの前髪を多めに前に下ろした。下ろした髪がリサコの顔を覆う。
私は彼女の前にまわり、額にハサミを当てながら眉上ラインで一気にジョキジョキッと切った。
固く目を閉じたリサコから、オシャレな雰囲気が消失した。
その代わり、一気に田舎くささが増した。
そそられる瞬間である。
櫛で髪を押さえながら、前髪をさらに2cm短く切りつめてやった。オデコが半分以上露出した。
「この長さで切ると顔が大きく見えますねぇ」
リサコはカァッと顔を真っ赤にして下を向いてしまった。
後ろに回ってバリカンを準備する。リサコの目が私の動きを追っているのが分かった。
「バリカンは初めてですか?」
「あ、ハイ…あの、緊張、します…」
リサコはそう言って笑おうとしたが、笑顔になりきれてなかった。本当に緊張しているのだろう。
ますますいじめたくなる。
わざとゆっくり準備を進めた。
「だいぶ短くなりますからね」
そう言いながらリサコの襟足にバリカンを入れ、一気に耳上まで走らせた。
あっけなく散る髪たち。
ウィーン…ジョリジョリ…とどんどんテンポよく、青々となるほどに刈っていく。
耳上2㎝まで刈り上げ、バリカンを置いた。
刈り上げ部分に合わせて、後ろ髪をハサミで切っていく。後頭部の半分より上のラインで真っ直ぐに切り揃え、サイドはリップラインのままで極端な前下がりのおかっぱにした。
こんなおかっぱは、なかなかお目にかからない。
仕上げに襟足と顔を剃った。襟足は真っすぐに剃ってダサさを増長させる。化粧の下の眉は薄かったのだが、眉頭1㎝だけ残して全て剃った。
シャンプーが終わり椅子を元に戻すと、眉が無くなってしまった自分の顔を見てリサコがハッと息を飲むのが分かった。こういう反応が楽しい。
乾かして、再度ハサミで全体を細かく微調整して終了した。
カットクロスを外し、合わせ鏡で後ろ姿を見せてやると、リサコは「わぁ・・・」と言いながら青々と刈られた後ろ頭をしきりに撫でていた。
「刈り上げ、気持ちいいでしょう?」
「え?・・なんかすごい短くなっちゃった・・・」
今、彼女はここで髪を切ったことを後悔しているだろう。
自ら足を運んだとはいえ、こんな奇抜な髪型にされるとは。
当面はショックであろう。しかしいつかきっと、この日のことを思い出し、ひとり悶絶するに違いない。こんな髪型にこんなシチュエーション、望んでもなかなかできるものではないのだから__。
【サカキのポリシーは、客と自分を悦ばすこと】
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