歯医者の思い出

前歯が欠けたように感じたので、数年ぶりに歯医者に通うことにした。

今でこそ歯医者はただでさえ時間が掛かる上に苦痛を伴うもので、かなり足が遠のいているが、小学生の頃は、歯医者が全く苦痛でなかった。クレヨンしんちゃんだったりドラえもんだったり、「歯医者を嫌がる子ども」というアニメにありがちなシーンもあまり共感できなかった。

小学生の頃、家の近所のごく普通なデンタルクリニックに通っていたのだが、大きめの虫歯を治療しても全く痛みを感じなかった。乳歯だったからなのか、どう見ても普通のおっさん先生だったがとんでもない名医だったのかもしれない。

そんなわけで、歯医者への恐怖とは無縁の生活を送っていたが、人生そんなに甘くない。そのクリニックが数駅隣に移転してしまったのだ。今であれば、ちょっと遠いなあと思いつつ通う距離ではあるが、子どもにそんな考えはない。仕方なく近所の別のクリニックに通うことにした。それが地獄の始まりであった。

次の歯医者は、歯医者にありがちな「怖さを柔らかさで押し潰した雰囲気」を全面に出した外観で、子ども向けにぬいぐるみを窓に飾る心配りも忘れないぱっと見良さげなクリニックであった。先生も物腰穏やかで、ここなら大丈夫かな思った。しかし、この先生の削り方がとにかく痛い。そして埋め方が粗い。「痛かったら左手を挙げてくださいね~」と言われるものの、変に気弱なので何となく手を挙げられぬまま、家の鍵を握りしめ、痛みを散らすようにして耐えていた。

それ以来歯の治療が苦手になり、明らかな欠けや痛みが出るまで歯医者に行かないようになった。大人になると麻酔をバシバシ打ってもらえるようになったので、治療中痛みを感じることは少なくなったのだが、それでもあの独特の機械音を聞くと手をぎゅっと固く握り締め、全身に冷や汗をかく。加えて、「ここで先生の気が狂って、全然関係ないところにぶっ刺されてたら…」という訳の分からない妄想をするなどしている。そう言えば、フリスク噛んだら内部で虫歯が進行してて、歯が欠けたこともあったなあ。その時の医者もかなり微妙であったが、ここでは割愛する。とにかく見た目がいかつかった。

そして今回。
前述のとおり前歯の欠けが気になり通院を始めたのであるが、昔の補修箇所のプラスチックが欠けたようで、かなり小さいため余程の問題がなければそのままにしおいて良い。ただ、他に内側が黒くなっているので治療を要する歯が数本あるとのことであった。歯を削る治療と毎回一応やってもらっているものの本当に要るのか?と思うクリーニングに時間を取られるのかあ…と憂鬱ではあるが、昨日担当してくれた歯科衛生士さんがかなり素敵な方だったので、仕方ないから通うことにした。本当に不本意ではあるが。

なお、余談ではあるが、全然痛くなかったクリニックの先生はとても優しかったが、スタッフへの指示はかなり強めでそれが原因で移転をしたと風の噂に後に聞いた。子ども心に、大人って分からないものだなあと思った。

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