父性(エッセイ)7

高校時代を勉強と仕事と遊びに費やした私は当時の父をよく知らない。
父はいつのまにか私に構って攻撃をしなくなった。矛先はどうやら母に向かったようだった。

その頃の私は、家のローンや光熱費や携帯電話の使用代金がどれくらいのになるのか知っていた。実際に数字で見ると、もっと働かなきゃといった気持ちになった。

学費は奨学金制度を利用した。できる限り電車に乗ることは避けて、自転車で通学した。
高校時代の友人は私がお金に困っていることを知っていた。しかし、理由を聞いてきた人はいなかった。私の通っていた高校は複雑な事情を抱えた人が多かった。
体育が終わった後、ジュースを奢ってもらったり、お弁当を担任の先生が作ってくれたりした。ありがたかったし、情けなかった。

もっとお金を稼ごうと思っていた頃、同級生にキャバクラやコンパニオンをしている子がいて、私も興味を持った。しかし、勇気は出ない。もしバレたら退学処分だ。奨学金制度のためによい成績をキープして真面目な態度を教師にとり続けていた日々がすべて台無しになる。

私は中学生の頃、お世話になっていた先輩に相談をした。すると、知り合いの家がスナックを経営しているという。友達の家のお手伝いをしているだけ、という体で働けば、バレても誤魔化せるんじゃない?と提案され、そうすることにした。

その頃、父が失踪した。
遺書は家にたくさんあったので、いなくなった理由は分からなかった。母が知人に声をかけて、捜索活動が行われた。1週間後父はパチンコ屋で発見された。
借金取りが怖くて家を飛び出したそうだ。
小学生の頃にアコムなどの自動契約機なんかでお金を借りているのをたまに見たことがあった。
それは律儀に返済していたようだが、借金をしてはならないところから借金をしてしまい、逃げた。前の工場の社長からもお金を借りていた。

テレビで見るようなチンピラのような人が家にくることはなかった。ウシジマくんみたいにはならなかった。母が知人からお金を借りて返済をした。父は土下座をして、母に謝罪をした。その後、職業訓練校に通い始めた。

母は、知人にお金を返すためにさらに忙しくなった。その頃、私は唯一の楽しみが近づいていた。修学旅行だ。しばらく友達と遊んでいなかったから久しぶりにすべてを忘れて旅を楽しもうと思っていたのだ。
自分で貯めて払った積み立て金が急にもったいなく感じたし、高校を辞めるべきなのかもしれないと思い始めた。
そうしないと弟を高校に進学させるお金を貯められそうになかったのだ。
弟は受験勉強に必死で、うちの金銭事情を知らなかった。母と弟に悟られないように必死で隠していた。

母は、離婚をすると言った。わかったと答えた。早くそうしてくれればよかったのに、と言った。その後、家族がいないところで、しばらく泣いた。仕事先でも泣いた。
私は放心状態のまま修学旅行に行った。
ショックだった。しかし、なぜショックを受けているのか当時の私はわからなかった。

弟が高校に進学してから、離婚をして弟の高校の近くに引っ越すことにした。
私は高校からかなり遠い場所に住むことになる。弟は年齢は私の二つ下だ。
私は、引越し先の最寄駅を使って通学している男子の連絡先を聞き、どのルートで通っているのかを聞いた。男子にストーカー扱いをされた。



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