父性(エッセイ)6

父は私が高校生になったころ、別の工場で働き始めた。母から聞いたわけではなかった。父から聞いたわけではない。仲良くなったばかりのSちゃんから聞いた。
Sちゃんの母親が、私の父と同じ職場にいたらしい。どうしてわかったんだろうと思うとちょっと怖かったので、聞かなかった。
父はとても穏やかで仕事ができるいい人らしい。お世辞で言っている感じではなかった。相変わらず外面はいいようだし、仕事ができるのは本当のようだった。

Sちゃんと私は高校一年生の秋までとても仲が良かった。グループは違ったが、毎日のようにメールをしたし、たまに遊びに行った。
Sちゃんは片思いしていた男の子の態度が煮え切らなくて、困っていた。
夏休みにSちゃんに誘われて、海で十人くらいで遊ぶことになった。
そこで、男の子がSちゃんにこっそり告白をして、2人は付き合うことになった。卒業をしてからも付き合っていたから、私はその場にいた一人としてとても嬉しかった。

Sちゃんは特別な友達とのプリクラをプリクラ帳の一番最初のところに貼った。私がいて嬉しかった。Sちゃんは他の子みたいに私をいじって笑わないところが好きだった。

秋になって、Sちゃんと会話をすることはほぼなくなった。メールもだんだんしなかなった。グループもクラスも違ったし、Sちゃんは学校で恋人といることも多かったから、そんなもんかと思っていた。Sちゃんのプリクラ帳の仲良し友達のところが変わっていた。私はそのページにいなかった。

Sちゃんになにか悪いことをしたのか考えたが思い当たらなかった。Sちゃんはアドレスやプリクラ帳も頻繁に変える人だから、そんなもんかと思った。それに、私はやらなきゃいけないことがたくさんあったから、すぐに忘れた。

父が仕事を辞めてきたと母に仕事の愚痴を言っていた。Sちゃんの母親らしき人のこともかなり悪く言っていた。かなり揉めたそうだ。Sちゃんの母親に「消えろ、クソババア」みたいな幼稚な暴言を吐いたらしい。
Sちゃんはこれを知っているに違いないと思ったし、おかあさん大好きのSちゃんが、これを知って私に前のめりに仲良くしようと思えないだろうと思った。

高校三年生になってようやくSちゃんと同じクラスになった。グループは違うから一緒にお昼ご飯を食べることはなかったけれど、メールが来るようになった。Sちゃんに誘われて数人でカラオケに行くこともあった。
私は、父のことを謝りたかった。
しかし、Sちゃんはにこにこと私の顔を見ている。優ちゃん優ちゃんって話しかけてくれる。掘り返すのが怖くてなにも言えなかった。

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