ぺったんこで生きてる

中学生から20代前半の私は、36キロから43キロほどの体重で周りに心配されていた。
お弁当やお菓子を作ってくれる人がいたり、ご飯を誘ってくれる人がたくさんいた。
ありがたかった。
それでも私の体重は増えなかった。
私は、ある程度仲良くなった人以外の目の前でご飯を食べることが苦手だ。
小学生の頃に、給食を全部食べられるまで居残りをさせられたのがきっかけらしい。
無理矢理人前でたくさん食べるとお腹を壊す。少し食べて残してしまうため、飲み物だけを頼むようにしている。

そんな私をからかう人はたまにいた。不思議なことに、足や腕ではなくみな、胸をからかうのだ。優ってぺったんこだよね。みんなが笑う。後ろから触って、「ナイ!ナイ!」「女じゃねー」みんなが笑う。
なぜぺったんこが悪いのかわからなかった。
けれど、ぺったんこだと馬鹿にされることはわかった。

思春期に見た目についてさんざんからかわれた私はたくさんのコンプレックスがあった。
ブスと言われるのも辛かったけど、胸をからかわれるのはもっと辛かった。
男性に品定めされるようになったからだ。ネタの対象にされるようになったからだ。
飲みの場で、はっきりと「俺、貧乳もイケるから」「いや、俺はCカップ以下は無理」と聞いてもいないのに話題にして、「だからモテねぇんだよ」と言われた。

笑えなかった。体が固まった。しかし、いつからか、私は道化になった。
笑顔で「まな板に梅干しですよ〜」「友達に借りた水着が大きくて、パッドをつけたんですけど、気づいたら海にぷかぷか浮いてたんですよね〜」
鉄板ネタだった。かなりウケた。みんなが笑っているなら、それでもいいやと思うことにした。

ある時、豊胸手術を受けることにした。
初めての恋愛と失恋がきっかけだった。
バストアップの薬を飲んでも、補正下着をつけてもまったく効果がなかった。もう豊胸手術しかないと、がむしゃらにお金を稼いだ。しかし、そのクリニックでの手術は失敗した。私の豊胸手術は中途半端に終わり、ぺったんこのままだった。お金は全額返金されたが、あざが残っている。

20代半ばから、私の体重は一気に増えた。食欲が湧いて、家でたくさん食べていた。夫と出会った。友達になった。夫が私に料理を振る舞い、私はそれを食べ続けた。ご飯が美味しかった。ご飯が美味しいと思ったのは、大人になってはじめてのことだった。

一番増えた時で56キロくらいまであった。この時は健康診断に引っかかって、ジムに通っていた。この頃の体型が好きだった。ぷにぷにのお腹がドラえもんみたいでいいな、と思っていた。
しかし、洋服が入らなくなって買い替えなくてはならなかったのは困った。下着も同じだった。体重が増えて、胸はぺったんこではなくなったのだ。しかし、嬉しくなかった。胸に振り回されるのはごめんだったのだ。

私は子育てをしている友達が、ブラトップを着用していると言っていたのを思い出した。授乳をするときに楽らしい。着心地も良くて、もう普通の下着はつけられないと笑っていた。
私は、思い切ってブラトップを購入した。
友達の言う通り、とっても楽だった。時折、デザインの可愛い下着を購入していたが、購入したら満足してしまい、ブラトップに戻る。を繰り返した。

そうしていたらほぼぺったんこに戻った。
支えがないせいで、お肉があちこちに流れてしまったようだ。お風呂上がり、鏡の前で笑ってしまった。声をあげて、涙を流してしばらく笑っていた。私は私の胸が愛おしかった。あざのあるぺったんこの胸が、私が私であることを強く主張している気がして心強い気持ちになった。

それからの私は堂々とブラトップで過ごしている。たまに可愛いと思った下着を買うが、観賞用だ。見て、にやにやしている。側から見ると気持ち悪い光景だと思う。
私はこれからもぺったんこで生きていく。誰がどう言おうが、私は私の胸が大好きだ。


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