パチモン

付き合っていた恋人に某ブランドのかばんをプレゼントされた。どう見てもパチモンだった。デザインがとても可愛くて、私はそれを持ち歩いた。友達にパチモンじゃん!とからかわれた。めんどうだったけど、私はたくさんものが入るかばんを持っていなかったから使い続けた。
恋人はヤフオクで買ったと言った。
恋人の部屋で、あいのりを見ていた。恋人は髪を切ったばかりだったから、耳がいつもよりはっきり見えた。開けたばかりのピアスが並んでいた。
寒いと言ったら大きめのブランケットを用意してきた。私たちをくるんだ。恋人の耳に産毛が生えていた。福耳だった。恋人から香水のスパイシーな香りがして、目に染みた。
私はトイレに行きたいと言った。ちょうど、告白の場面だった。CMになってから行ったら?と言う恋人に、
今行くと言った。
しばらく行く行かないの言い合いになった。
私は恋人の家から出た。歩きながら、別れたいとメールを送った。
恋人から電話があった。
かばんが気に入らなかったの?とか、髪型が気に入らないの?とかクリスマスに自作の歌を弾き語りしたのが悪かったの?とか泣きながら言っていた。
私は正直に、あなたと恋愛できるかもしれないと思ったけれどできなかった。ためしてごめんねと、人生で4度目くらいのセリフを吐いた。
一方的な別れ話をしたせいで、荒れているからちゃんと話をしてあげてと友達に諭された。
友達に、確かにパチモンは萎えるけど知らなかったみたいだから許そうよ、と言われた。私はそのかばんをその日も持ち歩いていた。
カラオケの個室で待ち合わせをした。
待ち合わせの時間になっても来なかったから先に部屋に入って部屋番号を伝えた。何曲か歌った。ドリンクバーから部屋に戻ると元恋人がいた。
元恋人の手の甲に、根性焼きのあとがあった。手首には包帯が巻かれていた。足元に私の財布があった。その先にはポケットティッシュがあった。化粧ポーチがあった。鍵があった。いろんなものが落ちていた。所定の位置にあるのは、携帯電話と煙草だけだった。
元恋人の体は少し浮いていた。よく見ると尻の下に、かばんはあった。
返してよ!と思わず大きな声が出た。お気に入りだったのに。ちくしょう。
恋人は、お前ってレズだろ?気持ち悪いんだよと言って、かばんを壁に投げて帰っていった。私はかばんを拾って無事を確認したあと、落ちていた鍵をかばんに入れた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?