父性(エッセイ)9

高校を卒業すると同時に、父との文通は終わった。アドレスを聞いてくるかと思ったが、父はメールを知らないようだった。おそらく電話だけのプランにしてあるか、アドレスの設定のやり方がわからないのだと思う。

父は、家に籠ることが増えた。酒を飲んでいた。小さな文字が見えなくなってきたから、ルーペを使って新聞を読んでいた。新聞の端に自分の名前を書き続けていた。
父のいるリビングには誰も寄りつかない。
父は4人が暮らす家で1人で生活をしていた。

家の中は父が醸し出すピリピリした空気で汚染されて、居心地が悪かった。
私は嫌になるたびに、友達や恋人の家に逃げた。車中泊をすることもあった。しかし、しばらくすると家が恋しくなり帰った。
一階のリビングに父がいるのがわかる。いつ部屋に来るのか分からない恐怖感や緊張があった。それなのに、私は自分の部屋に戻ってほっとしていた。今もこの現象の理由はわからない。

母と2人でプールに行くのにハマっていた時期がある。運動不足解消のためだった。
母が運転をし、私は助手席にいた。まだ出発して10分くらいで、衝突事故に遭った。
母と青信号に変わるのを待っていたら、後ろから車がぶつかってきた。車は近くの電柱に激突した。母の体に怪我はなかった。しかし、放心状態だった。一方で、私は身体中が痛かった。電柱に激突したのは助手席側だった。
とにかく首が痛くて、混乱をしていた。

いつのまにか警察がいて、母とぶつかってきた相手はおのおの警察と会話をしていた。母は、弟に連絡をしたらしい。繋がらなくて、家の電話にかけたら父に繋がった。家の電話は私の部屋にあるから出ないだろうと思っていた。
甘かった。
父は、ぶつかってきた人を怒鳴り、(絶対にやらないだろうけど)掴みかかりそうな雰囲気を出していた。警察に止められていた。

私は首が痛いと言い続けた。
それにお腹が痛い。警察に話すと、父が救急車を呼ぶように言い、救急車がきた。それに父は同乗した。
病院につき、医師に妊娠はしていますか?と聞かれる。父が、していないに決まっているだろう!と医師に向かって怒鳴った。恥ずかしかった。

首に湿布を貼られるくらいの怪我ですんだ。
帰る手段がなく、財布は母の車に忘れてきた。携帯電話で母に連絡をすると、今から迎えに行く、とのことだった。父は、待合所の私から離れたところで新聞を読んでいた。
私は、携帯電話も忘れてきたから暇だった。
しかし、父と会話をする気にはなれず、母を待った。遠い場所にある病院だったため時間がかかった。

迎えにきた母に、父は遅いと怒鳴った。全部お前らがドジでのろまなせいだと怒鳴った。
事故は私たちのせいだと大きな声で何度も繰り返した。周りにいた人たちは私たちを見ていた。とにかく恥ずかしいからやめて欲しかった。




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