まさこ

現在、7つのタオルハンカチをローテーションしてポーチに入れている。7つとも色はピンク。
雑貨屋さんにいると自然にピンクを目で追い、選んでしまうのだ。ピンクはすてきないろ。
目があったかくなる。口角があがる。そんなピンクが大好きだから、ハンカチはピンク。
家族にハンカチをプレゼントすることがある。それは家族がハンカチにこだわりのないからできることなのだ。
友人や知人は「青いハンカチ」「黄色いハンカチ」とこだわりがあるかもしれないからなかなかプレゼントしにくい。
ちなみにわたしは、傘は必ず青を持ち歩く。落ち着いた気分になって、雨のしとしとした日を楽しめる気がする。

先日、運命のハンカチに出会った。強いショッキングピンクに女性の顔がたくさん並んだイラスト模様である。よく見ると一つひとつ女性の表情が違う。眉があがっていたり、口が開いていたりするのだ。しかし喜怒哀楽と呼べるほどのはっきりとした変化がなく、時折、これは変顔なのか?といったものもある。どれもきちんと見ないとわからない。本当に微細な変化なのだ。
わたしは思わず「まさこ」と口に出していた。隣にいた夫も「うん、まさこだ」と言った。
わたしは無くさないように、ハンカチに名前をつける。3つセットで1000円だったから、ダンスをしている絵柄の「ジュエリー」と夫用にパンダの絵柄のハンカチを購入した。
レジで、タグを外してもらい、ポーチから一番ヘビロテしていて3つも持っている花柄の「みくちゃん1」を抜いて、「まさこ」を入れた。購入したばかりのまさこはふわふわしていてポーチが分厚くなった。
「みくちゃん1」はもうぼろぼろだったので、近くのごみ箱に捨てた。家にはまだ「みくちゃん2」と「みくちゃん3」がある。
同じ店で購入した同じハンカチだ。違いがわからないので、3つのみくちゃんはわたしの気分によって入れ替わる。
一度も洗っていないハンカチはうまく吸水してくれないため、家に帰ってから「まさこ」と「ジュエリー」を洗濯機に入れた。乾いたまさこをまたポーチに入れて、ジュエリーはハンカチ置き場に「みくちゃん2」「みくちゃん3」「恐竜さん」「ちかちか」「渋い」とともに置かれた。ちなみに「ちかちか」と「渋い」はあまり使わないため、奥底に眠ったままである。
それから、わたしは主に「まさこ」を持ち歩くようになった。「みくちゃん2or3」と「ジュエリー」と交互に使う。
職場のお手洗い場で「まさこ」、コンビニのお手洗いで「まさこ」スーパーのお手洗い場で「まさこ」。いつもまさことの出会いは手洗い場だ。夏になると汗を拭くためにハンカチを使うが、この季節はまだポーチから出されていない。
手を洗う時、わたしは「まさこ」「まさこ」と心の中で話しかけている。
鏡と睨めっこをして前髪を直している高校生や、床を磨いている清掃員は、にこにこと手を洗うわたしに目もくれない。わたしはまさこを見せびらかすように広げて、手を拭いているというのに。
誰かが「素敵なハンカチですね」と言ってくれれば「ええ、自慢の子です。名前はまさこです」と返すことだろう。ああ、誰か話しかけてはくれないだろうか。

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