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マザコン番外編の品のない話


この日記は本来9月24日のマザコン93から続く話で、パート94とするつもりだった。
が、変な話だけで1話分の分量を使ってしまい、この変な話をマザコンシリーズ本編として載せて110円いただくのは失礼では、と思ったのでこうしてマガジンも変えて無料公開することにした。

書いた時は普通にパート94のつもりで書いたので、そういう感じになっている。
シリーズ未読の方は話のつながりがわからないと思うけど、わかりそうなところだけ読んでもらうかこの話は読み飛ばすかしていただけたらと思う。
そしてお食事中の方は閲覧をお控えください。


ドンキホーテ浜松泉町店は元々めちゃ広いスーパーマーケットだったところで(昔はユニーだった)、いや、むしろスーパーというよりショッピングモールで、その敷地と建物を引き継いでいるためやたら売り場面積が大きい特異なドンキホーテである。

ちなみにユニー時代、私が子ども時代には親戚がそのすぐ近くに住んでいたので、毎週のようにここに通っていたものだ。カルビーポテチのグリルビーフとかエスニカンをよく買ってもらっていた。
おもちゃ屋さんではファミコンのディスクシステムの書き換えをしたり、売り物のハドソンのシュウォッチを興味津々で手に取ったら店員のおばちゃんに「それ買うの? 買わないなら置いて!」と怒られてイヤな気分になったものだ。ただカゴから持ち上げて眺めていただけで怒られたのだ。子どもの私はよっぽど汚いなりをしていたのだろうか? たしかに、服の上を常時ゴキブリが3匹くらい這い回ってはいたけど……。今はもう大人になったので、たまに1匹這うかどうかくらいだ。
「太閤ラーメン」というラーメン屋さんが入っていて、私が一番好きなラーメンであった。母がよく連れて行ってくれた。ラーメンのスープに浮かんでいる丸い油を、箸でうまく合体させて巨大油を作るのが得意であった。私以上にラーメンの合体油を大きくできる子どもなんて浜松の有玉・泉・幸・萩丘地区にはいないと自負していた。なんでもドラゴンクエストの開発者である堀井雄二さんは、このラーメン油の合体遊びからキングスライムのアイデアを思いついたという。というのはウソ。
太閤ラーメンはお持ち帰りもあって、よく家でも母に作ってもらっていた。家の方が油合体に集中できるのだ。もうなくなってしまったので思い出補正もかかり、今でも私の中で「一番美味しいラーメン屋さん」はこのユニーにあった太閤ラーメンである。
思い出話は以上。

そのユニーの跡地をまるまる使っているため、特異なドンキホーテである。
こんな広くて、全然ゴミゴミしていなくて食材もお惣菜もそのへんのスーパーより豊富に揃っているお店なのに、ドンキホーテだなんて。明るくて清潔感があってのびのびと買い物ができるのに、ドンキホーテだなんて。50m先まで視線が届くのに、ドンキホーテだなんて。アングラ感や下級国民感がまったくないのにドンキホーテだなんて……。

父に要求された洗濯カゴやらあれやこれやを買って車に載せ、その後でまた店に引き返し今度は自分の夕食を買い物する。
お刺身コーナーで、下級国民の味方・まぐろのすきみを買う。
私のような無職離職のおじさんには固形のマグロなど人生で数回の大きな記念日にしか食べられないような高嶺の食物(しょくもつ)であり、上級国民からしたらゴミとして捨てられるような骨にこびりついたわずかな身をそぎ落としてかき集めて無理矢理パックに詰めて売られている(偏見に満ちたイメージ)ような、形もないすきみだけがかろうじて私が食卓に上げられるマグロなのだ。

とはいえ私は案外、固形よりすきみの方が好きかもしれない。
すきみの方が醤油がよく染みるから。少量のすきみでも醤油がよく染み込んで味が濃くなるので、少しのおかずでごはんがたくさん食べられるすきみが好きなのである! すきみ、きみが好きだ!! すきだよすきみ!! これこそまさに負け組の発想! 無職離職にふさわしい底辺の思考!!

というようなことをくよくよ考えながら(小さな買い物をするだけでも常に妄想が止まらない私です)、すきみと冷凍のあんまんを抱えてレジに並んでいたら、おや? なんだか、レジの雰囲気がいつもと違う。

レジのおばさんがシリアスな面持ちでどこかに電話をしていたり、他の店員さんがあっちに行きこっちに来ていそいそと動き回っていたり、なにかトラブルの雰囲気を感じる。
なんだろう? レジが壊れたのだろうか。レジのPOSの海鮮不具合かな?
これからまぐろのすきみを買おうとしている時に、海鮮不具合は勘弁してよね。このすきみだけは不具合なく通してくれないと困るよ。もう今夜はすきみを食べると決定しているんだから。すきみの口になっているんだから。
……というか、なんだか、どこからか、アジアの貧民街を旅していた頃の記憶が呼び起こされるような、懐かしいフレグランスが漂って来ているな。アジアの貧民街もしくは、終電を過ぎた時間の新宿歌舞伎町を思い出させるようなフレグランス。
これは良い。元気にバックパッカーをしていた頃、あるいは東京で友人たちと楽しく飲み歩いていた頃を思い出させてくれる、良いドンキホーテだなあここは。

おや? あれはなんだろう?



ぎゃーーーーーーーーー!!!!



レジの待機列からふと前方に目をやると、サッカー台(買った物を袋に詰めるための台)の床に、そうあれは……まるでお好み焼きを焼く前の生地のような、粘性のあるクリーム色の液体が大量にゲロゲロゲローーーーーーーッ!!!と広がっていた。

どういうことだ。
なぜ、サッカー台の床にお好み焼きの生地が……。そしてなぜお好み焼きの生地からスラム街や歌舞伎町のフレーバーが……。
このドンキは食材豊富だからお好み焼きの材料も容易に揃うだろうけど、なぜここで既に生地が出来上がっているのか? まだ材料を調達した段階ではパフパフした粉のはずではないか。サッカー台で小麦粉がこんなに溶かれて液状の生地が完成してしかもそれが床にぶちまけられているというのはなんだか、お店の風景としては不自然ではないか。
でも、美味しそうだな。ちょっと、お好み焼きの口になって来た。つい今しがたまですきみの口だったのに、美味しそうなお好み焼きを見せられてお好み焼きの口になって来た! 床に落ちてさえいなければ私が食べてもいいのに! もったいない! 捨てるんなら私がもらったのに!! レジ袋にでも入れてもらって持ち帰ってフライパンで焼いて夕食に美味しくいただいたのに!! レジ袋はお金がかかってもったいないからマイバッグに入れてもいいよ!!

おえ~~~~~~~~~~~っ。

もうおわかりであろう。
ゲロでした。

こんなキレイに、美しい円の形に広がるものなんだなあ。汚いものを雑にぶちまけても、床に落ちればこんなキレイな円を描くなんて。不思議だ。汚いものは汚い広がり方をしても良さそうなものなのに。
お好み焼きの可能性が完全に消えたわけでもないけどね。
もし誰かがお好み焼きを作ろうとして、でもあまりにお腹が空き過ぎていて焼くまで待てず生地をそのまま飲みまくってしまい、それで気分が悪くなって吐いたのがあれなのだとしたら、あれはゲロでもあり同時にお好み焼きの生地でもあるわけだ。鉄板に移して焼けば立派なお好み焼きになるだろう。「ゲロであるならばお好み焼きの生地ではない」というのは短絡的な決めつけであった。
そもそも私はあれが誰かの口から放出される瞬間を見たわけでもないのだから、本当に純粋なお好み焼きの生地だという可能性だってある。「床に落ちているからゲロのはずだ」というのもまた短絡的な決めつけではないか。じゃあどうやって特定すればいいんだろうな。ちょっと舐めてみようか?
いや、もう短絡的に決めつける。あれはゲロである。

これはきっと体調が悪い人が我慢できずに出してしまったものであって、決して悪気があって出された物ではないはずだ(体調が良い人が悪気があってわざと出していたとしたらすごいことである)。
だからあんまり汚い汚い言うものでもないし、誰かを責めるようなことでもない。汚くない。キレイ。
ただ、まぐろのすきみを持っている時に見たくはない光景であった。今日は「まぐろ食べたい」の気持ち一本で夕食まで行きたかったから。まぐろの口100%にしておきたかった。あれを見たせいで、今の私はまぐろ70%お好み焼き30%の口になってしまっている。

お店の人がキッチンペーパーとかモップとか持って、ドヤドヤと集まって来ている。
すると近くにいた女性のお客さんが、キッチンペーパーを手に取っておもむろに床の液体をごそっと掴み、サッカー台の下にあるゴミ箱にドサッと捨てた。それに対してお店のおばちゃんが「あ、やりますから大丈夫ですよ!」と声をかけていた。
どうやらその女性のお客さんが落とし主らしい。
ラテン系の方だった。ブラジルの人かな?と私は思った。浜松はブラジルを中心に南米から来ている方がすごく多い。楽器やオートバイなどいろんな工場が集中しているからだそうだ。
別にどこの国の人かはどうでもいいんだけど。ただ、逆に私は、南米を旅行している時に現地でゲロゲロ吐いた。フェリーの船室(しかも絨毯の上!!)に吐いてしまってそれを自分で掃除して、でも収まらない船酔いと自分の汚物をトイレットペーパー越しに掴む気持ち悪さでまたその場でゲロゲローーーッ!!と吐いて、吐いて拭いて吐いて拭いて……と一心不乱(腐乱)に懲役作業を行っていた。
だから、こんなものはお互い様である(なにが?)。
しかし女性だと、余計に辛いと思う。店の中で吐いてしまうくらい体調が悪いことに加えて、それを周りの人から注目されてしまうというのは、男でも泣きたいくらい辛いことなのに女性ならなおさらだろう。私の旅仲間の野ぎくちゃんという女性は、ベトナムの安食堂の床に壮大にゲロ吐いてしまって、号泣していた。そのエピソードは東南アジアなんて二度と行くかボケ!!という本に書いているので、野ぎくちゃんの嘔吐と汚物の詳細を知りたい方はぜひ読んでね。

ただ一方で、外国の人は、吐くということを日本人よりは深刻に受け止めていない感じもある。
このドンキホーテの女性も、妙に平然と、店で吐くほどの割にはあんまり体がきつそうでもないし、店の人に「やりますから大丈夫ですよ!」と言われたら涼しい顔で買い物カートを押して出て行った。まあそんな平気というのはシリアスに体調が悪いよりは良いことだ。
ただ日本ではシリアスに捉えるので、駆け付けた店員さんはみんなゴム手袋をしてマスクにフェイスガードまでつけ、物々しい雰囲気。

よく考えれば今はなんとかウィルスの第3波の真っ最中なので、深刻にもなるよな。
とりわけ田舎の方(失礼……)ではあれを「感染したら即座に死ぬ殺人ウィルス」だと受け止めている人が多く、この浜松北部はぶっちゃけ田舎だから、この殺人感染症の流行期に体調が悪い人が吐いた物なんて、化学兵器に感じられるのかもしれない。かつてテロで使われた、近付いただけで死んでしまうあの液体のように。レジ周辺が突如としてドンキホーテ緊急事態宣言のような緊迫感に包まれたのも頷ける。
まあ私は「すきみの口がお好み焼きの口に変わってしまうのが怖い」くらいの恐れしか感じなかったが、レジを通過した後にそのサッカー台ですきみとあんまんを袋に詰めるのは結構イヤだった。ゴミ箱には捨てられた汚物が入っているし!! 無造作にキッチンペーパーで掴んで捨てられた汚物!! 怖くはないけど、イヤだっ!!! やっぱり怖い!! 病気とかはさて置き他人の汚物が近くにあるという現象が怖い!!!


人間の感情って不思議だね。
もしこの汚物が、お好み焼き屋さんでボウルに入って「はいこちら、ジャガイモ明太チーズの生地ね!」と言って出されたら、誰も怖いなんて思わず「うわあ美味しそう!」と目を輝かせて鉄板に流すでしょう。
逆に本物のジャガイモ明太チーズお好みの生地がこのドンキホーテのサッカー台にぶちまけられていたら、お客さんは「うわー怖いバッチぃ!!」と逃げて行き、店の人はゴム手袋にマスクにゴーグルの完全装備・決死の覚悟でジャガイモ明太チーズに挑むでしょう。
そう考えると、不思議だね。

………………。
最初にちょっとだけ、今回の日記のほんのプロローグとしてこのエピソードを入れるつもりだった。
さらっと触れて、残りはいつもの日記を淡々と書く予定だった。
しかし私はただでさえエピソードトークを広げ過ぎる癖がある男、なおかつ汚い話、汚物の話が大好物で、汚物はとことん広げないと気が済まないという性格である。これはもう病気だ。汚物広げ病である。わかばさんを受診して薬を出してもらおう……汚物を広げる症状を和らげる薬を……。

今回は一切話が進まなかったので、本編とは別の、番外編にしました。ごめんなさい。
この後は、9月24日のマザコン94へと続きます。


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