漫画家杉谷庄吾先生の隠れた大傑作、「夕暮れのエデン」

漫画家杉谷庄吾先生をご存知でしょうか。またの名を人間プラモ先生。2017年、pixivに投稿された「映画大好きポンポさん」がまたたく間にWEB上で話題となり、マンガ大賞2018にて10位入賞を果たしました。また、「ポンポさん」は2021年6月には映画化も控える人気作となっています。

その杉谷先生が2017年秋、ジャンプSQ.CROWNに一本の読み切りを掲載しました。その作品名は「夕暮れのエデン」。本作は現在に至るまで単行本化されることなく、ジャンプSQ.CROWNは2018年1月号をもって休刊となってしまいました。

しかし、この作品が大傑作なんです。

今作は漫画家を目指す二人の少年と、ひょんなことからそれを手伝うことになったSF好きで元小説家志望の女の子のお話です。今作は物語を「創る側」になりたいと一度でも思ったことのある人にはきっと刺さります。そして特に、自分には才能がないと絶望したことのある人にぜひ。
※ちなみに「映画大好きポンポさん」も名作なのでめちゃくちゃおすすめです。

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語りたい点は多岐に渡りますが、本作の魅力として特にお伝えしたい点は下記の3つです。

①創作の喜びと厳しさ
②上記を語る上で裏打ちされた技術
③隠れた名作に触れられること

これから下記にて詳細をご説明します。

①創作の喜びと厳しさ
まずはこちらです。杉谷先生の出世作である「ポンポさん」にもテーマとして表現されており、多くの人に刺さった原因とも思える先生の強みですが、今作「夕暮れのエデン」でも余すことなく発揮されています。

新たなマンガのストーリーを考えることになり、教室で作品の構想を3人で練っているシーンでアイデアとして出た「夢あふれるロボット」というキャラ設定を、シャッと絵にして具現化する門倉(下記画像の眼鏡の少年です)。これはマンガ的表現ですが、自分の頭の中で想像していたカッコよさ、憧れを目に見える形で具現化できるというモノづくりの楽しさそのものです。

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出典:ジャンプSQ.CROWN 2017AUTUMN P.630より引用

そうやってモノづくりに憧れた人間の心を踊らせたかと思うと、本作はすぐに抉ってきます。少年二人のマンガ作りを手伝うことになり、過去に小説を書いて挫折をしたことのある少女、白井は自らも抱えた創作への焦りや天才への嫉妬心を門倉に問いかけます。しかし門倉は焦りや嫉妬はないと言い切ります。

俺には生まれ付きの才能が無いって事は嫌でもわかったから
そんな自分がプロのレベルに到達するにはどうすれば良いんだろうって考えた
けど一足飛びに技術が上達するような裏技なんかあるわけないし
他人に聞いた所でそれは俺の答えじゃ無い
そもそもそんな事で悩むヒマがあったら
漫画の1ページイラストの1枚でも描いてる方が
効率は悪くても前進するのは確実だから
とにかく描きまくったんだ
出典:ジャンプSQ.CROWN 2017AUTUMN P.665より引用

門倉は創作ができなかったことを「才能」という安易な言葉に逃げさせてはくれません。上達するために「描きまくる」というシンプルで難しい回答に対して奥歯を噛みしめる白井。それができなかった自分を見つめながらもなんとか絞り出すように、感嘆の言葉を口にする白井に対して門倉は下記の言葉を投げかけます。

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出典:ジャンプSQ.CROWN 2017AUTUMN P.666より引用

この回答。ド正論です。
昔、白井と同様に小説家を少しでも目指した人間としては、ぐうの音もでません。才能なんて関係がないし、上達のためには少しでも創り続けるしかない、と創作への愛と厳しさをひしひしと感じます。※余談ですが、先日放送されたエヴァンゲリオン監督の庵野秀明監督のプロフェッショナルに突き刺された方も多いかと思いますが同種のえぐみがあります。

②上記を語る上で裏打ちされた技術
上記で述べたように、今作は創作の楽しさと厳しさを描き出しており、マンガ創りにおける才能や努力について存分に語られています。それはすなわち杉谷先生自らの作品で自らのハードルを高めていることに他なりません。

そんな中で先ほどもご紹介した教室で作品の構想で3人で練っている際のシーンで「主人公の前に立ちふさがる障害が必要だ」という曖昧なお題に対してこの回答。

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出典:ジャンプSQ.CROWN 2017AUTUMN P.634より引用

複雑なデザインであると劇中で言及し、それを実現できる杉谷先生に恐れ入ります。作中で凄さを語れば語るほどハードルが上がるにも関わらず、臆することなく描ききるその技術力によって創作の楽しさを語る物語の説得力が増していますし、先生へのあこがれが募ります。

③隠れた名作に触れられること
さて最後の一つがこちらです。ポンポさんがpixivに掲載された理由を作者の杉谷先生は「商業誌から無視されつづけたので、ネットで発表するしかなかったのです」と語ります。今作はポンポさんで話題となったのちの商業誌掲載ではありますが、単行本化もされていません。

マンガ読みのみなさんは日々面白いマンガを探していることだと思いますが、もしもまだ、本作を読んだことがないのであればこれほど羨ましいことはありません。こんな隠れた名作に新たに触れられるからです。きっと世の中にはまだまだ面白いマンガがたくさんあると思わせてくれるはずです。

上記のように書いていますが、恥ずかしながら自分も読むことができたのは最近のことです。杉谷先生のことを知った2017年当時、雑誌のバックナンバーを手に入れる手間の多さに負け、読み切りを読むことができていませんでした。しかし今ではkindleでも読めるようになり、手に取るとなぜあのときに読めなかったのかと後悔しました。そして自分も少しでも何か創り出したいと思って、このnoteを書いています。

「夕暮れのエデン」は読むと人生が変わるかもしれないと思える作品です。一度でも「創る側」に立ちたいと考えたことのある方はぜひ読んでみていただければ嬉しいです。この物語を読んだみなさんの面白い作品に触れられることを願っています。

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