『悲しみよこんにちは』フランソワーズサガン

 期待を大いに裏切られた。もちろんいい意味で。女性作家、フランス文学、戦後すぐの作品という今までから考えると刺さらない要素だらけだったはずなんだけどすらすら読めたし、かなり身につまされた。結局どれだけ思春期の悩み好きなんだって話になってくるわけだけれど。それにしてもこれを18歳で処女作として書いたということは驚くほかない。ただ若いからすごいというよりも若くなければ書くことのできない作品だとも感じた。若くてこんな小説を書けるからすごいのではなく、適切なタイミングで適切な言葉を選んで作品にしたことそのものがすごいんだろう。

 読みながら考えていたのは、すごく偏見ではあるけどあまりサガンの他の作品を読んでみたいとは思わないなということ。おそらく処女作であるこの作品が少なくとも自分にとっては最も刺さる作品だという確信がなぜかあった。初期衝動や思春期の危うさみたいなものが漏れ出していて、そこが刺さった中で作品を積み重ねていくうちにそれらが消化されていきそうで。きっと洗練されていくんだろうけど、それ残念に感じてしまうんだろうなという気がした。ただこれは読まず嫌いをしているだけなので戯言として聞き流していただいても一向に構いません。

 作品そのものに目を向けるとセシルの独白がどれもこれも魅力的だった。危うさと強情さと繊細さとが織り交ざって行き場をなくした思いが噴き出してくるような姿は読んでいていたたまれなく。少し自己投影するのが難しかったのも事実。ただそれは作者の力量というより読み手の問題だろう。感情移入できないというよりはしたくないというのが正しい気がするから。自分自身の立ち位置を突きつけられるようなそんな作品。繊細だけど激しく感情を打ち付けてきて読後すこし呆然とした。いい作品だった。

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