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Once upon a time…

紫陽花の季節シリーズの登場人物、御葉付き銀杏の精霊【御葉】の昔語りです。


私は御葉。八幡宮の御葉付き銀杏の精霊です。
普段は八幡神さまの声を聞き、土地の穢れを祓ったり人間の厄祓いをするお手伝いをしています。

今日は私の昔の話でもしようかと思います。

私の本体は鎌倉に武士政権があった頃に、この地に植えられました。
私が精霊の形をとれるようになった頃は、まだ八幡神さまはこの地に遷座しておられませんでした。

私が文字や人間のことを教わったのは、今は境内社の一柱になられた神さまでした。
人間の間では荒々しい印象で伝わっているけど、実はとても穏やかな方なんですよ。
八幡神さまが江戸政権初期の頃にこの地に遷座された時、私を八幡神さまにお仕えさせることを決めたのもこの神さまでした。

あの頃は精霊も大勢いましたが、今は当時を知る精霊は私だけになってしまいました。
ケヤキの精霊・涼見(すずみ)が形をとった江戸政権末期は精霊も消えていってしまったのです。

精霊は人間の想念で生まれます。
私のこの巫女姿も、当時の神職の影響で形をとりました。
だから滅びるときも人間の影響を受けます。
流石に神域の精霊は簡単には消滅しませんが、普通の精霊は人間が「精霊を信じない」と言っただけで消えてしまうそうです。

今は涼見、紅葉(くれは)、朔(さく)と人間を見守る日々を過ごしています。
私がそらに還る頃には、この中の誰かが八幡神さまの声を聞けるようになっていると良いのですが。

ああ、今日もひなた殿がお参りに来てくださいました。
それでは、そろそろお暇いたしましょう。
昔の話を聞いてくださり、ありがとうございました。

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