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私の日傘【#シロクマ文芸部】

私の日傘が盗まれた。
50年前に夫から贈られた、オーダーメイドの大切な日傘が。

最近は生地が劣化してしまい、ほとんど使っていなかった。
結婚記念日だからと、久しぶりに使った矢先の出来事だった。レストランの傘置きからこつ然と姿を消してしまったのだ。

夫は「新しい日傘を買ってあげる」と言ったが、私は「あの日傘じゃないとイヤ」と、年甲斐もなく駄々をこねた。

せっかくの記念日が、悲しい思い出になってしまった。

2週間後、リビングで、夫が照れくさそうに杖みたいな形の包みを私に差し出した。

「私、まだまだ杖なんか使わないわよ!」
私は夫に年寄り扱いされたようで、悲しかった。

「まぁ、開けてみなよ」
夫に促され、包みを開けた。

「これ、私の日傘?」
確かにそれは私の日傘だった。

「日傘が無くなった次の日、レストランに問い合わせたら、日傘が戻ってきてたんだ。だけど、もうボロボロだったから、修理屋で日傘の布地を張り替えてもらっていたんだ。似たような色をオーダーしたんだけど、どうかな?」

私は日傘を開き、柄をくるくる回した。真新しい生地に張り替えたお陰で、あと何十年も使えそうだった。

「こんなに良い状態になったのなら、お互いもっと長生きしないとね」

「ありがとう」と素直には言えなかったけど、夫は穏やかに微笑んでいた。


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