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親父の救援物資

家を出るときに荷物が届いた。親父からだった。急いでいたので、受け取るだけ受け取り、中を確認せずに家を出た。  

先日地方に行って2両編成の電車に乗ったとき、乗客の9割くらいが外国の人で、僕以外全員マスクをつけていた。
そうえいばさっき駅に行く途中、すれ違った人のほとんどがマスクをつけていた。  

普段マスクをつける習慣のない僕だが、さすがに怖くなってコンビニに入って探すも、マスクはない。薬局に入って店員さんに聞いてみてもやはりない。  

「あ!」と思った。さっき受け取った親父からのダンボールにはマスクが入っているに違いない。それは予感とか期待とかではなく、なにか確信めいたものがあった。  

上京したてのころ、お金が無さ過ぎて携帯電話も止められ、牛丼一杯食べるお金すらもなく常に腹が減っていた時期があった。そんなときに親父から荷物が届いて、開けてみたら「焼そばUFO」が1ダース入っていたことがあった。狂喜乱舞し、あまりにも空腹なので一気に食べようと3個開封して準備をしたけれど、そのときの部屋にはやかんも鍋もなく、なぜ買ったのかわからない、その部屋には場違いな小ぶりのミルクパンしかなかった。

そのミルクパンで沸かしたお湯はギリギリ2つ分くらいにしかならず、とりあえず2つにお湯を入れて食べた。極限の空腹状態が続いていたので胃が縮んでいたのだろうか、UFOふたつで苦しいくらい満腹になったのを覚えている。  

そんな「ピンチにナイス救援物資を届ける」という実績が親父にはあったので、今回届いた段ボールにはマスクを入れてくれているはずだという確信に近いものがあった。「東京ではなかなかマスク手に入らへんやろ!」と言う親父のドヤ顔が
頭に浮かんだ。
しかもあの大きさのダンボールなら、けっこうな量のマスクが入っているはずだから、周りのマスクがなくて困っている人たちにも分けてあげようと思い、家に帰るとすぐさまダンボールを開いた。  

しかし、マスクは一箱どころか一枚たりとも入っておらず、かわりに「金ちゃんラーメン」や「イカ天大王」、「スモークカルパス」なんかが入っていた。マスクよりも嬉しかった。



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