見出し画像

職域救急シリーズ 第2回

さくらSOC労働衛生コンサルタント•産業医事務所です。
職域においては、救急医療の知識を発動する機会はそう多くはないとは思います。それでも産業保健の現場でその知識をタイムリーに役立てることができれば、事業者側の産業保健側への信頼が爆上がりするかもしれません。そんなことを考えながら、第2回の事例です。事例は、私の経験をベースにしつつもフィクションに仕立てています。


1:事例

45歳男性(以下Aさん) 頭痛、不眠

某大手製造メーカーの営業部門、課長職。仕事柄、取引先との会食や宿泊を伴う出張も多い。毎年の定期健康健康診断では、特記すべきことはない。年間のうち、1/3程度は、全国のどこかを出張している。この会社では、出張が多いまたは月残業が45時間を超えるけれども、長時間法定医師面談の要件には達していない従業員に対しては、保健師が積極的に声掛けを行い、健康確認面談を行う仕組みがある。Aさんには、今回この健康確認面談の声掛けがかかった。いつもはそれを断るAさんではあったが、今回は、自分にも最近に気になる症状があったので、この声掛けを機会に保健師の面談を受けることとした。

<健康確認面談>
保健師:
「最近調子はどうですか?」
Aさん:
「程度はそれほどでもないのですが、最近頭痛があります。それが気になって夜間に目覚めることも・・・。あ、そういえば、2か月くらい前に取引先の社長さんとの会食の帰りに、お酒のせいか足下がふらついて転倒し頭を強打したんですよ。社長さんがびっくりして救急車を呼んで、大事になっちゃいましたよ。(笑い) でもね、救急病院で、頭部X線、頭部CT、採血検査があって、全く問題なしで即日帰宅となりました。それからは特に何もなんともありません。」
保健師:
「ああ、そんなことがあったのですね。それは大変でしたね。まあ、2か月も前の話ですから、それは大丈夫でしょう。それよりも、頭痛と睡眠の問題は、うつ症状の前触れかもしれません。次回、メンタル専門のうちの顧問精神科医と一度面談してみませんか。2週間後となります。」
Aさん
「わかりました。お願いします」

2:問い

上記保健師面談において、おやっ?と引っかかるところはありませんでしょうか? 今回はそれが問いとなります。

※続きは、このページに追って更新します。2024年9月11日AM741

3:問いの続き

保健師面談を終えたAさんは、2日後救急搬送された。仕事中に、頭痛の悪化に加え、半身が動きにくなったからだ。救急隊は脳梗塞の疑いだった。

搬送先の救急外来で、型どおりの初療が行われ、当然にその一環として頭部CTが撮られた。脳梗塞ではなかった。

慢性硬膜下血腫だった

https://square.umin.ac.jp/neuroinf/medical/306.html




慢性硬膜下血腫は、比較的軽微な頭部打撲の後、約2か月前後で発症します。産業保健職の方々が、この病態を把握しておくことで、その後に起こり得る可能性として説明しておくことができます。もし、それがその通りになれば、あの保健師の方は、すごいわと会社から一目置かれる存在になるような気がします。

今回の保健師面談では、まず、慢性硬膜下血腫の可能性を疑って医療機関受診を薦めておくのが、優先事項でしょう。身体症状が前面にでてくる仮面うつみたいな病態を前提に、精神科医にバトンタッチするのは、このような除外しておくべき器質疾患を確実に行った後で検討するのがよいでしょう。

2024年9月12日 AM630 記述