見出し画像

外向性・内向性とは何か(1);4つの心理療法の位置づけ

■シリーズの関心事

 16パターン性格診断はMBTIから派生したもので、さらにMBTIはユングのタイプ論の派生したものではあるのだが、16パターン性格診断はユングのタイプ論の名残があるものの、ほぼ別物と考えた方がいい。例えば、16パターン性格診断のSN軸(感覚-直観)は、ユングのタイプ論で言えば「外向性-内向性」と「感覚-直観」が入り交じったものになっている。同時に16パターン性格診断のEI軸(外向-内向)は「共同体と個人の関わりの志向」であって、ユングのタイプ論の「外向性-内向性」とは相当に異なる。したがって、16パターン性格診断におけるEI軸(外向-内向)をユングのタイプ論の外向性-内向性と同じものと解釈すると、16パターン性格診断の各タイプについて相当な誤解が生じる。また、ユングのタイプ論の「感覚-直観」と16パターン性格診断のSN軸(感覚-直観)を同じものと考えた場合も同様だ。

 そこで今回の記事では、ユングのタイプ論の「外向性-内向性」に関して、河合隼雄のサーベイ論文で示された「外的-内的」の枠組みに従って、行動療法・フロイト派(精神分析)・ロジャース派(来談者中心療法)・ユング派心理療法の特徴から、ユングのタイプ論の「外向性-内向性」の「外」「内」が何を意味しているか見ていきたい。

 ただし、本稿でこれから述べる内容に関してまず注意を促しておく。まず、私は心理学や精神医学の専門家ではない。したがって、専門的見地からは不正確・不適切な内容になっている可能性があることを断っておく。もしも、深刻な精神状態の人は医学的治療を受けて欲しい。また不安というレベルの人は専門家に相談してほしい。


■ユングのタイプ論における「外向性-内向性」

 ユングのタイプ論の外向性-内向性を考えるとき、日本におけるユング心理学の泰斗であった河合隼雄の論文を参照すべきだろう。以下のサーベイ論文が分かり易い。

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/282533/1/eda28_001.pdf

 この中で「外向性-内向性」がどのような意味を持つかは以下の箇所を読むと理解できる。

Klopferと Spiegelman(1965)の論文は,心理療法における学派の相異をタイプ論によって説明しようとこころみたもので,これは最近におけるタイプ論に関する研究の先駆をなすものと思われ,貴重な論文であると考えられる。この論文は Meierの60歳誕生記念論文集に掲載されたものであり, Meierに教育分析を受けた Klopfer と Spiegelmanが, Meierの分析の特徴を明らかにする意味においても論じたものである。彼らは外向ー内向を考える上で, 「患者の現実」と「治療の過程」という 2次元において考えることを提案した。そして,それぞれを図に示すように横軸・縦軸としてとると, 4個の領域ができる。左上の領域は患者の外的現実(たとえば,症状)に目を向け,治療過程においても外的な面に注目してなされ,そこでは指示する (direct)ことが主たる技法となる。左下の領域は,患者の外的現実に目を向けるが,治療過程としては患者の内的成長に焦点をあてるもので,相手の感情を反射する (reflect) ことが主となる。これらに対して,右側は患者の内的現実,つまり,夢や自由連想法などによる無意識界の探索に重きをおく。その上側では治療過程において,患者の対人関係の改変など外的な方に注目するので,解釈する (interpret) ということが主となる。これに対して,右下は患者の内的現実に目を向け,治療過程においても内的成長を目指すことになる。ここでは,患者の自己実現の過程を布置する(constellate) ことが重要となる。以上の考えに従って, Klopfer と Spiegelmanは,それぞれの領域に概当する代表的治療者として,Thorne,Rogers, Freud, Meierをあげている。筆者としては図に示したように,それぞれ,行動療法,ロージャズ派,フロイト派,ユング派の特徴を表わすものと考えた方が,より適切ではないかと思っている。

河合隼雄(1982)Jungのタイプ論に関する研究――文献的展望――,京都大学教育学部紀要 XXVM,p7
(強調引用者)

 上図は河合が Klopfer と Spiegelmanの図を基に一部改変を加え作成したものだ。この図では「患者の現実」と「治療の過程」のそれぞれの軸が示してる「外的-内的」から、各象限に割り当てられたそれぞれの心理療法のそれぞれの次元の外向性あるいは内向性が表されている。つまり、それぞれの心理療法の「アプローチの対象」と「改善を目指す対象」を見ることで、「外」とは何を指しており、「内」とは何を指しているのかが明らかになるのだ。

 これから河合による図(図2)を見ていくわけだが、その前に精神トラブルのレベルについて注意をしておきたい。

 精神トラブルにおいて、過重労働・過大な精神的重圧・事故や事件などで重大なショックを受ける等の事態によって突発的な希死念慮に襲われる急性鬱症状が出る状況がある。このレベルの精神トラブルは図2の心理療法の対象ではない。また、器質的疾患による精神トラブルも、二次障害ならばともかく一次障害に関しては図2の心理療法の対象外である。

 また、行動療法の対象の精神トラブルは日常生活において支障が生じているレベルの精神トラブルも扱うものである一方、ロジャース派やユング派が対象とする精神トラブルは日常生活をおくる上では然したる支障がない。もちろん、ロジャース派やユング派が適応的な対象も慢性的な問題として患者自身および周囲の人間にとって大きな問題となっていることもある。

 以上のことを抑えたうえで、図2を見ていこう。

 まず縦軸の「治療の過程」なのだが、実際の行動面で現れる不適応の改善が目指される「外的」という方向性と、抑うつ状態の改善といった精神状況の改善が目指される「内的」という方向性の軸を指している。日常的な言い回しで表現すると「ヘンテコな行動をしなくなるようにしよう」という外向的治療と、「ハッピーな精神で居られるようになろう」という内向的治療と言える。したがって、「治療の過程」軸の「外的」方向は、現実世界の状況の改善を志向している。また、「治療の過程」軸の「内的」方向は、観念世界の状況の改善を志向している。つまり、外向性とは現実世界を志向することを指し、内向性とは観念世界を志向することを指すのだ。

 次に横軸の「患者の現実」なのだが、患者の現実世界の状態にアプローチする「外的」という方向性と、患者の観念世界の状態にアプローチする「内的」という方向性がある。つまり、アプローチの対象が「外的=現実世界」なのか「内的=観念世界」なのかの違いである。横軸に関してはそれぞれの心理療法を詳しく見ていく中で、それが何を指しているのか明確に理解できるように示そうと思う。

 では、これからの記事で4つの心理療法がどういうものか、それぞれの心理療法の「アプローチの対象」「治療の目的とする対象」を確認することで、それを導きの糸にしてユングのタイプ論における「外向性・内向性」の「外」「内」が何を指しているのか掴みたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?