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何でも屋探偵団カエステル「第1話 私は、彩野かえで!あなたは?」

親友の望(のぞみ)を探している繋森恵子(つなもりめぐこ)こと恵子は、たまたま見つけた探偵事務所に足を運んだ。

カンカンと音を立てながら、鉄の階段を上がっていく。

建物自体は、少し古びており、古参臭い雰囲気が漂っている。

いよいよ木製の扉の前までくると、恵子は思い切って、ドアノブを捻り、扉を開ける。

カランカランと来客用の訪問ベルが鳴る。

「あ、いらっしゃいませ~。すっごく若いお客さんだね~」

そこにいたのは、自分と年齢の変わらない容姿をした、マゼンタ色の髪の少女だった。

ポニーテールがゆらりと揺れ、おそらく髪飾りであろう青紫色の冠が印象的だ。
青い目がきらりと光り、その目は恵子をはっきりと映している。

手には、金髪に空の様に青い目を持つ20cm程のぬいぐるみ人形を持っている。

なんだろう、イメージと違う。
そう思った恵子は、帰ろうと思った。

「あ、あの……違うんです……。お、おじゃましまし……」

「違わないでしょ。どうせ、行方不明事件の事じゃないの?」

「!」

意外と依頼が多いのか、見抜いてきた少女に恵子はソファに座らざるを得なかった。
何故か知らないがこの人ならどうにかしてくれる。

少女の真っ直ぐな眼に、なんだかそんな気分になってしまったのだ。

「そうね。まずは自己紹介から始めましょうか。私は、彩野(あやの)かえでです!何でも屋であり、探偵をしています。 あなたは?」
「明里が丘高校1年の繋森恵子です。」
「繋森さんね。よろしくお願いします」
「あ、い、いえ、こちらこそ、よろしくお願いします」

頭をぺこりと下げる彩野かえでに、恵子も頭をぺこりと下げた。

「それで、誰を探してほしいのかな?」
「実は……」

恵子は望の事を話した。かえでは、口調とは裏腹に、親身になって聞いてくれた。

「なるほどね。蛙好きの友達が3日前から行方不明……と」
「そうなんです」
「最近多いのよね。そういうの。この前も、昨日も、同じ依頼があったけど……」

かえでは訝しい顔をしていた。
どうやら、かえでもてこずっているようだ。

「見つかりますかね?」
「無事ならきっとね」

かえでの軽くも少し意味深な雰囲気のある言葉に、恵子は少し不安を覚える。
とんでもない何かがある。かえではまるで、そう言いたいかのように感じた。
ところでだが、恵子はさっきからかえで以外の何かの視線を感じていた。

「ところで、あの、その人形……」
「ああ、この子? アルクスレっていうの。私の相棒よ」

かえでは笑顔でぬいぐるみ人形を見せてきた。
自作のぬいぐるみだろうか? と、恵子がぬいぐるみの目を覗き込んだ時だった。

ぱちりと確かにぬいぐるみが瞬きをしたのだ。

恵子は「ひゃあっ!?」と叫んで飛び上がる。

「ど、どうしたの?」
「今、その人形、目をぱちっって……」
「そんなわけないじゃない。やだなあ、アハハハ!!」

かえでは笑っていたが、明らかに焦っているのがわかった。
突然後ろを振り向き、人形に向かって何かを言っている。

「アル、もうちょっと頑張れなかったの!?」
「わ、悪い。なぜかわからないが、油断して……」
「油断? あの子に何かあるって事?」

「あ、あの~……」

かえでは我に返って、ほっぽりだしていた恵子の方を向いて謝罪する。

「ご、ごめんなさい~! でも、瞬きなんて気のせいだと思うよ?」
「喋ってましたよね?」
「……」
「私、地獄耳ってよく言われてて……その……聞こえ……ました。彩野さんと、その子の会話が」
「……」

恵子の言葉に硬直するかえでとぬいぐるみ人形。
思わずため息をついてしまうと、かえでは真剣な目で恵子にこう伝えた。

「秘密を知ってしまった以上は仕方ないわね」
「は、はあ……」

(私、もしかして不味い事しちゃったんじゃ……)と恵子は不安になったが、かえでは恵子の両肩を優しくつかむとゆっくりと話し始める。

「信じてもらえないかもしれないけど、私とアルクスレは——」

しかしその言葉は、外からの悲鳴によってかき消されてしまった。

「! かえで! もしかすると……!」
「そうかもしれないわね。 繋森さん、悪いけどここで待ってて!!」
「え? ちょっと!」

かえではぬいぐるみ人形を持ち、事務所を飛び出して行った。

「いま人形喋りましたよねえ~!?」

恵子はじっとしてられず、後を追う事にした。

……

商店街。人々がざわざわとざわついている。
それどころか、騒ぎは大きくなっている。

それもそのはず。目の前で人が消えた。いや、魚や動物、道具に変わったのだ。

1人の少女が持つ1つのスマートフォンによって。

小学生程の少女は、商店街にいる人々を次々と様々なものへと変えていく。

取り上げようと立ち向かうものもいるが、少女はそれらも動かぬ物へとスマートフォンを通して変えていく。

「アハハハ! すっごく快感! 嫌な人達みんないなくなる!! 楽しい! 楽しいなあ……!!」

少女がスマートフォンを別方向へと向ける。そこには、こちらに向かってくるぬいぐるみ人形を抱えたマゼンタ髪の少女がいた。彩野かえでとアルクスレだ。

「もしかして、噂の探偵さん? でも無駄だよ」

少女は笑って、スマートフォンで探偵を撮影する。しかし、探偵が何かに変わる事はなかった。

「な、なんで!?」

少女はスマートフォンの連射機能を使うがそれでも探偵……かえでが何かに変わる事はなかった。

「あなたが、事件の犯人ね! 大人しくそれを渡してもらおうかしら!?」

かえでは、少女にスマートフォンを手渡すように要求する。
しかし、少女は簡単にその要求を受け入れたりはしなかった。

「絶対に嫌! わたしの嫌なもの、全部無くすんだから!! この……『マジカル変身アプリ』で!」

少女はそういうと突然自分を撮影しはじめた。
すると少女の体はみるみると大きくなり、足は尾っぽとなり、舌の先は二本に別れて細くなる。
巨大な蛇女へと姿を変貌させた。

それを見た人々は、たちまち悲鳴をあげ、叫び、逃げていく。

「消えないのなら、潰れちゃえ!!」

少女だった蛇女は、尾っぽを高く上げると、かえでへ向かい叩きつけるように振り上げる。
かえでは真剣な表情で見極め、咄嗟に回避し、蛇女の首にぶら下がっているスマートフォンを狙い、走り抜けようとする。
しかし、蛇女は意外にも動きが早く、なかなか近づけない。

「かえで、無理はするな!」
「でもどうしたらいいの!?」

かえでは蛇女を見上げる。
あのスマートフォンさえ取り上げる事ができればなんとかなるのに。

……

「彩野さん! 彩野さぁ~ん!! どこに行っちゃったの!?」

恵子はかえでの事を探していた。まさか、商店街で騒ぎが起きているなんてことは知らなかった。
どうやら、かえでは恵子よりも耳が良いようだ。

「うぅ……このままじゃ、望も彩野さんも……? 私、どうしたら……」

その時、ケロケロと地面から声が聞こえる。
そこにいたのは小さな緑色の蛙だった。こんな夏一歩手前の頃、またしても雨が降ってもいない良い天気の日に蛙?
と、恵子は疑問に思う。

蛙はぴょんぴょんと跳ねると、少し行った先でぴたりと止まり、恵子をじっと見つめていた。

「……? のぞ……み……?」

何故かわからないが、恵子はそんな予感がした。
蛙の首を傾げる仕草が望と合わさって見えたのだ。

「も、もしかしてだけど……望なの……?」

恐る恐る蛙に近寄ったその時だった。商店街の方から、大きな音が聞こえてきた。
まるで工事現場。いやそれ以上に大きな地面を壊しているかのような、何かの音。

「!! 彩野さん!!」

そこにいる。そう確信した恵子は、商店街の方へ走っていく。
蛙も一緒に頭に飛び乗ってきたが、気にしている場合じゃない。

とにかく恵子は急いだ。

……

商店街はボロボロになっていた。かえでも、避ける事に必死で、思う様に動けない。

「かえで、無理はするな! 俺をおとりに……」
「無理よ! アルじゃ避けきれないでしょ! それに、アルがいなくなったら、私……」

こう会話している間にも、蛇女は攻撃する事を止める事はない。
蛇の尾っぽを思わず受けてしまったかえでは大きく飛び、地面に叩きつけられる。

「うぅ……仕方ないけど、私の体を……」

かえでは自身の体を少し溶けはじめた時だった。

「彩野さん!! いたあああー!!」

「!? 繋森さん、なんでここに!?」

目を見開き、かえでもアルクスレも驚いていると、恵子の頭の上の蛙がぴょんと恵子の頭の上から降りる。

「その蛙……もしかして、見つかったの!?」
「え? 何がですか!?」
「望ちゃんだよ!」

かえでの発言に少し困惑しているもその間にも蛇女は悲鳴にも近い叫び声をあげる。
どうやら、心が体に引っ張られ、我を忘れているように見えた。

蛙は果敢にも、その蛇女に立ち向かっていく。

蛇女は蛙に夢中になっていた。小さな蛙を必死で捕まえようと暴れている。

「ありがとう、繋森……ううん。恵子ちゃん、私達はもう大丈夫!」

かえではにこりと恵子に微笑むと、アルクスレを恵子に渡し、蛇女を睨み上げる。
そして、右腕で狙いを定めると、液状になった右腕を飛ばす。
右腕は伸びて、蛇女の肩を掴んだ。

「え、えぇ~!?」

かえでの人間離れした技に、恵子は驚きのあまり、目を見開く。

更にかえでは右腕に引き寄せられ、引っ張られる形で、蛇女に急接近する。
そして……スマートフォンを手に取る。

「これで、おわり!」

そして、『マジカル変身アプリ』の『全解除』ボタンをタップする。

その瞬間、蛇女も、動物も魚も道具も他の物も人間に一瞬で元の姿に戻った。

蛙も、黒髪の少女に姿を変えていた。
その蛙の正体は、変身アプリで姿を変えられていた望だったのだ。

「望!!」
「恵子~!!」

恵子はようやく見つかった望を抱き寄せる。望はへらへらと笑っている。

「あの……くるし……」
「えっ、あ、ご、ごめんなさ……!!」
「? 何謝ってるの? 恵子?」
「あっ! えっと、なんでもないの! えへへ……」

望と恵子の間に挟まれていたアルクスレは思わず声を出してしまった。
が、恵子がなんとか誤魔化してくれたことに少しホッとする。

かえでが『マジカル変身アプリ』を消すと、それはまるで最初からなかったかのように消えていく。

「事件解決ですか?」
「まあ、そんなところね」

「ぐすっ……ぐすんっ……こんなつもりじゃなかったの……。わたし、いじめっこがいなくなればいいだけだったのに……」

蛇女だった少女は、しくしくと泣いていた。
かえでは少女の肩を優しくさする。

「アプリに魅入られたんだよね? 大丈夫。あなたは何も悪くないから」

少女はかえでの胸の中で、わんわんと大声で泣き始めた。

……

「——というわけで、私に戦わせた事、アルクスレの事などなども含めて25万円になりま~す」
「に、25万円!?」

恵子は女子高生には払うのは難しい値段に驚愕……とまではいかなくてもぎょっとしていた。

「そ、そんなに払えませ……いえ! バイトでなんとか頑張ってちょっとずつ払いますので!!」

と、恵子は必死でそう言ったが、かえでは「でもやっぱいいや」と答えた。

「今回の事、感謝してる。だから、代金はいらないや」
「で、でも私、何もしてない……ですし! かえでさんのおかげなんですよ!! 望が見つかったのも、全部です!」

恵子はそう返すが、かえではなかなか頷かない。
こうなったら、と恵子は奥の手段に出る事にした。

「だったら、私がここのバイトをして少しずつ返します!! これは強制です!! それでいいですね!?」

ずいっとかえでにそう言い放った恵子に、かえでは困惑する。

「い、いやそれはちょっと、こっちも生活ってのがあるんで~……」
「だったらなおさらです!! お金は必要ですよねえ!? お手伝いもちょっとは欲しいんじゃないんですか!?
 そもそも!! アルクスレさんが元々人間だった説明もかるぅ~く受けましたし、かえでさんが記憶喪失なのもかるぅ~く聞きましたし、私はもはや他人じゃない!! だったら、バイトになるぐらい——!!!」
「わ、わかった! わかったから! そんな早口で言わないで~!」

恵子の気迫に思わず押されてしまったかえでは、恵子を受け入れた。
アルクスレはそんなかえでと恵子を苦笑して見ていた。

こうして、恵子は何でも屋で探偵のかえでの下で働く事となり、
かえでとアルクスレは、初めて自分達二人以外に正体を明かす事となった。

はたしてこの3人。この先どうなっていくことやら。

そして、少女に『マジカル変身アプリ』を与えた者は何者なのだろうか?

その何者かは探偵事務所の中を見下ろし、怪しく微笑んでいた。


金額を絶対に払うという意思から、半端強引にアルバイトになった恵子と、押しに負けてしぶしぶ受け入れたかえでとぬいぐるみ人形のアルクスレ。
果たしてこの3人、この先どうなっていくことやら。

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