2020.12.21 テツ

僕はバンドをやっていた。


メンバーは僕(6弦引き)、太鼓叩き、テツの3人だった。紛れもなく、その3人だった。

下手くそなウタ、走るビート、合わないリズム。
それはもう、ダサい。見てられない。聴いてられない。笑われるのもわかる。

ただ、やっているぼくらは、最高の二文字だった。

太鼓叩きとは、小学校からの幼馴染みだった。
テツと出会うのはずっと後だった。
二十歳だっただろうか、太鼓叩きの友人を紹介してもらったきっかけだ。

テツは、いつも笑顔で、僕より元気で、やっぱり何と言っても、笑う。笑う。その180cmの巨体は笑う。高い声で笑う。
その笑顔が好きだった。今でももちろん大好きだ。

テツがアホなことを言い、太鼓叩きが冷たく遇らい、僕が止めるような仲。


境遇が全く違う3人。生まれも違う3人。感受性もあり得ないほど異なる3人。
ただ、息は、誰よりも合った。驚くくらい。


なんでもよかったんだ。

僕は、正直音楽は好きじゃない。嫌いとは言わないが、好きではない。

ただ、日常に感じるどうしようもない、行き場のない、救われない、ただ、ただ死んでいくこのぼくたち三人の想いを、その想いを表すツールが音楽だっただけだ。
なんでもよかった。
それでも、ぼくが掻き鳴らし、たいこたたきが骨を創り、テツが脈を打つ、このぼくたちの、ぼくたちだけの、ぼくたちのためのおんがくが、世界を変えることを祈りながら、ぼくは唄った。
声を枯らし、涙を流し、唾が飛び散り、想いも届かず、ただ唄った。ただ掻き鳴らした。ぼくたちは掻き鳴らした。



そんな、テツが、遠くに行ってしまう。
僕も故郷を捨て、遠くに来た。

そうだ、ついに全員離れ離れだ。
物理的な距離は、驚くくらい離れている。

ただ、心はそこにある。

唄は続いていく。

死なない。

ただ、生き続ける。

ぼくたちが生き続ける限り。

いや、死んでもなお。

唄は続いていく。

ぼくたちは、出逢うべきして、出逢い、唄を唄い、音を鳴らし、笑い、明日に震え、明日に恐れ、それでも、それでも、それでも、情けない、ぼくたちの歩き方で、今日まで歩いてきた。

きっとこれからも、ぼくたちのとなりに、ふたりはいない。

ただ、おなじ目標に向かい、歩き続けるだろう。

死ぬまで。


死んでも。


2020.12.21 テツ

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