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おくのほそ道 英訳1〈夏編〉平泉・象潟・立石寺・最上川

おくのほそ道に詠まれた松尾芭蕉の有名な句を、英訳してみました。順不動、思いつくままの気まま旅です。

by SAKURAnoG

参考文献 「新版おくのほそ道」角川ソフィア文庫  松尾芭蕉 潁原退蔵 尾形仂

1.平泉

夏草や 兵どもが 夢の跡 

The glories of soldiers
Of ancient times
Now leaves nothing but
Summer weeds overgrown
All around

平泉。芭蕉は、義経の居城であった高館(たかだち)に登って、藤原三代の栄華と義経の儚い生涯に思いを馳せて、この句を詠んだのでしょう。
兵どもの一時の夢と芭蕉が詠んだ思いを「glories」という言葉に込めてみました。この句の無常観、儚さを短い言葉の中から感じ取っていただけるでしょうか。

「偖(さて)も義臣すぐつて此城にこもり、功名一時の叢(くさむら)となる。『国破れて山河あり、城春にして草青みたり』と、笠打敷(うちしき)て、時のうつるまで泪を落し侍りぬ。」


2.象潟

象潟や 雨に西施が ねぶの花

A silk tree in blossom
Calls to my mind
A visage of Xi Shi, the ancient Chinese beauty 
As if standing there
In a sobbing rain of Kisakata

「松島は笑ふがごとく、象潟は憾むがごとし。
寂しさに悲しびを加へて、地勢魂を悩ますに似たり。」

「西湖を把って西子に比せんと欲すれば 淡粧濃抹総べて相い宜し」(蘇軾)

最初は、ねむの花「一輪」を世紀の美女になぞらえて考えていましたが、満開のねむの木の写真を見た時に、一遍で「これは全体で西施だ」と思いました。
「ねぶの花」は「西施が眠る」の掛詞らしいのですが、何度読み返しても、「雨」と「眠る西施」の姿がしっくりこないので、敢えてその説は「一説」と割り切り、「standing」と我を張らせていただきました。

象潟のそぼ降る雨に打たれるねむの花が、憂いを帯びた西施の姿と重なり合う瞬間、場所と時を超えて象潟の岸辺に西施が佇む。
名句中の名句だと思います。

3.立石寺

閑さや岩にしみ入蝉の声

Showering reverberations of cicadas’ chirring
Penetrate into rocks
Silence all around

「山形領に立石寺といふ山寺あり。・・・岸をめぐり、岩を這て、仏閣を拝し、佳景寂寞として心すみ行のみおぼゆ」

初句切れの句は、初句を最後に持ってくるのがいい。日米では、思考回路が逆だからです。
この句の翻訳の難しいところは、蝉の声が静けさと共に同居していることを表現することではない。あの蝉しぐれの、四方八方から降ってくる騒音とも言うべき煩さを理解してもらうことだと思う。少なくとも、僕がいたイギリスでは、夏になってもセミなんか鳴かない。
言葉の翻訳は、文化の翻訳でもある。


4.酒田 最上川

暑き日を海に入れたり最上川

The Mogami River
Now going to bring an end
To the hottest day
Carrying the burning sun
Down into the sea

「川舟に乗て、酒田の湊に下る。淵庵不玉と云医師の許を宿とす。」

体言止めの句を英訳する場合、最初に持ってくるのがいい。何度もいうが、日本語と英語は、思考回路が真逆だからです。‘bring’や‘carry down’という言葉で、最上川の「流れ」を表現してみました。

芭蕉は、最上川を船で下ってきました。その時、河口の先の大海原に沈む夕日が見えたのでしょう。「暑き日」は「暑かった今日一日」でもあり「熱き太陽」でもあります。「海に入れたり」という句から、目線は最上川の舟上にセットされる。目前に広がる大海原と、一日の終わりのホットした瞬間を体感させてくれる名句ですね。




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