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COFFEE BREAK:リンカーンのゲティスバーグ演説について

~人民の人民による人民のための政治~
                     [アメリカ第16代大統領エイブラハム・リンカーン]

こんにちは。SAKURAnoGです。
英語の楽しさ、奥深さを発信する「英語のトリビア」を投稿しています。
今回は、かの有名なリンカーンの言葉について、色々考えてみたいと
思います。

~人民の人民による人民のための政治~
この言葉は民主主義の原理原則を言い表した言葉として、中学校や高校の社会や歴史の授業で習ったかたもいらっしゃると思いますが、どういう意味なんでしょう?
書いてあるとおりじゃないか、そう思いますか?
「人民の」って何でしょうか?人民が主体の政治?
じゃあ、「人民による」って、何?人民が行う政治?
なんか、かぶってませんか?
リンカーンは、本当は一体何と言ったのでしょうか?

これから、「意味のミルフィーユ状態」と「前置詞『of』は「の」と訳してはいけない」で、この言葉を紐解いて行きます。
さあ、それでは原文を見てみましょう。

「Government of the people by the people for the people shall not perish from the earth」

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第1、 「Government」とは?

(ヒント:「Government」に「the」が付いていないことに注意してください。)

リンカーンが1863年、ゲティスバーグで行ったこの演説は、南北戦争で戦った兵士への追悼として行われたものですが、彼は、多くの勇敢な兵士が死んだことは無駄ではなかったと言っています。
「人民の、人民による、人民のための政治を地上から消滅させてはならない」と民主主義を高らかに宣言したのです。実際はこの演説は、ほんの3分間程度で終わり、当時は殆ど注目されなかったようです。(「Wikipedia」【エイブラハム・リンカーン】より)

堅苦しい話はここまでにして、英語の意味を考えていきましょう。

第1 シュレーディンガーの猫と意味のミルフィーユ状態
言葉(英語)というのは、単独では他の言語(日本語)から見ると、複数の意味の重なり合いとなっているのですが、それが文脈の中で、時に一点に収束したり、ある場合には「シュレーディンガーの猫」のように意味が重なり合ったままで存在しているのです。
単語は、言ってみれば「50%生きて50%死んでいる猫が、大通りを闊歩している」ようなものですね。
(「シュレーディンガーの猫」については、拙稿「COFFEE BREAK:「SEASONS OF LOVE」は「恋の季節」なのか? そこに隠された意味とは? 」の脚注ご参 照)

この「シュレ猫的意味の重なり合い」を僕は「意味のミルフィーユ状態」と呼んでいます。

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これを踏まえた上で、第1の疑問の回答を見に行きましょう。

「Government」は、「Govern」(統治する)という動詞の名詞形です。もともと「統治すること」という意味で、そこから「政治」や「政府」という意味が出てきました。
実は、「Government」=「政治」と思い込んだことに、この訳の落とし穴があったのです。
ここでの「Government」は、完全に「政治」という名詞になりきっておらず、「統治すること」という意味と「政治」と言う意味が、「ミルフィーユ状態」で重なりあっているのです。言ってみれば、「統治すること、そのような政治」といった感じです。
だから、動詞の機能を併せ持った動名詞と同じように、この「Government」にも「the」が付かないのです。

ゲティス

「Government」の意味がわかったところで、次に、「of the people by the people for the people 」のどこに問題があるのかを見ていきましょう。
最後の方から、
「for the people 」これは「人民のための」で良さそうです。
次「by the people」「人民による」いいんじゃないでしょうか。
そして最後に「of the people」「人民の」
これです!ここに問題があるのです。今まで述べてきた「Government」の意味と併せて考えると、なにか見えてくるものがありませんか?

第2、前置詞「of」は「の」と訳してはいけない
「of」を何でもかんでも「の」という意味でとらえてしまうと、大変なことになります。 (拙稿:COFFEE BREAK: 「SEASONS OF LOVE」は「恋の季節」なのか? そこに隠された意味とは?  3.「of」は「の」ではない をご参照。)
本件の例では、「of」を「の」という意味に取ってしまったことで「Government」の「意味のミルフィーユ状態」に気づくことができなかったのです。
「of」には、所属の「of」(~の)の他にも、①同格の「of」(~という)、②離脱の「of」(~から離れて)、③目的語の「of」(~を)等など、いろんな意味があります。
ここでは、最後の③「目的語のof」が該当します。もう、わかりましたよね。一応、説明すると、
例えば、あまり例がよくありませんが、
「He hits the ball」を名詞句にしなさい、という問題があったとします。答えは、
「His hit of the ball」(彼が、そのボール「を」打ったこと)です。「ball」は「of」を介して名詞句の中にあっても「hit」の目的語になっています。

そうです!「the people」は「govern」という動詞の目的語になったまま、Government of the people」(人民治める政治)という名詞句の中で生きているのです。

リンカーンが言いたかったことは、「王族や一部の特権階級の人たちが、自分たちの利益のために人民を支配する」のではなく、

「人民、人民、人民のために、統治する政治」
  (by)  (of)    (for)   (Government)

こそが民主主義であり、我々が最も守っていかなければならないものだ、と言っているのです。

最後まで、ご清聴ありがとうございました。

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