【漢詩】いろいろ2
別のSNSに書いて、こちらにはまとめていなかった詩がいくつかあるので、メモがわりにこちらにも残しておきます。
漢詩のお仕事まであと4日です。
「登楽遊原」李商隠
向晩意不適
駆車登古原
夕陽無限好
只是近黄昏
[日暮れに近づき、心が軽くならない
馬車に乗って楽遊原に登ってみる
夕日は限りなく美しい
ただ、黄昏が近づいている]
楽遊原は、漢の帝が廟を建てた高台。都の中で最も標高が高く、長安を見渡せる。
この詩は「唐の時代の終わりを予期して憂えている」「自分の老いを嘆き死期を察している」など諸説あるよう。
「嫦娥」李商隠
雲母屏風燭影深
長河漸落暁星沈
嫦娥応悔偸霊薬
碧海青天夜夜心
[雲母の屏風に蠟燭の火の影が深く写る
天の川が西の空に落ち、暁星も消える
嫦娥はきっと悔やんでいる、霊薬を盗んだことを
夜毎、碧い海と空の間を漂うその心]
嫦娥とは、神話の登場人物。英雄の妻だったが、夫の持つ不死の薬を盗んで飲んで、空に上がって月の精になりました。
この詩は詩人が、自分の元を去った恋人のことを歌っているという説が多いよう。
事情などはよくわからないのだけど、最後の「碧海青天夜夜心」がかっこよすぎて、もうそれだけでよい…
主人公は室内にいて、屏風に映る蝋燭の火を見ている。
意識がふと外の世界に飛んで、夜空の星のことを考える。だんだん星が西の空に消えていくことを想像する…
さらに、去っていった恋人を連想する。月の精になった神話の登場人物に寄せて。
自分の元から去ったことを後悔していてほしいと思いながら…
ということかな?
やっぱり李商隠の失恋の詩は、テンションが後半に向けてどんどん上がっていくし、イメージが豊かで面白いと思うな…。
(ところで、もしかするとわたしは、西欧のGothic文化好きなところから、突然、中国の漢詩に飛んだのかもしれないです。耽美、絶望、城、滅亡、夜、亡霊、巨大な自然、失ったものへの激情…この読み方が邪道だったらどうしよう)
「春夕酒醒」皮日休
四絃纔罷醉蠻奴
酃醁餘香在翠爐
夜半醒來紅躐短
一枝寒淚作珊瑚
「春の夕べにお酒が醒めて」
琵琶の音がふと止んだ。ほろ酔いの異人が爪弾いていた。美酒の香りは炉にまだ漂っている。夜遅くに酔いから醒めた。紅い蝋燭が短くなり、一枝の珊瑚のように冷たく固まっていた。
飲み会の空しさを、溶けて固まった蝋燭で表しているのかな? 最後の「一枝寒淚作珊瑚(一枝の寒涙が珊瑚となる)」が綺麗だなと思いました。
漢詩教室で「漢詩では風景に人の心を託して表現はしない」と習いました。
でも、おいしい筍の料理、溶けた蝋燭などの「物の状態を書くことで、自分の心の状態を伝える」ことはあるようです。
「初食筍呈座中」李商穏
嫩 香苞初出林
於陵論價重如金
皇都陸海應無數
忍剪凌雲一寸心
「初めて筍を食べ、その場にいる人たちに詩を詠んだ」
生まれたての弱く柔らかな皮。さらに内側には香り高い薄皮。林を初めて出てきたばかりの筍。
於陵(山東省の筍の産地)で値段を聞いたら、きっと金に劣らないぐらい高価なもの。
都の長安には山海の珍味がたくさんあるだろうに。やがて雲を凌ぐほど高く伸びようとしていた筍(そのような心)を切ってしまうなんて、忍びなくない?
…筍の話をしてると思ったのですが、解説を読むと「若い作者が職場で不本意な立場に置かれている不満を、筍に託して書いている」とありました。「凌雲一寸心」とは「雲を凌ぐほど伸びようという思いを秘めた筍の小さな体」つまり若者のことだと。そう言われると面白く感じます。
宋の詩は珍味を採り上げることが多いそうです。
(一行目の二文字目,どうしても表示できず断念。筍の薄皮のことを表す一文字です)
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