1回目


初日

 初めてのお遍路は、すべてが未知で、分からないことだらけ。それでも躊躇していては何事も始まらないと、まずは出かけることになりました。今回は初めてということもあり、無理せずに2日間。仕事を終えた土曜日の夜に、京都駅発徳島行のバスに乗りました。連休が始まったばかりの土曜夜のバスでしたが、19時15分発ということもあってか、乗客は1/3程度。お遍路姿の人は一人も見かけませんでした。到着するのは22時過ぎとなるため、予め買っておいたお弁当を車内で頂きました。
 道路も混まず、およそ3時間ほどでバスは徳島に到着。徳島駅から徒歩5分程度の立地にあるビジネスホテルにチェックインしました。明日の準備を整えて、シャワーを浴びて床につきました。ホテルの部屋は狭かったですが、清潔感が漂っていて、気持ちよく眠りにつくことができました。

 次の朝は、5時起床。家から持参したパンとホテルのコーヒーを部屋で頂き、出発の準備をしました。最寄りのJR徳島駅から高徳線に乗り5つ目の駅、板東で下車。徒歩10分ほどで第一番札所、霊山寺に到着しました。車内でもお遍路姿の人には全く出会いませんでしたが、さすがに板東で下車すると、ちらほらとお遍路姿を見かけることができました。

 予め頭に叩き込んだお遍路の作法通り、ロウソク、お線香をお供えし、御札を収め、般若心経を読経しますが、まだまだ修行が足りず、どこか頼りなく、心もとない読経となりました。本堂と大師堂でそれぞれお経を上げ、その後、境内を見学し、次のお寺を目指そうと出たところで、「遍路傘の向きが前後反対ですよ」と教えて下さった方がおられました。御礼を言っていると、「これ良かったらお使いください」と頂いたのは、御札入れ。見ると手作りの御札入れをたくさん車に積んでおられる様子です。これこそが、御接待。幸先の良いスタートを切ることができました。

 次に向かったのが、そこから1㎞ほど離れた2番極楽寺。さらにそこから2.7㎞離れた3番金泉寺と、お寺とお寺の距離も短くて、この辺りは順調に進めました。一つお寺が終わるにつれ、お参りの手順も読経もスムーズになっていくようです。金泉寺を終え、4番の大日寺までは、およそ6㎞の道のりです。走ったら6㎞などあっという間なのに、歩きの6㎞はとても時間がかかりました。そしてひたすら歩き、ようやく4番大日寺に到着。こちらおお寺には、本堂と大師堂とをつなぐ回廊に、33体の観音像が安置されていました。

 大日寺から南へおよそ2㎞歩くと、5番の地蔵寺。こちらのお寺の奥の院には、五百羅漢が収められていました。一つ一つの表情がすべて異なる、見ごたえのある羅漢さんでした。

 この日は朝7時から歩き詰めで、お昼ご飯も食べていなかったので、そろそろどこかで休憩をしようと思いましたが、歩き遍路道の界隈には、何も無く、探していたところ、見つけたのが、カフェ。表には、お遍路の方もどうぞ、と描かれています。それならばと、中へ入りました。芸術がお好きなオーナーさんのようで、中はギャラリーも兼ねておられるようです。喉もからから、お腹もペコペコで、メニューを決めようと思っていると、なぜか、ビビンバがあり、それならばと、そのビビンバをオーダーしました。

 カフェなので、実はあまり期待していませんでしたが、このビビンバがなかなか美味。お遍路に来てビビンバを頂けるとは思ってもいませんでした。ギャラリーカフェブリッサというカフェ、お遍路で通られる方はお奨めです。もちろん、カフェらしいメニューもたくさんありました。

 腹ごしらえも終えたところで、いよいよ、第一日目も終盤に。さらに5㎞南西へ歩いたところの6番安楽寺、そして7番十楽寺へと進みました。

 この日の宿泊は、十楽寺さんの宿坊ですが、宿坊と言っても、部屋はベッドで、部屋の中にバスもトイレもある、非常に快適なお宿でした。また、お寺の宿坊だけあって、早朝6時からは、朝のお勤めもあります。お食事をしっかり頂き、早々に眠りについたのでした。


2日目

 一日目を無事に歩き終え、ぐっすり睡眠もとれ、爽やかな目覚め。十楽寺さんの宿坊であるこの宿では、6時から朝のお勤めがあります。5時過ぎに起き、支度をして本堂へ向かいました。およそ10名ほどの参加者とともに、お勤めをさせて頂いた後は、食堂での朝食。しっかりご飯を頂いて、今日のお遍路に備えました。

 今日は、11番藤井寺までの予定です。身支度を終え、早々に宿を後にしました。まずは8番熊谷寺をめざします。十楽寺さんからはおよそ4㎞の行程です。かつては、家財道具一式を大八車に載せて歩く遍路人もあったそうだという話をしながら歩いていた時のことです、通り過ぎようとした空き地?の木陰で、まさに大八車のようなものに、押入れ用キャビネットのようなものを積んで、休んでいる歩き遍路の人を発見したのです。なぜ、歩き遍路と分かったというと、「同行二人」の菅笠が確認できたからです。きっと、荷物一式を車に積んで引きながら、お遍路をされているのでしょう。

 そうこうするうちに、8番熊谷寺へ到着しました。山裾にある、広々とした見晴らしの良いお寺です。中門には、運慶作の持国天、多聞天さんも安置されていました。京都のお寺でも、国宝級の仏像などはたくさんお目にかかれるのですが、そのほとんどが写真撮影禁止となっています。しかし、以前出かけた飛鳥村のお寺も、この四国のお寺も、写真撮影OKというところが多いのです。京都のお寺は敷居が高いのでしょうか。

 早々とお参りを済ませ、9番法輪寺へ向かいました。ここから法輪寺さんへは、ほぼ南へ2㎞ほどの道のりです。法輪寺さんへ到着し、お参りを済ませた後で、門前にあるお店で、草餅を頂きました。同じような行程で歩いておられた男性も休憩しておられ、草餅を味わっておられました。その方も仰っていましたが、歩き遍路では、道中で頂くお餅や団子に力づけられるものです。草餅でエネルギーを蓄え、10番の切幡寺へ向かいました。

 次の切幡寺へは、およそ3.6㎞。このお寺は小高い山の中腹にあります。遍路道を歩き、最後に山道を登り、最後は333の険しい階段を一歩ずつ登り、到着しました。

 ここから、今回の最終寺となる11番藤井寺までは11㎞。お寺とお寺の間の距離が今回一番長くなる行程です。そこで、まずは腹ごしらえ。昨日なかなかお昼ご飯にありつけなかった反省から、今日はなるべく早めに、しっかりお昼を頂こうと思っていましたが、相変わらず遍路道沿いにはお店はありません。そこで、遍路道からは少し外れてしまうのですが、車通りの多い県道を歩きました。しばらく歩いていると、手打ちうどんのお店を発見。こちらでおうどんを頂くことになりました。おうどんは、かなりコシのある、四国らしい麺でしたが、出汁も美味しくて、昨日同様、恵まれたお昼を頂くことができました。

 しっかり腹ごしらえをし、気合を入れて再び藤井寺へと歩き始めました。この11㎞という距離、普段はランニングで普通に走っている距離でもあり、とても簡単に考えていたのですが、歩くのと走るのでは大違いということがよく分かりました。走る時と歩く時とでは、ほとんど同じような筋肉を使っているかと思うのですが、どうも微妙に違うようです。歩いての10㎞が、こんなにもしんどいとは思いませんでした。

 今回の山場、吉野川を横断する橋は、全長821mの阿波中央橋。1953年に完成したそうです。走っているのは車ばかりで、歩いて橋を渡っている人はほとんど見かけません。黙々と橋を渡りましたが、橋の途中で見た吉野川の流れは雄大なものでした。吉野川は、高知県の山奥から流れ出て、四国4県すべてを巡り、全長194㎞、流域面積3750㎢の、四国を代表する一級河川です。実は、後から教えて頂いたのですが、10番切幡寺から11番藤井寺へ向かう、吉野川横断ルートはもう一つあるのです。阿波中央橋から少し上流にある、川島橋で、こちらの橋は、川の水位が上がると水中に沈没してしまう「沈下橋」。以前、四万十川ウルトラマラソンを走った際、そのルートの名物箇所となっているのが、沈下橋でした。このような景色に出会えるのも、歩き遍路ならでは。次回からは、道中の情報も小まめに調べていこうと思ったのでした。

 橋を渡ってしばらく歩いているときのことです、大きなスーパーからミニバイクで出て来られた女性から、突然声をかけられました。「もし、良かったら」と、渡されたのは、ペットボトルのお茶でした。ミニバイクの前かごの上に、そのお茶だけがポンと乗っかっている状態だったので、恐らく、私たちの白装束姿を見つけ、急ぎ買いに行ってくださったようです。四国に残る、お接待の文化。歩き遍路には、身に染みてありがたいものです。布施を受けて、また藤井寺をめざします。

 ようやく藤井寺に到着、今回最後のお勤めを終え、最寄りの鴨嶋駅まで歩こうと、お寺を出たところで、またお接待を受けました。この方は、お家は徳島市内にあると仰っていましたが、この付近で畑をされているのでしょうか、簡易な建物の中には、椅子やテーブルが備わり、この辺りを歩かれるお遍路のお接待を長年続けておられるようです。また、歩き遍路向けのホームページも独自で立ち上げられているようで、京都に戻り、そのサイトを早速見たところ、実に細かな情報まで、しっかり案内されています。これもまた、一つのお接待なのでしょう。実際に歩いてみなければ得られない、貴重な情報でした。

 お接待を受けた後、一時間に一本しかない列車に乗るため、また歩き出しました。最寄りの鴨嶋駅に到着、次の徳島行の時刻を確かめると、まだ少し時間があります。駅前の商店街をウロウロするも、ゴールデンウィーク中の月曜日とあって、開いている店はあまりありませんでしたが、甘いものが欲しかったので、開いていたカフェで、あんみつを頂きました。鴨嶋駅の待合で、遍路傘やずた袋を片付けて、徳島行の電車に乗りました。

 京都までは、またバスを利用するのですが、バスの時間まで1時間30分ほどあり、また、京都に着くのは22時を過ぎるため、どこかで腹ごしらえをしようと、駅前をウロウロしましたが、めぼしい店は見つからず、それならばと、お弁当を買って、バス車内で食べようとしましたが、お弁当もコンビニの弁当ぐらいしか見当たりません。こんな状況で、最後に選択したのが、まさかの「王将」でした。なぜ王将だったのかというと、まず、疲労もピークに達していたので、ゆっくりテーブルに付ける店が、他にはなく、唯一、王将の2階が、外から見てゆったりして見えたのです。そして、行ってみると、思った通り、2階席はそれほど混んでもおらず、ようやく腰を落ち着けることができました。まだこれからバスに乗らなければならないので、さすがにギョウザは我慢し、プレミアムメニューのかに玉丼とチャーハンを注文しました。さすがにプレミアムだけあって、(もしかしたらお腹も空いていたためでしょうか)実に美味しい、王将でのディナーとなりました。

 帰りもさほど混むことも無く、定刻に京都へ到着。初めてのお遍路は、無事に終了したのでした。今回、実際に歩いてみて、細かな反省点もいくつかり、次回までにそれぞれクリアしておきたいと思っています。最後に、迷っているのであれば、まず行動すること。今回それが一番大切な学びとなりました。

 

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?