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今年も7月17日海の日、ジュゴン能「沖縄平家物語」を上演いたします!(1/3)

 沖縄やんばる(山原)には「ジュゴンの見える丘」という丘があり、ジュゴンが食べる藻場(海藻)がふさふさと揺らいでいる海が見えます。そこに立っていれば、あわよくばジュゴンが藻場を食べる姿が見られたことでしょう。

 しかし、今、ウチナーの海にザン(ジュゴンのこと)はいません。沖縄の三線(さんしん)の先生、新垣俊道先生にジュゴンの能を作るとお話をした時、「ザン(ジュゴン)は神さまだから」とおっしゃったのを今も思い出します。

 「沖縄平家物語」は、ジュゴンに出会った日を「今日は良い日だ」と思い、網を投げる漁師が出てきます。しかし、ジュゴンはもう漁師のところにはやってきません。辺野古の基地の護岸建設で海も藻場も荒らされ、ジュゴンもいなく、漁師の生業もやってゆけなくなった時、浜辺の平家カニたち(平家の落人の精霊)に「ザン(ジュゴン)は南の島に移り住んでいる!」と聞かされ、漁師は櫂(かい)を手に、南の島に舟を出します。沖縄の漁師は、櫂を武器にして優れた武術を生み出しました。その一つが「津堅(つけん)砂かけのエーク」と呼ばれるものです。

 津堅島(つけんじま)は沖縄県勝連半島から南東に高速艇で15分乗ると辿りつけるようです。舟を漕ぐ櫂(かい)を砂にもぐらせ、相手に砂をかけて目潰しをして、櫂を振り回します。

 2020 年 5 月、コロナ感染拡大の予防のために初めて緊急事態宣言が発令されたころです。合気道の道場は閉鎖されました。さあ、川辺でランニングでもするか、と始めたものですが、その時に、この機会に沖縄空手の「チャタンヤラクーシャンクー」の型と「津堅砂かけのエーク(櫂)」を You Tube を見ながら完全コピーを始めました。人間の身長に対してエーク(櫂)は長く重く、肩に乗せつつ、腕力を休め、舟を漕ぐために水を切るのに優れているのを、空を切って転用させ、次第に加速度をつけてゆきます。

 漁師たちの敵は薩摩藩の武士。薩摩藩士は示現(じげん)流を身につけています。これは大変な剣術です。示現流は一度刀を抜いたら相手を殺すか自分が死ぬまで、刀を収めるなと教えられています。新撰組は「示現流とサシ(一対一)で向かうな」と言われていたと聞いています。「キエエエエエ」とか奇声を発し、究極の精神のたかぶりを身につけつつ、素早い打ち込みを何十回と続けます。

 その示現流にエーク(櫂)で挑むとは、どんなものだったのでしょうか?命の取り合いに反則も何もありません。沖縄武術は常に男性の急所を狙います。おそらく、自分が薩摩の武士に狙われたら、指笛を吹いて仲間に知らせ、自分は相手に砂をかけ、エーク(櫂)をすごい勢いで振り回し、仲間が杵や鎌や生活道具を武器にして助けにやってきて、武士をやっつけて、それを砂に埋め、何事もなかったかのようにまた暮らしていくのを、想像しつつ、津堅砂かけのエークをコピーしました。これを第一幕(前シテ)の最後に漁師の踊りとしてお見せします。

 <つづく>

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