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今日からスタートする薬機法の課徴金

今日2021年8月1日から改正薬機法の課徴金制度がスタートします。

その課徴金の条文がちょっとヤバいので一度見てください。

(課徴金納付命令)
第七十五条の五の二   第六十六条第一項の規定に違反する行為(以下「課徴金対象行為」という。)をした者(以下「課徴金対象行為者」という 。)があるときは、厚生労働大臣は、当該課徴金対象行為者に対し、課徴金対象期間に取引をした課徴金対象行為に係る医薬品等の対価の額の合計額(次条及び第七十五条の五の五第八項において「対価合計額」という。)に百分の四・五を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。

前提として、薬機法66条では「何人も」誇大広告等をしてはならないと定められています。

「何人も」とは、事業者に限られず、広告代理店、ASP、アフィリエイター及びインフルエンサーらも含まれるという意味です。で、66条に違反する行為=「課徴金対象行為」=誇大広告等をした何人もである法人個人が「課徴金対象行為者」となる。はずです。

次に出てくる日本語がわかりにくい。悪文です。課徴金対象行為「をした者があるときは、」云々です。つまり誇大広告等をした者があるときは、云々とあります。

要は、誇大広告等をした「何人も」がどこかで発見されたときは、「当該課徴金対象行為者に対し、」「課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。」と書かれているのです。「当該課徴金対象行為者」になり得るのは誇大広告等をした「何人も」です。のはずです。


これは日経新聞2021.7.30の朝刊ですが、「法律には適用するかどうかの境界、いわば彼岸と此岸(しがん)の境目が明示されている。」と渡辺博史氏が述べています。が、実はそうなっていない法律がここにある。法律の文章は日本語がわかりにくいと国民から酷評されているのが現実です。国はまさかの縦書きで法律をネットに公開してるので、誰も読みません。読めません。


そこは横書きだろ。



ところで、ちょっと専門的な話になるけれど、行政には裁量というものがあって、国家の安定?などを理由に、パリッとした要件を定めず、多少ブラックボックスでえいやっと処分できるようなこともあるにはある。

しかし、どうだろう?ブラックボックスの行政裁量。ほとんどいらなくないか?課徴金というのは刑罰ではないものの国が国民にダメージを与えるものではあるから、恣意的な運用がなされてはならず、国民にとって予測可能性がなければならない。

広告代理店とかも事業者売上の4.5%の課徴金くらうの?

改正薬機法の課徴金は、何人も誇大広告等をしてはいけないと言う66条を受けて、それに違反した「当該課徴金対象行為者に対し、」課される(はずな)ので、広告代理店が誇大広告等をしたときも、医薬品等の対価の額の合計額、要は売上の4.5%払わさせられるの?と。広告料の4.5%じゃなくて?と。事業者との責任の分担は?と。これがわからない。どうなの?


結論。事業者だけだった。

さて、結論から言うと、新たな薬機法の課徴金制度は、事業者だけを対象としているようです。先月厚労省に電話して、改正薬機法の担当者にズバリ聞きました。「これ、66条の何人もを受けてるから、課徴金も何人もだと思うんですが、その場合どうやって金額計算するんですか?」と。

したら、「いえ、課徴金は事業者だけが対象になります」と。

いわく、課徴金の算定方法はあくまで「医薬品等の対価の額の合計額」の4.5%と書かれていますよね、と。「課徴金対象行為」=誇大広告等の対価(広告料)合計額の4.5%ではないので、そもそも事業者以外を想定していないと。


明言されておりました。



そして、2021年7月6日にコレが出た。

Q1 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 (昭和 35 年法律第 145 号。以下「医薬品医療機器等法」という。)第 75 条の5の2に規定する取引とは、具体的にはどのようなものか。
A1 例えば、製造販売業者、卸売販売業者、販売業者等が行う取引です。また、医薬品医療機器等法に基づく業の許可を受けた者等が行う取引に限るものではないため、例えば既に市場に出荷されている化粧品や医薬部外品を販売する者が行う取引も含まれます。なお、例えば、新聞社、雑誌社、放送事業者、インターネット媒体社等の広告媒体事業者及びこれら広告媒体事業者に対して広告の仲介、取次ぎをする広告代理店、サービスプロバイダー等が行う取引は含まれません。

https://www.mhlw.go.jp/content/000801630.pdf

このQAもわかりにくい。

まず、「第 75 条の5の2に規定する取引とは、具体的にはどのようなものか。」というこの問い。第 75 条の5の2に「取引」という漢字はたしかに登場するが、これは見てもらったらわかるとおり、課徴金の算定方法のくだりで登場するだけである。当該「取引」の当事者に課徴金の支払いを命じるなどと書かれたくだりで登場するのでなく、この条文のコアを形成していない漢字である。「対象期間に取引をした課徴金対象行為に」のくだりで登場するだけだ。そんなコアでない「取引」という漢字の範囲を絞って課徴金対象者を限定するかのごとく説明は根本的でない。課徴金対象行為というのは繰り返すが、誇大広告等であって、それをしてはならないのは「何人も」(法66条)のはずである。第 75 条の5の2はその66条を受けた規定である。

課徴金の対象が事業者だけなのであれば、第 75 条の5の2の書き出しは、景表法のそれと同じく「事業者」(景表法第8条)とすべきではなかろうか。景表法では、事業者が課徴金対象行為をしたときは、「当該事業者に対し」課徴金を支払わせると明示されている。

(課徴金納付命令)第八条  事業者が、第五条の規定に違反する行為(同条第三号に該当する表示に係るものを除く。以下「課徴金対象行為」という。)をしたときは、内閣総理大臣は、当該事業者に対し、当該課徴金対象行為に係る課徴金対象期間に取引をした当該課徴金対象行為に係る商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額に百分の三を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。


健康食品はどうなってるの?

健康食品に関する通販、D2C周りでは、薬機法以外にも健康増進法というのがある。

(誇大表示の禁止)第六十五条 何人も、食品として販売に供する物に関して広告その他の表示をするときは、健康の保持増進の効果その他内閣府令で定める事項(次条第三項において「健康保持増進効果等」という。)について、著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならない。
(勧告等)第六十六条 内閣総理大臣又は都道府県知事は、前条第一項の規定に違反して表示をした者がある場合において、国民の健康の保持増進及び国民に対する正確な情報の伝達に重大な影響を与えるおそれがあると認めるときは、その者に対し、当該表示に関し必要な措置をとるべき旨の勧告をすることができる。   2 内閣総理大臣又は都道府県知事は、前項に規定する勧告を受けた者が、正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかったときは、その者に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。
第七十一条 第六十六条第二項の規定に基づく命令に違反した者は、六月以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

健康増進法でも、誇大表示をした「その者に対し」行政処分をすることがある旨明示されている。処分対象者を明示して予測可能性を与えるのが法律である。さしあたり改正薬機法だけだ。イケテないのは。


違反広告に係る措置命令等

しかし、そんなことより重要なのは下記の薬機法一部改正。

(違反広告に係る措置命令等)
第七十二条の五 厚生労働大臣又は都道府県知事は、第六十六条第一項又は第六十八条の規定に違反した者に対して、その行為の中止、その行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他公衆衛生上の危険の発生を防止するに足りる措置をとるべきことを命ずることができる。その命令は、当該違反行為が既になくなつている場合においても、次に掲げる者に対し、することができる。
一 当該違反行為をした者
二 当該違反行為をした者が法人である場合において、当該法人が合併により消滅したときにおける合併後存続し、又は合併により設立された法人
三 当該違反行為をした者が法人である場合において、当該法人から分割により当該違反行為に係る事業の全部又は一部を承継した法人
四 当該違反行為をした者から当該違反行為に係る事業の全部又は一部を譲り受けた者
2 厚生労働大臣又は都道府県知事は、第六十六条第一項又は第六十八条の規定に違反する広告(次条において「特定違法広告」という。)である特定電気通信(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成十三年法律第百三十七号)第二条第一号に規定する特定電気通信をいう。以下同じ。)による情報の送信があるときは、特定電気通信役務提供者(同法第二条第三号に規定する特定電気通信役務提供者をいう。以下同じ。)に対して、当該送信を防止する措置を講ずることを要請することができる。
(平二六法一二二・追加、令元法六三・一部改正)

もともと72条の5の見出しは(中止命令等)であったのが、(違反広告に係る措置命令等)に見事アップグレードされ、中身も一部改正された。結果、事業者に販売中止命令を出すだけでなく、広告代理店やASPはたまたアフィリエイターやインフルエンサーに対して、広告の中止を求めたり、謝罪訂正のプレスリリースを発表させるなどの措置命令を出すことが可能になった。


なお、薬機法では、もともと、

(罰則)第八十五条 次の各号のいずれかに該当する者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。             4 第六十六条第一項又は第三項の規定に違反した者

という条文があって、「何人も」200万円以下の罰金はあり得る。

コーヒーブレイク

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ちなみに、薬機法の課徴金制度は今日からの誇大広告について適用されます。昨日までの誇大広告について遡って適用はありません。


テーマが薬機法なので化粧品ぽい写真ということでパークハイアット京都で先月開催された「シャネル N°5」の100周年記念ポップアップイベント「CHANEL FACTORY 5」で撮ったものを載せました。


それではまた次のnoteでお会いしましょう。


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