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シャネル展に行って感じたこと

先月、三菱一号館美術館で行われていたガブリエル・シャネル展に足を運んだ。

現在、こうしたラグジュアリーブランドの展覧会は、有効なマーケティング手法の一つとして、豊かなヘリテージを持つブランド群が積極的に行っている。

三菱一号館美術館 公式サイトより

そもそもラグジュアリーブランドの展覧会って

そもそも「展覧会」と呼べる規模で、このようなアプローチができるブランドは極めて限定的であり、ラグジュアリーブランドにおいても、一般的に「展覧会」と聞いて想起され得るブランドは、片手で数えられる程度かもしれない。

これらの違いは単純にファイナンスの話で、「ブランドの売上規模」或いは「予算体力の違い」と捉えることも出来るが、基本的にはPoDとしての豊かなヘリテージ足る歴史や技術、ブランドを象徴する偉大なデザイナーの存在有無など、文化的な活動として挙げられる「展覧会」という特性を通じて、マーケットへ効果的に訴求できる手札の有無である。

年代を問わずに、市場に突き刺せる消費者との共通言語の有無は、想像以上に大きい。

e.g. the Legends of the World of Couture and Fashion
( Christian Dior, Gabrielle Chasnel, Yves Saint Laurent )

ROIの観点からこれら施策後に得られるリターンの効果測定は、必ずしも当期のPLにはない。ブランドの実質資産という意味では、むしろBSへ反映される施策だという解釈をすべきである。

つまり、中長期的な視点で語られるべき施策であるため、短期でPLを合わせにいくような、短期的な利益や数字を追及する施策とは明らかに毛色が異なっている。

高い消費者意識と倫理的属性の確立・保有が求められる世界

昨今、富裕層のリテールにおける購買動向がブランドから、ジュエリー、現代アートへと”knowledge”を必要とする或いはリセールバリューを意識した消費活動に移行しつつある。

Annual evolution of global Contemporary art auction turnover


ⓒartprice.com

Contemporary Art Price Index vs. Artprice Global Index Index (Base 100 in January 1998)

ⓒartprice.com

また、あらゆる消費活動に高い消費者意識や自己の倫理的属性の確立・保有が求められる世界では、ラグジュアリーの象徴とされてきた「リアルファー」や「エキゾチックレザー」を身に纏うという価値観にも大きな変化が見られ、使用を全面的に廃止する流れが業界スタンダードとなりつつある。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-09-24/QZXQOZDWX2PX01

https://www.wwdjapan.com/articles/750486

とは言え、レガシーある巨大産業の一斉離脱は、業界の生態系に一体どのような影響を与えるのかという観点や、人工ファーの環境に対するインパクト含め、未だに議論の余地があると考えることもできる。実際に現時点で、LVMHは毛皮製品の使用を続ける方針を発表している。

こうした社会の様々な価値観の戦いの中において、企業のスタンスや価値観、市場へ”knowledge”として訴求するに親和性あるブランドの歴史や文脈、こだわりなどを、絶えずタフに発信していくこと自体が現在において極めて重要な企業活動となった。

展示会は、ブランドネームによってある程度確約された集客力を武器に、ブランド体験を補完し、既存顧客並びに見込み客をナーチャリング、メディアやSNSを通じた拡散とOMO (オンラインとオフラインの融合)を推進する有効な打ち手であると考えられている。

ラグジュアリーブランドの特殊な業界構造

思い返せば、ラグジュアリーブランドは極めて特殊な業界である。ここ数十年で世界のトップ企業は大きく入れ替わったが、ラグジュアリーブランドはどうだろう。「ほとんど変わっていない」そう言って差し支えない。

世界時価総額ランキング 1989年と2022年

©STARTUP DB

おそらく上述してきたような「豊かなヘリテージ」が、ブランド価値を左右する大きな要素であるという見方が合理的な見地だと考えると、富める者が富み続けるという、資本主義を象徴するスキームに非常に似ている。

こうした特殊な業界構造においては、WEB3.0 / NFT / ブロックチェーン / サステナビリティなど先進的な強みだけでは、市場は既存のラグジュアリーブランドと肩を並べることを決して許してくれない。そう、「歴史」が足りない。

むしろ、巨大資本を背景に多様なポートフォリオを拡大し、そうしたtech領域にも積極投資を行う既存のラグジュアリーブランド群には、中途半端な手札では太刀打ちできない。

過去の延長線上に未来を描けば

こうして思考してみると、既存のラグジュアリーブランドにおいては「展覧会」と聞いて想起されるブランドでない限り、”knowledge”という側面においては、想起されるブランドとの間に決定的な差が存在しているように思える。

既存の商品や施策、組織やデザイナーは変えることができても、過去は変えることができない。故に、ブランドを象徴するシャネルのように圧倒的な「創業デザイナーの存在有無」や「豊かな歴史とヘリテージの有無」といった普遍要素の存在は極めて大きい。

こうしたスキームを考慮すれば、よっぽど手札を切り間違えない限り、富めるブランドが富み続けているこの現状にある程度の合点がいく訳で、今後も当面、ラグジュアリーブランドと呼ばれるブランド群(tier1,2辺りまで)の顔ぶれは変わらないと見るのが妥当だろう。

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