鹿島アントラーズの進化

8月26日(水)のアウェーのFC東京戦 苦手としている味の素スタジアムでのゲームでしたが、序盤から鹿島アントラーズは果敢に攻め、守ってはプレッシャーのタイミングも良く、FC東京にほとんど仕事をさせませんでした。FC東京は元々相手にボールを持たせて、堅い守備からのショートカウンターの得意なチームですが、昨日はボールを持たせているというより、鹿島の圧にポゼッションが難しいという印象。

鹿島は今年よりザーゴ監督に変わり、いままでの「鹿島らしいサッカー」をある程度捨て、モダンなスタイルのサッカーを模索しています。簡単に言えば少し前の「ブラジルスタイル」の個人の力量やアイディア、対応力を磨き上げて、柔軟に対応するサッカーから、やや「ヨーロッパスタイル」の組織的でシステマチックな動きを中心とするサッカースタイルへの変貌といえるでしょうか。

サッカーというのは単純に「カテゴライズ」で分けられることではなく、チームの選手の組み合わせ、相手の状況などで変わるので一概には言えないのですが、方向性としては「オートマティズム」を取り入れたサッカーとボクは理解しています。今まで、攻撃については、個人のひらめきと選手同士のコミュニケーションを重視した自主性に重きを置いていたのですが、いま目指しているサッカーは、ボールを奪った瞬間から、ゴールまでの設計図を選手全体がイメージして、ボールの動かし方、人の動き方をシステマティックに構成したやり方を目指しているのだと思います。

具体的には変わったのは、中盤のボールの動かし方で、ボランチやDFから中盤の選手、またはFWへの縦のボールを入れる回数が明らかに増えて、そのボールをトラップする中盤の選手が次にどこにボールを出すのか、そのイメージをボールが来る前から持ってると感じるプレイが増えています。前は中盤の選手にボールが入っても、入ってから状況を見て出す場所を「探していた」のが、探すことが少なくなり、スムーズにボール回しができて来ています。

例れば、各駅停車で止まっていたものが、準急列車になったようなスピード感の違いです。さらに縦に入れるボールスピードが2割ほど増しているように感じます。これも意識的だと思いますが、受ける方もそのスピードのボールが来ることに「訓練」されているので、トラップミスが少なくなっています。サッカーというのは止めて蹴るという基本技術が最も大事で、サーカスのようなリフティングの技術より、正確に早く適切なスピードでボールを扱えれば、フィールドプレイヤーとしては、充分なのです。

昨日のゲームでは、DFの関川が縦に入れるタイミングと場所の選択ミスから、自陣で相手にボールを取られ、FC東京得意のショートカウンターの餌食になって、関川自身のオウンゴールという形で先制されました。関川にはオウンゴールよりもその前のカットされたパスを反省しなければなしませんが、その他のプレイでは彼の良さは十分に出たゲームでした。前節の判断ミスなどまだポカが多いのですが、その対人能力と一番大事なDFとしての雰囲気は持っているので、今年のような「チームとして変革の年」ということをチャンスとして、たくさん痛い思いをすることで成長できると確信しています。

昨日のゲームは前半終了間際に、FC東京に先制されたものの、内容は新しいスタイルが垣間見えた「悪くない」ものでした。後半、中盤のアラーノからの縦のクロス(これも昨年まではあまり見られなかったボール)をエヴェラルドがヘディングの強さを活かしてシュート、相手GKが弾いたところを詰めて早い時間に同点、今年、東福岡高校から入団した高卒ルーキーの荒木が初先発しましたが、彼は昨年まで鹿島にいてバルサに移籍した「安部裕葵クラス」の選手だと感じました。

まずポジショニングが良く、ボールを引き出すタイミングが良い。常にターンをして前に行こうとする意志を感じる選手です。土居も同じことができるはずなのですが、その動きが常にできるという意味では土居以上かもしれません。昨日の逆転のアシストもボールスピードが速く、普通ならトラップするのも難しいボールでしたが、たぶん受けたアラーノは荒木がそのスピードのボールを出すことを分かっていたのでしょう。見事なトラップからのボレーシュートを突き刺して逆転したゲームでした。

終わってみれば、鹿島の20本のシュート(枠内が17本)に対して、FC東京は6本のシュートしか打てませんでした。ゲーム全体の組み立てといい、完勝といえる試合でした。開幕からずっと勝てませんでしたが、今季初勝利だった横浜Fマリノスを「嵌めた」試合といい、この「強豪2チームを破った内容」を見ればザーゴ監督の能力には疑いようがないと思いました。今年は降格もなく、川崎の独走状態で優勝を狙うのは正直厳しいですが、若手の成長とサッカースタイルの進化で、来シーズン以降の鹿島は、いままでの勝負強さに加えて、新しい武器を持ったチームとしてJリーグで「輝くチーム」になると確信したゲームでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?