精神科と無縁なあなたのための精神医学概論/本巣カンファ登壇まとめ

作成にあたって参考にした書籍
「教養としての精神医学」松崎朝樹

登壇資料


登壇メモ(当日かなり巻いたために省略した部分も掲載しています)


前編-高専生にこの話をする理由

①精神疾患、珍しくない

私たちには本来、種の保存に欠かせない「生き残るための能力」が備わっており、たとえば、不安な気持ちになることで危険な状況から離れるのはその重要な能力の一つ
しかし、高度に発達した今の世の中では、不安はかえって負の方向に働き、私たちの精神のバランスを崩すことがある

・精神障害の障害有病率は22%(日本精神神経学会,2023)
・日本における総入院患者数の内訳は、1位精神疾患、2位心不全など循環器障害、3位がんなど悪性新生物(厚生労働省,2020)
しかも、入院理由を21種類に分類して集計して、全体の6分の1が精神疾患
・日本の障害者約656万人を、身体/知的/精神に分類すると、精神障害者の総数は約258万人で3分の1超え
→精神障害はごくありふれた病気であり、「遠い誰かの話」ではない。あなたやあなたの大切な人が、いつ精神障害になるかわからない

そのわりに精神障害についての情報が出回っていない。しかも正しい情報が少ない
→多くの人が間違った認識を持って怖がっている

精神障害も、ほかの病気と同じように早期発見、早期治療が大事
あなたやあなたの周りの人の異変にいち早く気づき、適切な治療に繋げられたらめっちゃいい

②ノーマライゼーションについて

私たちが暮らすこの社会には、健常者も障害者もいる
障害があっても何ら特別視せず、一般市民と同等の市民生活を可能とする試みが、ノーマライゼーション(1950年には北欧諸国で既に提唱されていた理念で、日本でも近年厚生労働省が中心となって実現を目指している)
ただし、精神障害の分野ではまだまだ

例:障害物競走→選手ではなくコースにさまざまな障害が設けられている。そのため走りにくかったり転んだりする。その障害物がなければ選手はすんなりと走れる
→何らかの特性を持つ人が社会に出ていこうとしたとき、それを困難にしている(=障害にしている)のは本人の特性ではなく社会にある障害物(=ハードル)。これを取り除くことでノーマライゼーションは実現できる
例:視覚障害者が社会に出る→ハードルとなるのは「道を安全に歩けない」→点字ブロックを置いたり信号機にピヨピヨ言わせたり
車いすユーザーが社会に出る→ハードルとなるのは「階段や段差」→スロープやエレベーターを設置する
社会に存在する障害を減らして、彼らが社会に出ていきやすくしている

じゃあ、精神障害者は?
→ハードルの1つが「一般市民の否定的な理解」例:統合失調症(2大精神病の1つ)にどんなイメージがある?幻覚、妄想、恐ろしい病気…
実際は、これらは急性期っていう特に状態が悪い時期にみられるもので、治療が始まると落ち着いていく。経過によっては統合失調症がただの「持病」レベルになるケースもある

今、統合失調症の人への認識、少し良くならなかった?

このように正しい理解を広めることで、精神疾患に対するイメージが改善する
→精神障害者が社会に出ていきやすくなり、普通に近い生活が可能になる

精神医学を学ぶことは、あなたのため、あなたの周りの人たちのため、精神障害の当事者のためになる。

後編-本題

①心の機能

(1)不安
・肉食の大きな魚バスと、小さな熱帯魚グッピーを、60時間同じ水槽に入れて飼育した実験グッピーのうち、20匹が勇敢なグッピー、20匹が普通のグッピー、20匹が臆病なグッピー
→勇敢なグッピーは全滅。生き残ったのは普通×3、臆病×8
⇒危険な環境で生き残るのに必要なのは勇敢さよりも臆病さ=「不安」という心の機能

・128人の人間に、怖い刺激を昼と夜の両方で与えた実験
→夜の方が昼よりも敏感に反応する傾向が認められた
⇒視覚に頼って生きている人間にとって、暗い状態は危険。暗くて危険な夜の時間帯に、より不安を感じるのは生き残るための機能

・不安症という精神疾患、女性は男性の2倍発症しやすい
→縄文以前の狩猟採集生活では、狩りに行くのは男性で、女性は木の実を拾うくらいのことはあったも多くは住居の近くで過ごしたはず
⇒狩りで命を落とす可能性を考えたら、出産できる女性が多く生き残ることが大事。だから、女性が安全な場所にいたがるように、不安を感じやすくできてた

不安とは種族維持のために必要だった心の機能

(2)季節や天気の話
・夏は活力が出て行動的になるのに、冬は気分が落ち込んで寂しい気持ちになる人(季節性うつ病)
→気温が高く日照時間の長い夏は、狩りに出やすいし、果物もたくさん採れて、食糧の心配をせずに活発に動ける
対して寒い冬は、食料の蓄えを保つためにもクマの冬眠のようにじっとしてできるだけエネルギーを使わない方がいい
夏が終わって冬を迎える頃には、寂しい気分になって人々が集まり、落ち込んで動くのも億劫になり、比較的大人しくじっとして過ごす
こうして冬を乗り切っていたとも考えられる
⇒種族維持のために必要だった心の機能

・雨の日に行動力が落ちる理由
→人間、体が濡れると体調を崩しやすくなる
今は傘があるから外出できるし、濡れてもタオルで拭けばいいけど、昔は濡れないためには竪穴住居でじっとしているしかなかった
⇒雨の日は活動的にならないように、気分が落ち込むという設計

種族維持のために必要だった心の機能

(3)「はぁ、鬱。」の話
・サルの集団でボスザル争いが起きた時、敗者が陥るうつ状態は集団の安定化につながることがわかっている
例:サルAとサルBが戦って、Aが勝った。Aはボスザルになり、Bは「負けた。はぁ、鬱」
もしこのとき、Bが負けたのにいつまでもやる気満々では、ボスザル争いが収まらずいずれ殺し合いに繋がりかねない
Bが落ち込んでいれば、もう争うこともなく、お互いの生命が維持されるし集団の序列が安定する
「はぁ、鬱」も種族維持のために必要だった心の機能

・あなたと私が自信満々でジャングルに狩りに出て、もし、一緒にいた私が猛獣に襲われて命を落としたとする
→あなたの自信は吹き飛び、怖くなってどこかに逃げ込むのが精いっぱい。猛獣が去ったあと、暗い気持ちで家路につく
→あなたはうつ状態に陥ることで、自信過剰だった考えを改め、自分を守る最善の方法について考え直すことができる
「はぁ、鬱」は考え直すきっかけで、これも種族維持のために必要だった心の機能

②あらゆる精神症状は必要から生まれた

・現代ではアルコールや薬物などの物質依存、ギャンブルや買い物などの行動依存が社会問題になってる

昔は何事につけ「やるほど」よかったことが多い 例:食料は採れば採るほどいい、そういうことも活発であるほど子孫を残せたむしろ依存が種族にとってプラスに働いた)

・現代では依存症、不安症、うつ病といった精神症状は厄介視されているけれど、もともとは生き残るために組み込まれた大切な機能だったのでは?
例:急に激しい不安に襲われるパニック症、誰かと一緒にいないと不安でたまらない分離不安症も→周囲に助けを求め、生存する可能性を高める機能だったともいえる

精神障害とは、人が生き残るための能力の一部であり、その能力が暴走している状態のこと

・現代になじまない「機能の暴走」を止めるのが精神医療

ただし、それら精神症状は現代社会には馴染まないことが多い
例:不安になることが命を守るために必要←過度になれば外出できなくなったり、人と話すのが困難になったりする
失敗したときにはぁ鬱←落ち込みすぎては何も手につかない

現代の人間社会では、不安や落ち込み、うつ、依存など、本来であれば大切なはずの機能が暴走し、多くの人を苦しめて生きづらくしている
⇒精神医療が必要

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