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立ち尽くす背中

辿り着いた場所には、既に先客がいた。
ワインカラーのジャケット。
見知った相手が背中を向けて立っている。
舌打ちして足を進めようとした先を遮る黒い影。
「お前、オレンジ」
「大也の時間を邪魔しないでもらえるかな」
棒付きの飴をクルクル回しながら、玄蕃はニッコリする。
ただし、その目に笑みは無い。
「何故、アイツはあそこにいる」
「知らないね。
何も言わないからね、大也は。
ふらっとここに来ては、ああやってじっと立っている。
時間は長かったり短かったり様々だけどね」
油断なく見据えている目は彼を捉えている。
「向こうで、車の番をしている情報屋は知っているだろうが、それだって大也の口から聞いたことではない」


そう時間をおかず、大也は動き出した。
こちらを見ることもなく。
でもきっと気付いてはいるだろう。
思わず見送ってから視線を戻すと、玄蕃はいなくなっていた。
「アイツ…」
この場所に思い入れのある人間が自分以外にもいた。
そのことが彼を戸惑わせた。
「何故だ…」

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