あの日見た光

全てがどうでもよくなる時って、とても静かだった。なんの音もしない。今思うと、そんな感覚だった。遠い昔の私の話。目の前にある全てを壊したかった、私の。
そんなことできるわけがなかったけど。もちろん。
殺したいと思うくらい憎い人も、消えてしまえと思うくらい嫌いな人も、今でははっきり思い出せないくらい顔が霞んでいる。霞んでぼやけた人影...そんな幻覚に縛られている、滑稽な自分。そんな形のないものに壊された私。この気持ちだけはずっと覚えている。死ぬまできっと覚えている。そんなぐずぐずの思いを抱いていた私にも、光があった。過去の私にとっての光は「かわいい」だった。テレビの中で微笑むアイドル、豪勢なロリィタファッション、美少女系のアニメ。どれも私が持っていない「かわいい」を暴力的にまで、振りまいているものたち。永遠の憧れ。一生かかっても手に入らないもの。だからこそ、光が見えた。それらに触れている時は現実なんて忘れられた。私が見ている汚い現実から、一瞬だけでも目隠しをしてくれる。そういうまやかしがなければ私は闇の殻に閉じこもったきり出てこれなかったかもしれない。私は「かわいい」に生かされた。たとえ自分がそっち側になれなくとも。でもそれでいい。自分が暗い場所で燻っていて、その現実が容易く変えられるようなものでなても、光が当たれば少しは前が見えるから。憧れは憧れのままでいい。どうか、私の大切な憧れたちが、この先もずっと同じ綺麗なままでいられますように。

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