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押井守の『天使のたまご』に一目惚れした

この間、初めて押井守の『天使のたまご』を観た。

こんなに釘付けになったのは、『銀河鉄道の夜』を観た時以来かもしれない。

ストーリーはあってないようなもので、私が釘付けになったのはそのアニメの雰囲気だった。

誰もいない暗い退廃した街の中を、目がうつろな少女がただただ歩いたり走ったりする。

その少女も普通の女の子ではない。

髪の毛が真っ白で、お母さんやお父さんがいるわけではない。

透明の瓶が大好きなのか、誰もいないダークな街で透明の瓶を見つけてはその瓶の中にお水を入れてひたすら飲む。

なんのためにそんなことをしているのか全然わからないけど、ま〜るい繊細なビンの中に綺麗な水が流れていく音がなんかいいし、それを一人ごくごく飲む女の子の姿も神秘的なのだ。

温めているのか、ワンピースの中に白くて大きいたまごを常に抱えている。

たまごと水は何か関係あるのかな?って思ったりするけど、別にそこになんの関連性がなくたって構わないくらい雰囲気がストーリーを上回っていた。

ダリの絵とかジョルジオ・デ・キリコの絵画から感じる不思議な感覚を映像を通して感じられたらどんなにいいだろうと思ったことがあったけど、『天使のたまご』はまさにその願望を実現してくれている感じだった。

不思議な世界。誰もいない世界。誰かいたとしても、心を通わせられないような人たちがいるだけのさびしい世界。

実際にそんな世界に迷い込んだら寂しくて死んでしまいそうな世界でも、絵画とかアニメとかを通してなら怖いもの見たさで体感してみたいと思うような、そんな世界観を実現してくれていた。

そうそう、白い髪の少女以外に、中盤白い髪の青年が登場するのだけど、この青年がまたかっこよすぎるのだ。

彼もまたうつろな目をしていて、少女をじーっと見つめるだけ。

少女は初め怖がっていたけど、少しずつその青年に打ち解けていき、青年にしがみついたりしている。

青年といっても、彼もまた素性が全くわからない突然現れた人間だ。

十字架の形をした剣のようなものを常に肩に担いでいる。

体格はがっしりしていて、眼力もするどい。

口数は少なく、常にどっしり構えている。

彼に見据えられたら即座に恋に落ちてしまいそうな、そんなものすごい引力の持ち主だった。

結局、少女はなんのためにたまごを抱えているのか、それがなんのたまごなのか、なぜ街には誰もいないのか、なぜ街は退廃しているのか、青年は一体何者で、どこから来たのか......ということははっきりわからなかった。

でもそこがこのアニメの醍醐味なのだ。

「ちょっと見てみようかな」という気軽な気持ちで見始めたけど、結局最後まで食いつくように見てしまった。

ジョルジオ・デ・キリコの絵画のような不思議な世界観に浸りたいという方にはぜひとも見ていただきたい作品です!



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