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短編小説

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2021年12月の記事一覧

【短編小説】『ロボットのアニエスが好きになったのは、頭がはげたおじさんだった。』

ロボットのアニエスが好きになったのは、頭がはげたおじさんだった。 頭が綺麗にはげていたから、人混みの中でもおじさんのことを目で追うことができた。 そのおじさんの頭は、きれいにはげていた。 毛は一本もなく、太陽の光が当たるとだれよりも光った。 ときどき人混みに紛れて見失いそうになる瞬間もあったが、その日はお天道様が空高く照っている日だったから、おかげでおじさんの頭はピカッと光って、アニエスはいつでもおじさんの位置を把握することができた。 アニエスは、孤独な博士が生み出

【短編小説】星の夜

それは、寒い冬の日のことでした。 一人の女の子が、お気に入りの靴を履いて、外へと出かけて行きました。 「もうこの世界とはお別れにしよう。」 そう思って、森の中へと入っていったのです。 もう考えることなんてありませんでした。 悲しくもないし、涙も流れません。 感情なんて、とっくの昔になくしてしまった。 寒いと感じる感覚はまだ残っていたけど、それ以外に思うことは特にありませんでした。 「この辺でいいかな。」 たどり着いたのは、一本の木の下でした。 がっしりとし