第62話≪カナデの章⑬≫【piero/mascot/crown】―やっと『キミ』に出逢えたー

「今は‛内輪’で闘っている暇などない。でも、人間は‘外の世界'に一人勇猛果敢に闘うことを忘れ‘内の世界'での争いに必死だわ…。同じ民族で今は叩き合い潰しあうのではなく、今こそ手を取り合い一つの輪になることをどうかどうか思い出して…」

シマリスココをギュッと抱き締めてとめどなくあふれ出てくる涙や鼻水などの体液、嗚咽、どこまで内側からデトックスしてもしてもまだまだ溢れてくる。痛い、怖い、悲しい、辛い、せめてこの感情が断たれるのならばいっそのこと命を絶てば…
泣き疲れたカナデの脳裏に自殺企図がよぎる。その瞬間だ。

「#!シャー―――――プッ‼‼僕だ!!♭だ!!」

はっ。この声、そしてこれは…あの仲間…
脳内の漆黒の闇に一筋の光が差し込む。

「♭!!フラット―ーー!!うぅ…ヒックうぐうぅ…フラット――――‼‼#だよ‼ここにいる―――‼‼」

カナデは声の方向に向かって、腹の底から力いっぱい叫ぶ。泣きじゃくりながら、身も心も裂けそうな私をどうか知らない場所へ連れ出して、ここから知らないところに遠く遠く私を連れ去って…もう助けてお願い…

ツルが天井に向かって機織り機で織っていた長い白い布をバッと投げる。すると、白い布は巨大な鳳凰の形になり、天井に吹き抜けを貫通して「道」を創造する。
寒い外気とともに、カナデの目に白亜紀に繁栄、今は絶滅した巨大な翼竜プテラノドンとその背中にのった少年の姿が飛び込む。

「♭…フラット――――――‼‼」

大量の大粒の涙は零れ落ち、カナデは右手を夜空の方向へ懸命に伸ばして仲間の手を取ろうとする。
ソラの掌とカナデの掌は繋がり、二人は奇跡的に出会う。いや、偶然ではなくこれはまるで予知されていたかのように、必然の運命だ。二人の魂は次元を超えて共鳴し合う。

「ずっとキミのこと心配していた。ニュースをみてもキミの両親の捜索願いもないし、SSSでも応答ないし、キミの安否がわかってほっとしたよ」

ソラはかじかんだ凍えそうな全身でカナデの両手を握り絞める。

「ほんと心配かけてごめんね…ずっと音沙汰なしで…」

「ううん。なんか今のキミの様子みてるとそれどころではなかったのが容易に推測できるよ」

カナデの服からもそもそっと飛び出したシマリスココは宙にジャンプして空中で器用にくるんと一回転するとキトラ古墳の4神のうちの一体、朱雀に美しく悠々と変身する。

「其方たちが来ること、今か今かとずっと待っていました」
ツルはソラとプテラノドンのふくにいう。

朱雀が言う。
「あら、其方翼竜ではないか。ふふふ…私は不死鳥だからあなたたち恐竜が地球を闊歩していた時代が懐かしいわね」
プテラノドンのふくは言う。
「まぁ、僕は12干支の神の1番目でもあるが…不死身を求めてあなたを求め炎で焼き尽くされたものものたちの数はすごいものだ…まぁだからあなたの言う通り、そういうことにしておこうか」

カナデとソラは初めて出逢う。しかし、ずっと以前から、この地球【hoshi】に流れつく前からお互い知っていたような懐かしいようなこの不思議な記憶は二人のこれからの闘いの前の使命と困難をお互い再確認するようなもので、二人は固く口を結び無言で頷き合う。

「改めて自己紹介ね。私の名前はカナデ。私のパートナーは朱雀(すざく)。よろしくね」

「僕の名前はソラ。僕の相棒はふく。いつもは能天気なジャンガリアンハムスターだよ。…いや、変身してものほほんとしてるか…」

ツルは二人の様子をみていてそれから先ほど鳳凰に変身した白い布は再び元に戻り、しゅるしゅるしゅるとツルの身体を優しく包んでいく。

「では、カナデ様、朱雀。わたくしはこれまでにて失礼します」
するとツルはヒトの形からタンチョウのごとく鶴の姿に変身し、まるでコウノドリのように白い布に新しい命を乗せるかのように長い嘴(くちばし)で白い布をくわえると夜空の向こう、宇宙の彼方まで飛翔していった。

「さぁ、世界中で起きていることとSSSが交通してる。僕たちは今こそ結束し、協力しあって多くの苦難を乗り越えていかなきゃ」

カナデはソラの言葉に無言で頷いて固く決心する。
そして心の中で呟く。

(きっとキミの『クローン』もわたしの『クローン』の人間のように重要人物なんだろうね)

この残酷な現実は当面はソラに秘密にしておこう。そう思った。なぜなら、自分がその事実によるショックの大きさは計り知れないもので、大切な仲間を『失い』そうな気がしたから…

…そしてお互いの『大切なもの』を壊してしまいそうだったから…

夜空には沢山流星が美しく楽譜を描いていた。
『わたしの『オト』奏でて響け』
鈴の音、言の葉の音の庭、木琴の水玉、空から落ちてくる回想。

ぽとん。

ひとつ産まれる。

そしてはじまる。

そして…

もう二度と戻れない明日に今さよならをする。

これから私は、わたしをこの世に産み落とした両親から授かった名前の如く、世界中を美しいメロディーという色とリズムで綺麗に奏で【カナデ】ていく。

その先の『予言された絶望』は今の私には限りある命と時間の間は知らないふりしてgood-bye
…つき纏う終わりのない影には今の時だけはどこまでもどこまでもさよなら。

カラカラ震える清勾玉がぽぅっと蛍の光のようにカナデの胸元を小さく、でも優しく照らしていた。

泣いている風にさよなら。今、私は仲間と一歩踏み出す、新しい私の人生という軌跡に。景文(かげふみ)。

終わらないで。
ううん。
終わらせはしない。
夢や希望や未来はいつでも創造していくことができるから、限りあることと知っても私は諦めない。

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