小説×詩『藝術創造旋律の洪水』[chapter:≪カイ χの章⑤≫【scapegoate】ー破壊神ロキ現る地獄画ー第19話]
渋谷からレコーディングのために自宅の作業場スタジオに帰宅したカイにしっぽをふりふりふりして、おかえりなさい!!ワンワン!!とつぶらなお目めをくりんくりんさせて、人工知能ロボットのポメラニアンのまるが一生懸命嬉しいを身体全身で表現する。
「ふふっ。ただいま。まる」
まるをよしよしすると遊び相手にカイはなる。
「お留守番偉かったね。よしよし。ボール転がすよ~」
サッカーボールくらいの大きさの柔らかい生地でできた球をころんころんとまるの方向に転がすと、まるは一生懸命ボールに両手を乗せてころころ一緒に転がったり、カイとのボール遊びに大はしゃぎでくるくる嬉しいの表現のダンスをして、カイの顔をもっと笑顔にする。
カイの横にはまるがたたんだ几帳面にピシッとクリーニングに出したかのように乾いた洗濯物がふんわり羽毛のように積まれている。カイは部屋着に着替えると天真爛漫に遊びまわるまるを眺めているうちに、いつの間にか居眠りをしてしまった。
どのくらい経ったのだろう。目をこすりながら瞼を開けるとそこは知らない密閉された暗い部屋にいた。壁には無数のトランプが張り付けられている。エース、クイーン、キング、そして二本の角を持つ悪魔のような画が描かれたジョーカー。それらのトランプの眼が全てぎょろりとカイの方に視線を向けていて空間の不気味さを増している。
「はじめまして…かな?」
何処から現れたのか真正面には茨の茂みでできた椅子とテーブルが置いてあり、椅子には金髪で胸元に薔薇のような勲章が入った漆黒のスーツをまとう美青年が赤ワインを悠々自適に味を堪能している。
誰だ…?
カイは恐る恐る立ち上がる。
謎の金髪の美青年は「くくくく…」と微笑すると、カイに謎の言葉を投げかける。
「僕はキミの【父さん】だよ。女好きでだらしないプレイボーイ。って設定はどうかな」
カイは聞きたくもないワードを耳にして、別の人格が出そうになる。
その名前をだすな…
攻撃的なもう一人の自分と理性を保ついつもの自分が頭の中でライトに照らされた椅子の奪い合いを始める。
その様子を長い脚を組んで優雅にワイングラスをくゆらせながら、ゆっくり美青年はつぶやく。
レ メ オ ス メ イ カ
次の瞬間、カイの心の奥に閉じ込めていた過去の実の父親からの無数の虐待の嵐の激痛がハートを貫通し、フラッシュバックする。
「うぅぅぅぅ…」
カイは心臓あたりを狭心症患者のようにばくばくばく飛び出そうな動悸を必死に両手で抑える。
美青年はほくそ笑みながらまた謎の言葉をカイに投げかける。
「キミは実のお父さんとお互いを潰しあう奠【定め】の星に産まれているんだよ」
潰しあう?
なんだよそれ?馬鹿馬鹿しい。
デキる人間ってのは、どんなキャラクターの人間が来てもしっかり育てあげられるヒトのことを言うんだよ。そんな嘘と虚像と傲慢と腹黒さで塗り固められた偶像なんて…ピノキオみたいに鼻高々なそのプライドという名の鼻をぽっきりへし折ってしまってやる。
上に這い上がるために、自分よりも秀でた者が現れたら執着し、粘着剤のようにどこまでもどこまでもこっちが廃れるまで追いかけてきて、滅茶苦茶に破壊することを快楽とする病的サディスト。
憎いの?妬み?やっかみ?新しい才能や命、成長をどれ程破壊すれば気が済むんだ。僕はそんな歳だけくって自分の視点から『正論』という名の多数決で決まる真偽など漆黒の闇に溺れたどす黒い色の持論を容赦なく振りかざし、邪魔者を排除しようとするエゴイストの塊の人間が大っ嫌いなんだ。
攻撃的な二番目のカイがカイの魂から飛び出す。目はつり上がり殺気だったカイの姿は別人そのものだ。
「畜生っ!!!!馬鹿にしやがって!!!!!っざけんなっ!!!」
胸ぐらを掴んで【あの男】の陰影を散らせつかせる金髪の美青年の顔を殴り飛ばしてやろうと飛びかかる。
「相手の気持ちにたって物事を考えられないお子様だ。」
思いっきりぶん殴った拳は空振りだ。くそっ、何処だ、黒い【霧】よ。
「‛鬼さんこ~ちらっ‛」
天井を見上げると余裕綽々で逆さで立つ黒い【存在】。
「失せろ、失せろっていってんだろっ!!!!イカサマが!!目の前からうせやがれぇええええぇええ!!!!!!!!」
力の限り怒鳴り声を上げる。
「キミは何と闘っているんだい?」
え…
僕は…何と闘っているんだ…?
にぃっと不気味に微笑する謎の黒の【意識】。
「キミは何故そんなに僕のこと、怖がるのかなぁ~。心理戦だけでキミの息の根を止められそうだ。くくくっ」
頭にキーンと頭痛が走り回転性眩暈の如く部屋がぐるぐるぐる回り出す。酔ってしまいそうだ。立つだけでも精一杯だ。くらくらする。
ストンとその黒い【呪われた影】はうずくまるガクガクと全身を震わせ、冷や汗、頻呼吸のカイの首元に左の指先から飛び出した鋭利な細い毒針を突き刺そうとする。
「バイバイ。世界一の音楽の王様」
邪悪な黒い【魔物】は眼を赤くさせ、牙をむきカイの頸動脈を裂こうとする…その瞬間
ドンッッッ!!!
「…何?」
黒い【悪】の身体の真ん中に大きな穴が開いてどす黒い体液がドロドロ流れ出していく。
「ロキ!!!政府第7諮問機関直轄ドクターのハルだ!!!その男を放しなさい!!!」
政府保安部からEmergency! HURRY UP!!と緊急警報を受け、次元の窓を超えて、ドイツから東京に異次元着陸したハルが窮地のところに間に合う。
巨大な特殊なマシンガンでロキの身体に正義の魔法がかかった銃弾を狙い撃ちする。
ダダダダダダダダダダダダ
銃声の音が連続する。
「おやおや…TEU【蝶】様の降臨か…アッチャ~僕の美形が台無しじゃ~ん」
内臓がドロドロ溶けて流れ落ちているのに、ヒトでないモノのロキはハルの攻撃に全く動じていない。
「大災厄の大罪で捕獲する!!」
ハルは短パンののピンクのケーブルのスイッチを押すと、ピンクのケーブルがひゅんっひゅんっとロキの身体にまとわりつきグルグルに巻き付ける。
「捕獲完了!!」
ハルは政府の保安部に無線ケーブルで連絡を入れると、右手で空中をすぱっと切る仕草をすると次元を超える窓がぱっくり空中にできる。捕えたロキを然るべき【誰も行ってはならないあの場所】に一刻も早く閉じ込めなければならない。
パニック発作で意識朦朧のカイは、突然目の前に現れた名前も知らない毅然とした強く美しい女性に目を見張る。
キミは夢の中の……
「うぅ…」
カイの意識はここで途切れ床に崩れ落ちる。
ロキは「ふ~ん」とつまらなさそうな顔をすると、舌を蛇のようにチロりと唇を舐め、「またね、お嬢さん」と黒い煙になって瞬く間に消えてしまった。
「しまった!幻覚の魔法にかかってたのね…くっ」
ハルは悔しい思いから目の前に倒れている銀髪の青年に走り寄る。
「このヒト…」
とくん
なんだろう。初めて会うはずなのにもう何度も出逢っては離れ離れになってまた出逢ってはの…この不思議なDéjà Vu。けれども、今はこの青年の救命処置が必要だ。ハルはカイを救護室へと運ぶ…
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