小説×詩『藝術創造旋律の洪水』[chapter:≪カナデの章【piero/mascot/crown】③≫ーキミはいじめについてどう考える?【後編】―第17話]

違う話題…?
よくわからない感情で渦巻く胸。はやくここから脱兎のごとく走ってエスケープしたい一心なのに、両手はしっかり頑丈で大きな温かい手のひらにがっしり掴まれている。それからユウヤ先輩はすっとカナデの二の腕に大きな手のひらを滑らして頭に載せている顎をカナデの耳元にずらして呟く。

「このお話はね、カナデちゃんにしか理解してもらえないと思うんだ。だから、もう少し一緒にいてもらえると嬉しいな…もう少しだけ一緒にいてもらってもいい…?」
私にしか理解できないってどういうことだろう?

かちんこちんのカナデはおずおず「はい…」と答える。
また二人はベンチに腰掛ける。ユウヤ先輩は夕暮れ時の太陽が西の遠くのビル群の方に沈むのを眺めながらお気に入りのキーホルダーについているマスコットのピカチュウを優しく撫でる。

「カナデちゃんはどうして僕がゲームを創る会社に就職したと思う?」

カナデは少し考えてから答える。

「…素晴らしい会社だし、先輩の本領発揮できる場所だから…でしょうか?」

「そっかぁ…へへへ。素晴らしいって言ってくれて有難う。僕、幼い頃さ、変り者だからずっといじめられててね、今よりも背はずっと低かったし喧嘩も弱いし、いつも仲間外れだったんだ。そんな時に出逢ったのが、クリスマスプレゼントに親に買ってもらった一台のゲーム機。現実世界ではいじめられっ子の僕でも、ゲームの中では強いヒーロに変身して、悪者をやっつける。そのころの僕にとっては嫌なことばかりの現実世界から逃避して自分を解放できて活き活きできる居場所だった。」

…居場所。カナデは私もだ…と心の中で呟くと同時に先輩の意外な過去の話に目を丸くする。
太陽みたいに明るくて人気者の先輩にそんな過去があるなんて誰が想像しようか。

「こんなにも優しい先輩を苛める人間なんてなんて酷い…」

「別にいいんだよ。過去に執着してたら前に進めないしいいことなんて一つも無いから。だけど、今の僕の原動力の源はルーツを辿るとその過去が大きいんだよね。視力が低下するからってお母さんに何度もゲーム機取り上げられたから、布団の中に潜り込んで隠れてゲームしてたよ。だからコンタクト外したら視力は両目とも裸眼じゃ0.01だよ」

先輩とカナデは微笑ましいストーリーに一緒に笑いあう。

「僕は『一流』になろうっていう志があるんだ。昔はどうだか知らないけれど、今の日本ってみんなおんなじじゃないと駄目みたいな暗黙のルールがあるだろ?創作の世界はすごく自由で童心に戻って、童心の純粋さを忘れずに面白いとか楽しいとかわくわくどきどきの感情を自分以外の第三者に発信したり共有したりできるよね。僕は誰にも発想できないような面白くてわくわくすることで世の中を明るくする『一流』のオンリーワンになるっていう野望があるんだ。へへへ。このお話は僕とカナデちゃん二人だけの秘密だよ」

そういってユウヤ先輩はカナデと指切りげんまんをする。

「それ私もすごく共感できます。日本って欧米諸国と違って、個人より集団を優先しますよね。島国独特というか、本音と建て前っていうのも日本だけだと聞いたことがあります。外国人も日本の陰口は理解できないんだとか。」

「そうそう。そうなんだよ。だからカナデちゃんはすごいんだよ。人と違うオリジナルな個性があるから。その個性を大事にしなきゃ勿体無いお化けに食べられちゃうよ。僕、カナデちゃんの作品を初めてみた瞬間、その世界観に一目惚れしちゃってね、どういう子なんだろうって人に聞いてあの子だって教えてもらって。カナデちゃんが入学した時からあの子可愛いって噂になってた。でもカナデちゃんの一番素敵なところは外見じゃないよね。でっかい大物になれるような才能がずば抜けて突出している。少なくとも僕はカナデちゃんの作品はどれもこれも心底惚れてるし、作品って創作者そのものだから、僕はカナデちゃんが大好きなんだろうなっていう確信は実際に会って会話したり、カナデちゃんの姿を遠目でみてたりして益々強くなったなぁ。」

またしても告白の婉曲表現な先輩の言葉に、カナデは恥ずかしくなって赤面してもじもじ下を俯く。そんな風にみられてただなんて…何にも考えずにずっと尊敬できる先輩として慕っていたのに、これじゃ明日からはどう先輩に接していけばいいのかわからなくなってしまう。

「だからね、カナデちゃん。カナデちゃんに酷いことを言ったりやらかす人間なんてね、本当はカナデちゃんの大ファンなんだよ。羨ましくってたまらないんだ。大好きの反対は無関心。大嫌いは対象となるものに執着してる。でもその執着心って突き詰めると、相手と自分を序列化しないと気が済まないある種の僻みっていうねちっこいある種の病気なんだよ。カナデちゃんに酷いことする彼女彼らは、暇で自尊心がとてつもなく低くて劣等感のコンプレックスの塊だから、自分より秀でている人間の存在を攻撃しないと自分の価値が見いだせない貧相で可哀そうな生き物なんだよ。創造力豊かな人間は次から次へと発想がでてきて、他人を貶めたり馬鹿にしたり傷つけたりすることがどれほど低俗で無価値でどれほど大切な時間の浪費することかよく理解できているから。」

カナデはユウヤ先輩の一言一言に心から共感できるので、自分の心の奥でくすぶっているもやもやしたものが綺麗にクリーニングされていく感じである。

「だからね、僕は愛する女の子がひどい目にあっているのをほっとくわけにはいかないし、かといって四六時中べったりカナデちゃんの隣に居たいくらい大好きだけど、そういうわけにはいかないからこれは僕からのおまじないだよ。何か理不尽なことされたりしたら、気高く、自分の自尊心を決して低くしないように、自分の守り方を学んでいくんだよ。人間って字は『人の間』とかくだろう?人と人との間に産まれて人と人との間で成長する生き物だからね。カナデちゃんの今被ってる実害から自分を上手に守る術を身に着けるんだよ。嫌なこといってくる相手に見えないように忍法隠れ見の術!みたいにね。」

先輩は伸びをしながらとてもかっこいい顔からのほんわか優しいスマイルでカナデに朗らかにこういう。

「世界からいじめなんてなくなればいいのにね。そんなことで今もどこかで独り孤独に泣いている誰かの心の拠り所、処方箋みたいな空想世界を僕は創っていきたいな…いじめの四層構造なんてなくしちゃうんだ」

「やっぱりユウヤ先輩は素晴らしい師匠です…」
カナデは感動のあまりまた鼻の先を赤くしてポロポロ溢れてくる涙をせき止められず手で拭う。

「わわわ。僕の大切な人を泣かせてしまった。ごめんね、カナデちゃん」

カナデは首を横にぶんぶん振り「ううん。先輩の言葉に感動しちゃって…」と素直に自分の思っている言葉を並べる。

「でも人の顔は人生の履歴書、体形は日々の生活習慣っていう偉人の言葉があるように、カナデちゃんはとってもあどけない顔してるのは、きっと子どもみたいな純真で天真爛漫な小動物みたいな性格が滲み出ているんだろうね。カナデちゃんはカヤネズミに似てる」

そういってユウヤ先輩は「キミに決めた!」とカナデの頭をよしよしなでなでする。

「この世の中は自業自得、我田引水で回っているから、きっと悪いことしてる人間には一時良くてもそれ相応の災いがスランプなりなんなりブーメランで返ってくるし、そんな人間のことに自分の大切な時間を明け渡すとかバカバカしいからほっといてもほっといても五月蠅い相手にはガツンと一撃をくらわす要領で行くんだよ。やられっぱなしだとどんどんエスカレートしちゃうから。然るべき場所に相談したり、牽制の意味も込めて大きな組織が自分の護衛についていると警告するとかね」

気が付くともう真っ暗で梅田のビル群の灯りやイルミネーションが眩い時間帯だ。

「いけないいけない。こんな可愛い女の子を夜道歩かせるなんてあるまじきことだから、家まで送っていくよ。その前にアドレス交換できたらうれしいな」

カナデははわわわわとたじろぎ、「ひとりで大丈夫です!貴重なお話!本当にありがとうございました!!!!」といって飛び上がる。

「アドレス交換もまだはやいかぁ」

ユウヤ先輩は髪をくしゃくしゃとしながら照れ笑いするとふわっとカナデを柔らかく抱き締めて、呟く。
「カナデちゃん、僕の話、一生懸命聞いてくれて有難う。返事はいつでも待ってるよ。焦らなくていいからね。誰よりもカナデちゃんのこと、一途に愛してるよ」

ユウヤ先輩の身体はおおきくてもこもこしてて森の熊さんのようにあったかかった。

いただいたサポートはクリエイターの活動費として使わせていただきます。