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第29話≪カナデの章⑤≫【piero/mascot/crown】ー歴史を遡り【坂登り】飛鳥【明日香】へー

立派な人間ってのは相手に合わせて「目線」をフレキシブルに上下させることができる者。
常に私は相手と同じ「視線」の高さに合わせてコミュニ―ションできる人間でありたい。

上から目線、押しつけがましい、傲慢。
萎縮、怯え、謙虚さとは建て前の仮面。

上/下、優/劣、善/悪。

私たちはみなお互いの「存在」を、お互いの「オリジナリティ」を、お互いの「色彩」を、お互いの「創造」を、そしてお互いの「artwork」を尊重しあって手を繋ぎあう、そんな未来、何処までも透明で凍てつく氷の上をチャイコフスキーの白鳥の湖のバレエの如く私は滑らかに滑っていく…

未だ朝日の昇っていない朝4時。吐く息は真っ白。足先と指先がかじかみ、しもやけになりそう。

「友達と旅に出かけてきます」
と一言、ちぎった紙にボールペンで書き、居間の机の上におき修学旅行並みの荷物をかかえる。

シマリスのココもゆったり安心して電車に乗れるように、防音効果および防振動、保温効果のある特殊なアニマルケースに温かい毛布をつめて、水と食べ物もしっかり、ココが気持ちよく快適に過ごせるようにして上から寒くないようにまたもこもこのガウンでアニマルケースを包み、右手に数日間泊まる場所がなくてもなんとかできるようなものを詰め込んだバッグ、背中にはキトラ古墳の四神、玄武、青龍、白虎、朱雀の壁画、そして星宿図の描かれたリュックサックを背負って、そっと家を出る。
仕事にくたびれてる両親は大きないびきをかいていてカナデの「出向」には全く気付かず。

カナデは家を振り返ると心の中で呟く。

「私はもっともっと広い世界を知りたい。私らしい生き方を探し、私らしさを模索。いってきます」

旅のプロローグ。
それはあるきっかけ。
それは私の一歩踏み出した勇気と衝動と激動の心のシャウト。

お年玉やお小遣いを地道に貯めたお金と地図、運賃と睨めっこして金銭的なことはなんとかなる筈。
たぶん…

阪急地下鉄堺筋線で日本橋、そこから近鉄奈良線に乗り換え、大和西大寺駅で樫原神宮行きのホームに乗り換える。近鉄大和西大寺駅かカナデの知らない間に、とても天井の高く、ガラス張りの贅沢な空間のカフェができているのにびっくりする。しかも大阪より安いのにパンはとっても美味しい!

やっぱり奈良私にとっての最高の場所だ…!
カナデは焼き立ての紫芋団子パンやふかふかのクリームパンを笑顔で頬張りながら、樫原神宮駅行きの電車に乗り込む。あれ?私が大阪に引っ越しする前はこんなにクラシックな内装だったかなぁ…
京都っぽくもないし、宝塚線でもない、重厚な灰色の色調のシートに座る。電車の振動は人間でも酔うのに、五感の発達した動物たちにとっては地獄の監獄のようなもの。
カナデはこういうのに詳しい♭に振動の知識、防音するにはどうしたらいいか、耐震のことを沢山教えてもらいながらも、ココのために一生懸命快適に乗り物に一緒に乗れるように、日曜大工などの製品がそろっているホームセンターで材料を購入してきて、♭の指示通りに頑張ってアニマルケースを作ったのだ。
ココの様子が見えるように、透明の四角い小窓からケースを覗くと、ココは木の実をしっかり抱いてスヤスヤ、冬眠ではないが小さな体を呼吸のリズムに合わせて横隔膜の上下運動を可愛らしくしながら、静かに寝ている。

ココの姿ににっこり微笑むカナデ。ココ、今から、ココの故郷のような大自然の木霊達に逢いに行くからね。
樫原神宮駅までの大和路線で、薬師寺と天平文化を伝える唐招提寺金堂のある西ノ京駅、奈良県立医大のある八木西口駅、日本一の金魚の養殖を誇る大和郡山駅、そして京都・奈良・和歌山を結ぶ高速道路の下に広々とした田んぼ。

はぁ…これだよ…これが私の故郷だよ…

カナデは車窓から見える平城遷都、飛鳥時代、古墳時代のロマンに心を感動のような感情で震わせながら思いを馳せる。
樫原神宮駅に降り立って、一時間に一本しかないバス停にココをびっくりさせないようにアニマルケースを両手で大事に抱えながら時刻表をみる。

あ…あと50分待ち…

レンタサイクリングの優しい目尻のおばあちゃんが自転車に乗っていったら?と声をかける。でも、険しい坂道のことを思うと自分の足と体力を信じ、カナデはレンタサイクリングのおばあちゃんに「ごめんなさーーい!また今度!」と返事する。


こうなったら、飛鳥駅にいこう。

近鉄の時刻表と路線図をみる。飛鳥駅は樫原神宮駅の次の次だ。
カナデは吉野行きの普通電車に乗り込む。
吉野は春【ハル】、桜【/SAKURA】の時期に訪れる人すべての心に淡い優しいハートの色を柔らかく溶かし、そして桜の花弁は祝いの印。
吉野の葛餅、吉野葛を練り込んだもっちりもっちもっちでつるんとしたのど越しのとびっきり美味な吉野うどん。古代ロマンを詰め合わせたような美しい吉野の桜に紅葉を象った可愛い干菓子、葛の元祖「八十吉(やそきち)」の「静ごのみ」は食べるのが勿体ないくらいの藝術工芸和菓子。
吉野の郷土料理といえばやっぱり川魚。春ならアナゴ、夏なら鮎。串焼きや季節感たっぷりの風流な料理がそろい吉野川の命の恵みを手を合わせて頂く。秋から冬はイノシシなどの山の滋味豊かな料理を味わえる。
吉野には奈良時代に栄えた修験道の根本道場、奈良の東大寺に次ぐ大きさを誇る奈良時代の金峯山寺、源頼朝、義経、後醍醐天皇の南北朝時代の物語が流れる吉水神社や白川上皇が参詣した宿坊の東南院など南北朝時代や鎌倉時代歴史が味わえる。

吉野もいいけど商店街ブラブラはやっぱり春かなぁ…観光客でごった返してるのは苦手だけど…

吉野のことを脳内に巡らせているとあっという間に飛鳥駅!!!

カナデは、興奮ではわあああああああ!!!と駅の改札をくぐり、飛鳥時代の古代の時の音を奏でる明日香村への入り口が目の前に一気に視界が広がる。

「わぁあああああああああ!!!!ココ!ココ!飛鳥【明日香】だよ!ほら!ココが変身すると朱雀になるでしょ?ココを描いた壁画があるキトラ古墳もあるし…!!ココの大好きなどんぐりも山菜も南天も明日香ルビーも明日香ベリーも、いーーーーーーっぱい!!いっぱい!!!の楽園だよぉおお!!!」

ココも目の前にバッと開けた壮大な「故郷」にぴょこんぴょこん嬉しすぎてアニマルケースからひょこっ!と顔を出し、カナデをぱぁぁぁぁぁッと輝かせるつぶらなお目め興奮するカナデの身体をすばしこく登り、いつもの定位置のカナデの左肩にチョコンと乗る。
カナデの旅はまだ始まったばかりだ。

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