第27話≪ソラの章④≫【lost-one】ー僕/私たち人間は地球の恵みと営みの破壊を止められないのか【前編】ー

朝8時。ソラは大きめのサイズのリュックサックにスコップと金槌、鉄杭、軍手、虫眼鏡のようなルーペ、小型簡易版電子顕微鏡、様々な岩の種類が載った図鑑に恐竜の図鑑、野宿用の保温シート、ランプ、カイロ、方位磁針、一眼レフカメラ、三脚、ミニチュア天文観測機、赤ペンや青ペンで沢山メモが書き込まれた地図、文房具などをテキパキ詰め込み、荷造りする。
ソラは暇を見つけては誰もまだ発掘していない場所を探し、青春18切符と自分の体力と足と粘り強い根性を頼りに未知なるものを発掘しに探検に出かけるのが趣味の一つだった。遺跡だったり、貝塚、琥珀の石、不思議な自然の造形、化石、謎めいた草花、そしてもう絶滅したとされていた動物。

新潟から電車で一本のJR福井駅から京福バス越前線勝山行き「勝山駅」で下車すると福井県立博物館で恐竜たちを楽しく、学習することができる。ソラは一人でこっそりそこへ行くうちに、自分もカンブリア世紀のような、紀元前より前の地層から僕だってなにか誰にも知らず何億年も眠るものを発見することがきっとできる筈だと信じ抜いていた。

ソラはもし時空を超えてテレポートでもできるのであれば、今すぐにでも地球最後の秘境と呼ばれるギアナ高地とアマゾン川流域のジャングルにすっ飛んでいきたい気持ちで山々だった。
ギアナ高地は秘境マニア、世界遺産のファンならば誰もが知るまさにそこはRPGの世界、天空のラピュタ、コナン・ドイルの『失われた世界【ロストワールド】』舞台にもなった今から5億4000万年以上より前のカンブリア爆発の起こった世紀時代の地層や岩石、水晶、独自の進化を遂げた動植物が生きる地球最後の秘境と呼ばれる場所である。

ソラは目をつぶり空想に浸る。

日本から最短で19時間30分。地球のほぼ裏側にあるベネズエラの首都カラカスから飛行機でプエルト・オルダスに向かい、そのあとプエルト・オルダスからセスナ機に乗り込みカナイマ国立公園入口のカナイマへ向かう。最後の秘境なので、観光客を狙うスリやぼったくりタクシーの運転手から襲われずに身の危険は自分で守る。空からのセスナ機から見える断崖のテーブルマウンテン、アウヤンテプイの標高は約2500m。ソラの鼓動はドキドキワクワクアメージングで高揚する。原住民から「プリプリ」と呼ばれる刺されると痒いレベルを超えてものすごく痛い蚊のような生き物の大群に襲われながらも旅のお供の原住民と一緒に野宿を過ごす。朝日が昇ると異国の地の野鳥のせせらぎと眩しい白光で眠りから目を覚ます。さぁ、ジャングルに挟まれたカラオ川とチュルン川をボートに乗ってエンジェルフォールの起点となるラトンシート島を目指す。
ずぶ濡れ覚悟で水着を着こんだアウトジャケットの上に滑りにくい靴で原住民とボートに乗り込む。


どごおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!


鼓膜を突き破る勢いの轟音の瀑布に早速ボートの上の人間は容赦ない滝の飛沫で全員頭のてっぺんから足のつま先までびっしょびしょ。巨大な大自然の前では人間なんぞちっぽけな存在であることを思い知らされる。しかしそれでも懸命に冒険者たちはボートを漕ぐ。さぁ、やっとラトンシート島がみえてきた。ソラと原住民は全身どしゃぶりの髪やジャケットを雑巾絞りし、靴の中の泥水を捨てる。そしてこれからのロマイヤ山の断崖絶壁、命をかけた本格トレッキングに備えてジャングルの中のキャンプ場で現地のジャングルの熱帯気候で育った大きな植物の葉の皿の上にバーベキューのような設備で焼いて作った食べ物やコカ・コーラを飲んだりして英気を養い、大木と大木に掛けられたハンモックに揺られながら一晩眠る。鬱蒼としたジャングルから夜行性の動物や鳥、蝙蝠が活発に動きまわる音が聞こえる。メガネザルがききっと器用に木登りやブランコをして遊ぶ。遠くの方から獣の遠吠えが聴こえる。
日本とは違う夜空はとても神秘的だ。幻想的な異世界にうっとりするソラだが、虫よけ対策に携帯式蚊取り線香を焚いていても耳元にプリプリと思しき虫が顔を狙ってなかなか熟睡はできない。夜が明けると同時にいよいよジャングルの中を原住民の案内の後に従い、虹のかかる水量がダイナッミクな滝でまたしても旅の一同はずぶ濡れになるが、これこそが冒険だとか根を吐くなんてみっともないぜと勇猛果敢に黙々と雲の上に見える原住民の言葉で『悪魔の山』を意味するアウヤンテンプイの麓に辿り着く。
天候はめまぐるしく変わり、ただでさえ滝でずぶ濡れの一行はスコールのような激しい雨に全身打たれ、それでも標高2810mに頂上めざして命がけのトレッキングコースの開始だ。足の踏み場もなく、足を乗せると崩れてゆく果たして足場といえるのか、そんな場所を一同は胴体に安全ベルトを巻き、墜落したら最後、鉄杭を岩場に打ち込み、握力と腕力と全身全霊で断崖絶壁から落ちないようにソラは食いしばりながらも、生と死の狭間の場所で己の集中力をマックスにする。
「絶対に頂上に着くまでは下をみるなー!!」案内人の原住民が声を張り上げる。
昔は1937年のパイロット、ジェームズ・エンジェルが偶然発見するまでには人の者は誰も踏み入れなかった場所。
何万何億という悠久の時の流れとその言葉では表現できない畏怖の営みとみなぎる天と地のエネルギー。
その前でのヒトとはちっぽけな存在であり、日々の悩みなんてなんて滑稽で比較できるような大きさでないことが身に染みてわかる。
ソラの呼吸は標高が上がるにつれ、高山病のような酸欠状態で意識は一瞬でも集中が切れれば遠い世界に引きずり込まれる状態になっていき、喘ぎ呼吸のような苦しみを覚える。
今、僕は地球と一体になっている。
充血した瞳に血走る炎。僕の遥かなる夢を掴みに、あともう少しだ!と旅の一同声を掛け合う。足場が崩れ、片手で握る鉄杭に宙ぶらりんになる。


「くぅうううううう」

ソラありったけの力と運を込めて1.5m先の足場に体を振り子のようにして反動で無事着陸する。
「よくやった少年!」原住民とガッツポーズ。雲海に浮かび上がるロライマ。
するとようやくエンジェルフォールを真下に臨むことができる天辺に辿り着き、一同は雲の上で感動に打ちひしがれながらも、カンブリア世紀の地層に辿り着いた喜びに浸る。

ソラはハッとすると青春18切符で乗り込んだ電車はいつの間にか四国入りしており、やなせたかし氏の故郷高知県へアンパンマン号に乗っていた。

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